1. トップ
  2. エンタメ
  3. 描かれた猫たち。日本の猫漫画の変遷を辿る

描かれた猫たち。日本の猫漫画の変遷を辿る

  • 2024.12.13
『もーれつア太郎』赤塚不二夫/著、『綿の国星』大島弓子/著、『What's Michael?』小林まこと/著、『ゆず』須藤真澄/著、『くるねこ』くるねこ大和/著、「家猫ぶんちゃんの一年」真造圭伍/著、『うちの猫は仲が悪い』谷口菜津子/著
BRUTUS

監修:倉持佳代子(京都国際マンガミュージアム学芸員)

歴史は100年!日本の猫漫画の変遷を辿る

江戸時代の浮世絵に登場する化け猫のように、猫は長らく不気味なものとして描かれることが多かった。1930年代以降には『ネコ七先生』『火星探検』といった作品に言葉を話すかわいい猫が登場するものの、怪奇的描写は戦後の貸本漫画に継承されて多数の作品を生んだ。この潮流は少女漫画に接続、『ねこ目の少女』などのホラー作品が登場する。

60年代にはまた、『もーれつア太郎』のニャロメなど個性的な猫キャラも活躍、やがて社会現象にもなっていく。70年代、動物愛護法成立前後からのペットとしての地位向上を反映してか『にゃんころりん』などかわいい造形のキャラが現れるように。大島弓子によって発見された「猫耳」は記号化された漫画表現として定着し、次第に萌え要素として漫画界に浸透していく。

また『アタゴオル』などのファンタジー作品でも猫が重要なモチーフに。『What's Michael?』をはじめ、80年代には勝手気ままな猫の姿が人気を呼ぶ。90年代に入ると、飼い猫との暮らしを描く猫エッセイ漫画が増え一大ジャンル化した。

WEB配信からスタートした『きょうの猫村さん』、個人ブログ発の『くるねこ』などが登場するのが2000年代。続く10年代のSNSの発達は『夜廻り猫』や『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』などのヒット作を生み出した。

コロナ禍を機に猫ブームが再燃した20年代は、もし猫が~だったら、人間が猫だったら、という設定がSNSを中心に人気を集めている。

年代別、猫漫画

1960年代

『ねこ目の少女』楳図かずお/著
『ねこ目の少女』楳図かずお(1965年) 江戸時代と現代を猫の怨念で繋ぐ化け猫×少女ホラー。「戦後流行した怪奇猫ものの流れを汲んだ楳図先生初期の代表作です」(倉持、以下同)。全1巻/小学館クリエイティブ。Ⓒ楳図かずお/小学館クリエイティブ
『もーれつア太郎』赤塚不二夫/著
『もーれつア太郎』赤塚不二夫(1967年)脇役として登場したニャロメが、やがて赤塚作品に欠かせないキャラに。「殴られても投げられても這い上がる強さで当時の学生運動のシンボルに」。全9巻/竹書房文庫(竹書房)。Ⓒ赤塚不二夫『もーれつア太郎』竹書房刊
undefined
『いなかっぺ大将』川崎のぼる(1967年)<br>青森から上京してきた少年が、トラ猫を師と仰ぎ柔道修行に励む。「二足歩行で言葉も話すニャンコ先生が主役をしのぐ人気者に」。全4巻/ゴラク・コミックス(日本文芸社)。

1970年代

『にゃんころりん』ところはつえ/著
『にゃんころりん』ところはつえ(1971年)2頭身のにゃんこと動物たち、飼い主のどたばたの日々を描く4コマ漫画。「主人公は週刊マーガレットのマスコットになりました」。全4巻/マーガレットコミックス(集英社)。
『アタゴオル』ますむら・ひろし/著
『アタゴオル』ますむら・ひろし(1976年「言葉を話す猫と人が共に暮らす世界のファンタジーです」。主人公は道具を操りゲームに興じる猫ヒデヨシ。4シリーズ+外伝も。全10巻/MFコミック(KADOKAWA)。
『綿の国星』大島弓子
『綿の国星』大島弓子</strong>(1978年)人に捨てられ、拾われ、いつか人間になれると信じるチビ猫の物語。「少女に猫耳をつけるという画期的表現は現在にも受け継がれています」。全4巻/白泉社文庫(白泉社)。Ⓒ大島弓子/白泉社

1980年代

『What's Michael?』小林まこと
『What's Michael?』小林まこと(1984年)動くものを追い、失敗を踊ってごまかし、驚いては尾を膨らませる。猫の生態と気ままな姿を描く。「猫あるあるが詰まったギャグ漫画です」。全5巻/講談社漫画文庫(講談社)。Ⓒ小林まこと/講談社
『ねこ・ねこ・幻想曲』高田エミ/著
『ねこ・ねこ・幻想曲(ファンタジア)』高田エミ(1985年)月に授けられた特別な力で、人の姿に変身できる黒猫のシロ。「少女の姿で猫の行動をとり騒動を巻き起こします」。全16巻/りぼんマスコットコミックスDIGITAL(集英社)。Ⓒ高田エミ/集英社
『ふくふくふにゃ〜ん』こなみかなた/著
『ふくふくふにゃ〜ん』こなみかなた(1988年)「三毛猫から見たとりとめのない日常が描かれます」。猫が発する声やオノマトペ以外の文字表現が抑えられ猫視点を堪能できる。4シリーズ。全12巻/BE LOVE KC(講談社)。

