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月への静かなる情熱……大西卓哉宇宙飛行士単独インタビュー

  • 2024.12.5

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第393回)

先月の小欄ではJAXA宇宙飛行士に認定されたばかりの米田あゆさん、諏訪理さんにインタビューをしました。今回は宇宙長期滞在が目前の大西卓哉さん、早ければ来年2025年2月にもアメリカ・スペースXの宇宙船「クルー・ドラゴン」で国際宇宙ステーションに向かい、約半年間の滞在が予定されています。そして、滞在の後半、日本人としては3人目となる宇宙ステーションの船長を務めることも明らかになりました。

大西さんは多忙の中、日本に一時帰国する機会があり、記者会見、そしてニッポン放送の単独インタビューに応じました。11月27日、JAXA東京事務所で開かれた記者会見で「あす行けと言われれば行けるくらい」と自信を見せた大西さん、インタビューでは改めて心境をききました。

大西宇宙飛行士(JAXA東京事務所 11月27日記者会見後)
大西宇宙飛行士(JAXA東京事務所 11月27日記者会見後)

■「いい感じで仕上がっている」宇宙滞在、2回目の強み

(畑中)宇宙長期滞在を控えての心境と意気込みを改めてお聞かせ下さい

(大西)訓練は非常に短期間ではありましたが、みんなで力を合わせて充実した訓練を送ることができたと思っています。感触としてもかなりいい感じで仕上がっていると思うので、あと残り3か月ぐらい、さらにブラッシュアップしてチームワークも磨きをかけてミッションに望めればと思っています。

2回目(の長期滞在)ということで、宇宙で実際どういう仕事が待っているのかわかっている。それに対し、自分がしっかり準備できたかどうかが肌感覚としてわかっているというのは2回目の強みと思います。

(畑中)1回目のフライトから8年、何が印象に残っていることは?

(大西)一番大きいのはフライトディレクターとして、現場に関わり続けたこと。彼らの世界を理解できましたし、彼らから見た私たち宇宙飛行士の世界も見ることができた。自分が宇宙に行った時に、彼らと一緒に仕事ができるのは本当に楽しみです。

■「きぼう」で行われる様々な実験、実験装置は「かわいいわが子」

今回のテーマは「『きぼう』にできる、ぜんぶを」。日本の実験棟「きぼう」では様々な実験が予定されています。例えば、ショウジョウバエを使ったがんの治療薬の効果を確認する実験、「ゲートウェイ」と呼ばれる将来の宇宙の居住棟建設も視野に入れた二酸化炭素除去システムの実証など。その上で、大西さんが最も注目している実験は何でしょうか?

(畑中)大西さん自身が注目している実験は?

(大西)実験装置という意味では、静電浮遊炉、ELFというニックネームで呼ばれているが、それが一番楽しみです。自分が最初のチェックアウトにも携わった実験装置が、いまやもうフル稼働して、きぼうを代表する実験装置の一つと言って過言ではないと思います。ELFにもう一度携われるのは非常に楽しみです。

(畑中)最初はちょっと不具合もあった……

(大西)最初は結構苦労しましたね。どんな実験装置でも、微小重力って本当に特殊な環境なので、地上でどんなにしっかり設計したつもりでも、いざそれを微小重力で使うと、どうしても「こんなところがあるのか」というのが出てくる。それを何回も使ううちに、徐々に不具合をつぶしていって、洗練させていくというのが、継続して宇宙で実験をやっていくことの大きなメリットの一つ。静電浮遊炉は、まさにそのサイクルがうまくツボにはまったというか、いまは、本当に不具合らしい不具合は聞いていない。ほぼフル稼働という感じです。

(畑中)わが子のようなものですか?

(大西)そんな感じですね。宇宙飛行士として実際に操作もしましたし、フライトディレクターとして地上の運用もやりましたので、そういう意味ではかわいいですね。

(畑中)よくここまで育ったなと…

(大西)そうですね。

ELF(Electrostatic Levitation Furnace)と呼ばれる静電浮遊炉。微小重力の空間で材料サンプルを高温で浮遊させることのできる装置です。新材料の開発につながることが期待されており、これまでに2500 度を超える領域で⾼温液体の物性測定に成功する実績も挙げています。

インタビューに応じる大西宇宙飛行士(JAXA東京事務所)
インタビューに応じる大西宇宙飛行士(JAXA東京事務所)

■船外活動、月面着陸……将来を見据えて

一方、記者会見では国際宇宙ステーションが2030年ごろには引退する予定であることを踏まえ、自身の長期滞在は「今回が最後になると思う」と話していました。その上で「これまでの集大成になる」…残された時間できぼうという実験棟を使い倒すという意気込みが感じられます。今後、大西さんが目指すものは?

(畑中)昨年のオンラインの会見では船外活動への強い意欲を感じましたが…

(大西)そこは変わらないです。この1年間の訓練の中で一番力を入れて取り組んできたのは旋回活動に関する訓練でした。NASAに大きなプールがあって、その中で船外活動の訓練をやるのですが、いままで7回やりましたかね、その1回1回を毎回しっかり準備して、いろんな事前のイメージトレーニングを積んで本番の訓練に臨んで、そこで得た反省点をまた自分の中で次に生かして…みたいな一連の訓練のプロセスを踏んだ。しっかり手ごたえもありますし、ちゃんとした成績で訓練を終えることができ、資格の認定もいただいたので、自分の中で準備万端という感じです

1回目のフライトの時は、「船外活動ってすごいな、自分にもホントできるのかな」みたいな感じでしたが、いまは自信をもって「やれます」って言えるぐらい仕上がっていると思います。

(畑中)大西さんが将来を見据えたビジョン、心構えは?

