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建築家・西口賢が幼い頃に遊んだ山を、両親の終の住処に溶け込ませる

  • 2024.12.5
建築家・西口賢が建築した家のダイニングとリビング

暮らす人:西口直子(建築家・西口賢の母)

現代の民家はどうあるべきか。家の中に、里山が広がる

両親から終(つい)の住処(すみか)となる家を設計してほしいと依頼された。要望は特になく、設計に関しては「お任せ」だった。

ならば自分の考えを実践する格好の機会と捉えた建築家・西口賢さんは、自身が子供の頃に遊んだ近くの山の風景を取り込むことを思いつく。頭の中では、建築写真家・二川幸夫の著作『日本の民家 一九五五年』に掲載されている古い民家と比べて「過去に自分が設計したモダンな建築が負けている」という思いと、文化人類学者・レヴィ=ストロースのブリコラージュの思想が繋がっていた。

ブリコラージュとは、そこにあるものを寄せ集めて何かを作ることを指し、かつての民家は、それぞれの土地の材料を使って造られていた。西口さんは、造園の手法を建築に取り入れることで、この2つの思想を融合させようと試みる。

敷地内は、外、半外、半内、内と円を描くように設計され、“山”と家の境界は曖昧になっている。造園と建築の交わるところ、つまりケヤキの大黒柱と大きなガラスが接するような箇所に、大工の技術力が表れるという。

手仕事の復権もこの家の目指したところだろう。自然素材を多く用い、かつて民家で常用された素材である杉皮を室内の壁に張り、御影石のベンチを据えた。

建築家・西口賢が建築した家の中庭
半外の間から家の中を眺める。築山のような中庭には、主に西口さんが慣れ親しんだ村積山(むらづみやま)に自生する植物が植えられている。落ち葉は木々の下に集めておけば、そのまま土に還っていく。
建築家・西口賢が建築した家のダイニング
御影石のベンチとガラスのテーブルに、木漏れ日が映る。陰影によって素材の違いがより感じられる。晴れた日にはより強くくっきりと光が落ち、雨が降ればその分しっとりとした空気に。
建築家・西口賢が建築した家の畳の部屋
直子さんの寝室である畳の部屋は、茶室のように閉じた空間に。それでも座った目線に窓があるために、狭く感じられない。実際の間取りと体感の広さに絶妙な計算がなされている。
建築家・西口賢が建築した家の中庭
水がたまり苔むしたこの状態で山にあった石を、そのまま削ることなく配置した。そのために雨が降れば、このくぼみに水がたまり、それを求めて鳥がやってくる。なんと贅沢な設(しつら)えだろう。


この〈大地の家〉のある愛知県岡崎は御影石の産地であり、幼少期に過ごした山には、切り出された石の、使われなかったものがそのまま転がっている。雨に打たれ苔むした御影石を山から運び、そのまま中庭に置いた。石のくぼみには降った雨がたまり、その水を飲みに野鳥がつがいでやってくるという。

曇り空からわずかに差した光が、家の中にコナラの葉影を作りだした。住宅地に建てられ、隣に小学校があるにもかかわらず、山の静けさに満たされているよう。キッチン脇の土間には室内ながらヤマモミジが植えられ、春の芽吹きを待っていた。

建築家・西口賢が建築した家のダイニング
キッチンから、土間のヤマモミジ越しにダイニングを眺める。木漏れ日を受けるガラスとともにケヤキの大黒柱、壁の杉皮など質感を残した素材が居心地のよさを生み出している。
建築家・西口賢が建築した家のリビング
北側のリビング吹き抜け上部にある高床には、空間を抑える効果がある。ただし、暖かい空気が上へ抜けるようにすのこ状で、夏には近くの窓から外へと風が抜けていく構造。
建築家・西口賢が建築した家の2階書斎
2階にある書斎の窓からは、幼い頃に遊んだ村積山が見える。細長い空間の横幅は1間半、つまり4畳半の一辺と同じ長さで設計されている。本棚の後ろに階段があり、1階から上がって右がこちらの書斎、左の写真が高床になっている。

施主である母の直子さんに住みづらくないかと意地悪な質問をすると「いや、まったく。夏は、風が抜けるようになってますしね。少し変わった家ですけど」と笑った。

建築家が自身の幼少期を肯定するように、毎日のように遊んだ山の景色を取り込み、両親が暮らしやすいようにと風の抜け、採光を考え抜いた家。2023年に亡くなった父は、「この家が自分の誇りだ」と言っていたという。

建築家・西口賢が建築した家の外観
外観。片流れになった屋根の中央部分にある開口部から、木々が育っているのがわかる。そこから光が差し込み、中庭、リビングへと届く。
建築家・西口賢と母の西口直子
左から、西口直子さん、賢さん。

profile

西口直子、西口賢

にしぐち・なおこ、にしぐち・けん/賢さんは建築家。近畿大学建築学科を卒業し、2007年に西口賢 建築設計事務所を設立。〈大地の家〉で日本建築士会連合会 建築作品賞大賞を受賞。両親からの依頼に10年かけて設計。母・直子さんは「好きなようにお任せ」だった。住み手の感想として父は「新しい人生をまた一つ貰うこととなりました」と記していた。
HP:www.knnsgc.com

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