1990年代

『ゆず』須藤真澄
『ゆず』須藤真澄(1992年)猫を迎え、散歩し、自由な振る舞いを受け入れ、心配もする。「猫との生活を綴るエッセイ漫画です」。続編に『ゆずとまま』『長い長いさんぽ』。全1巻/秋田文庫(秋田書店)。
『サイボーグ クロちゃん』横内なおき/著
『サイボーグ クロちゃん』横内なおき(1997年)老夫妻と暮らすクロがサイボーグに作り替えられ、街やジャングルで大暴れ。「戦う猫という新たなキャラクター像が提示されました」。新装版全6巻/KCデラックス(講談社)。
『プ〜ねこ』北道正幸/著
『プ~ねこ』北道正幸(1997年)おしゃべりな猫たちが考えたり人に語りかけたり。「猫そのままの造形美と、猫が言いそうにないことを言うギャップがシュールです」。既刊9巻/アフタヌーンKC(講談社)。

2000年代

『きょうの猫村さん』ほしよりこ(2003年)
『きょうの猫村さん』ほしよりこ(2003年)家事は完璧、得意料理はネコムライス。家政婦として働く猫村さんの日々」。「猫村.jp」で毎日連載。『カーサの猫村さん』などスピンオフも。既刊10巻/マガジンハウス。Ⓒほしよりこ/マガジンハウス
『くるねこ』くるねこ大和/著
『くるねこ』くるねこ大和(2006年)猫の里親探しのために始動したブログで、現在も続編の連載が続く。「個人ブログからの発信がどんどん話題になっていった、時代を象徴する一作です」。全20巻/KADOKAWA。Ⓒくるねこ大和/KADOKAWA
『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』伊藤潤二/著
『伊藤潤二の猫日記 よん&むー』伊藤潤二(2007年)「大御所たちが次々に猫漫画を描く流れのなか、ホラーの手法で描かれた衝撃作です」。稀代のホラー漫画家によるギャグ全開の猫エッセイ。全1巻/ワイドKC(講談社)。

2010年代

『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』鴻池剛/著
『鴻池剛と猫のぽんた ニャアアアン!』鴻池剛(2014年)意思疎通できているようでできていない、猫と猫に振り回される人間の賑やかな生活。「今も続くブログの投稿がSNSで熱い支持を集めました」。既刊3巻/KADOKAWA。Ⓒ鴻池剛/KADOKAWA
『夜廻り猫』深谷かほる
『夜廻り猫』深谷かほる(2015年)「泣く子はいねが〜」と呼ばわる猫が、夜の街で涙の匂いを検知しては励ましたり見守ったり。「作家のTwitter(現X)で発表された人気作」。既刊10巻/ワイドKC(講談社)。Ⓒ深谷かほる/講談社
「家猫ぶんちゃんの一年」真造圭伍/著
「家猫ぶんちゃんの一年」真造圭伍(2015年)貧困や孤独死などの社会現象を背景に猫の姿を描く。「現代日本で猫を飼うことの意味を考えさせられます」。『休日ジャンクション』収録。全1巻/ビッグ コミックス(小学館)。Ⓒ真造圭伍/小学館

2020年代

『ねこに転生したおじさん』やじま/著
『ねこに転生したおじさん』やじま(2023年)会社員がハチワレ仔猫に。雇用主に拾われ家猫生活がスタートする。「SNS発の人気作。生きづらい社会であるがゆえに見出された表現だと思います」。既刊3巻/KADOKAWA。Ⓒやじま/KADOKAWA
『ラーメン赤猫』アンギャマン
『ラーメン赤猫』アンギャマン(2021年)「虎が麺を打ち、猫が調理、人間相手に接客もするラーメン店が舞台」。パートに採用された人間・珠子もここに居場所を見つける。既刊8巻/ジャンプ+コミックス(集英社)。Ⓒアンギャマン/集英社
『うちの猫は仲が悪い』谷口菜津子/著
『うちの猫は仲が悪い』谷口菜津子(2021年)<br>恋人の飼い猫との距離を少しずつ縮めつつあるところへ新顔の猫が登場。「猫と人、猫と猫の関係の繊細な変化をコミカルに読ませるエッセイ漫画です」。全1巻/KADOKAWA。ⒸNatsuko Taniguchi 2023

*併記してある年数は掲載作品の初出年です。

profile

倉持佳代子(京都国際マンガミュージアム学芸員)

くらもち・かよこ/展示企画などを担当。漫画原作を手がけた『マンガって何?マンガでわかる マンガの疑問』も2020年代の猫漫画。

元記事で読む
の記事をもっとみる