(大西)宇宙ステーションのミッションというのは自分にとってこれが最後と思っていて、その先、例えばゲートウェイとか、月面でのミッションというのが、もし自分の年齢的に間に合うのであれば。ぜひそれを自分もやってみたい。そのために船外活動をやっているかどうかというのは、一つの大きな判断ポイントになると思います。

今回の長期滞在というのはもちろん宇宙ステーションのため、きぼうのために行うミッションですが、個人の将来に向けたビジョンの中で、船外活動は自分の中で次のミッションに向けたステップアップになると思っています。

(畑中)運が良ければ、月に……

(大西)そうですね、行ってみたいと思います

(畑中)改めてですが、人類はなぜ月に行くのか? 月面探査が必要なのか?そもそもなぜ宇宙に行くのか? 根源的な問いにはどう答えますか?

(大西)私の中ではごくシンプルにそこはとらえていて、人類はずっと自分が行ったことのない所に行くとか、知らないことを知りたいみたいな、そういった探求心をベースに進化してきた生き物だと思います。私たち人類は、どんなに今の生活が豊かで便利なものになっていても、新しい領域にチャレンジし続けるというのは、進化するために必要だと思うんですよね。それを止めた時は人類が進化のピークに達した時だと思います。宇宙開発は、人類にとってそういう位置づけのものだと思っているので、ごく自然なこと。行ったことがない所に行こうとしているのはごく自然なことだと感じています

(畑中)それは宇宙飛行士になってからそう感じたということですか?

(大西)私は昔から(人類が)月に行くとか、火星を目指していくということは、自分の中で全く疑問に思わなかったです。

インタビューに応じる大西宇宙飛行士(JAXA東京事務所)
インタビューに応じる大西宇宙飛行士(JAXA東京事務所)

■大西さんから見た「新米宇宙飛行士」の2人、そして、自らの立ち位置は?

米田あゆさん、諏訪理さんについても話が及びました。

(畑中)米田さんや諏訪さんとは最近どんな話を?

(大西)私がアメリカに行ってからはあまりお話しする機会がなくなったが、普通の話していることが多いですかね、最近訓練どうですか? みたいな話とか、こちらの近況の話だったり。機会があれば先輩らしいアドバイスしたいなと思いつつ、すごく彼ら自身が自分たちである程度解決できているなというのが見えるので、あまりそこは先輩だからこうどんどんアドバイスしなきゃとか、最初はそう思っていたんですが、「要らないな、この2人」っていうぐらい正直なところですね。すごく優秀な人たちだなと思います。

(畑中)世代の違いは感じますか?

(大西)感じますね。特に米田さんは2世代違うので、若いな、元気だなと思いますよね。おふたりそれぞれ個性的ですけど、すごく仲が良くて、少なくとも諏訪さんと米田さんの中にも二世代のギャップがあるんですが、傍から見ている分には、兄妹みたいな感じで仲良く「すわっち」「よねださん」という感じで仲良くやっているなっていうのが見てて、頼もしいですね。

(畑中)大西さんと油井(亀美也)さん、金井(宣茂)さんの関係とはまた違う……?

(大西)またちょっと違うかもしれないですね。私たちは私たちですごく仲いい関係を築けていると思いますけどね。

(畑中)今後は米田さん、諏訪さんだけでなく、5年に一度ぐらい(宇宙飛行士を)募集するんですよね?

(大西)目標としてはそうですね

(畑中)日本の宇宙開発に関し、大西さんの立ち位置は、自身でどう考えますか?

(大西)宇宙開発において、継続はすごく大事だと思っています。アメリカは昔、アポロ計画に月に行きましたけど、今もう1回月に行こうとしていて、かなり苦労しているんですよね。当時の技術というか設計概念とか、失われている部分がある、人の流れとか技術とかが途絶えている部分がある。私なんか「60年前に行っているのに、いまの技術で簡単に行けんじゃない」と簡単に思っていたんですけど、そこは全然違うみたいで、そういう意味では、一度開発の流れを止めてしまうというのは、ものすごいデメリットで、マイナス面が多いんだろうと感じたんですよね。

なので、日本人の宇宙開発もこうやって脈々と人から人に受け継いでいくことは大事だと思っていて、世代交代は戦略的に、意識的に進めていく必要がある。僕は受け継いでいく世代のあくまで1人で、自分が日本の宇宙開発の中でちょうどはまったところの仕事をしっかりやりたいし、自分が次の世代に託す時期が来たら、そこは託したいなと。

・・・

実は、米田さんと諏訪さんのインタビューでもお互いを何と呼んでいるかをききたかったのですが、「新婚カップルの質問」のようで遠慮していました。奇しくも大西さんからその間形成が明らかになりました。「すわっち、よねださん」なんですね。

インタビューを通じて、大西さんは落ち着いた口調の中に、大変熱いものを秘めていると改めて感じました。将来の月面探査へのビジョン、そのための船外活動への意欲というものは非常に論理的で、しっかりとした軸があります。さすがの先輩宇宙飛行士、1回目の宇宙滞在、その後の様々な経験のなせる業なのだと思います。

最後に、月面着陸への静かなる情熱を改めて語ってもらいました。

「宇宙飛行士として、いま日本で月面に立てる、少なくとも“挑戦権”を持っている数少ない人間の1人だと思う。できるだけの努力をして、自分が可能であればその1人になれるように、これからも頑張りたいと思いますし、次の宇宙ステーションのミッションをしっかりと全力で遂行することは大事な一歩だと思うので、きっちりとやっていきたい」

(了)

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