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思ってもないことを言って、嘘までついて、今の私は一体誰なんだろう

  • 2024.12.5

「見て!見て!こんな感じの服!」そう言って携帯の画面を見せる。彼女は部活仲間のひとり。テニス部の練習の帰り道。話題は好きな服についてだった。でも私は彼女がどんな服が好きなのか結局わからなかった。私には画面を見せてくれなかったから。私はハブられていた。

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昨日まで会話の輪に入れていたのに、急に入れなくなった。誰とも目が合わない。私が話し始めると「へー」で終わる。反応が冷たい。私が見えないのなら、そのままいないものとして扱ってくれればいい。だけど完全無視ではない。微妙にその場にいることを知っていながらみんなと違う態度を取られる。差別されている感覚。これがすごく嫌だった。きつかった。

昨日まで仲の良かった(と私は思っていた)テニス部仲間。部活の時間外である学校生活でも一緒にいたし、移動教室も一緒にしてた。だから、部活中に発生した仲間外れは、当然学校生活の仲間はずれも意味する。私はクラスでもひとりぼっちになってしまった。中学生女子はいつメンがいないと不安になる。誰かといると安心感がある。群れていないととにかく焦る。私は突然孤独の恐怖に包まれることになった。

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別の友達を作ればいいじゃないか。別の友達と移動教室を共にして、休憩時間もテニス部の子以外と過ごせばいいじゃないか。そう思っても、すぐに別のグループに「いーれて♩」といくことができなかった。クラスには女子特有のそれぞれの「輪」ができている。そこに急に入り込むなんてムシが良すぎる。そして、それをしてしまうと、「仲間外れの標的になっている」ことを自分で認めてしまうような気がした。なんだか悔しくてできなかった。

自分がその場にいないものとして扱われる。その状況は生きた心地がしなくて、とにかく背筋がひやっとして、お腹や胸がぎゅーっと締め付けられる。この感覚は仲間はずれ経験者にしか伝わらないと思う。仲間はずれ。これが私の怖いもの。もう経験したくない。

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それからというもの、なるべく場の空気に溶け込めるように考えながら人とコミュニケーションをとってきた。その癖は社会人になっても続いていた。

社会人になって飲み会に誘われることが増えた。大人数の飲み会。そこでも私は除け者にされないように会話や仕草、ノリに気をつけた。ただ、ある日、そうやって生きているとだんだん別の怖さを感じるようになった。言いたいことを飲み込んで、思ってもないことを言って、嘘までついて話を合わせて。今の自分は本当の自分なんだろうか。今の私は一体誰なんだろうか。本音を言えない自分の態度が怖かった。

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学生時代は学校という閉じられた世界で除け者にされないように生きなければならなかった。だが、もう今は違う。社会人になれば好きにどこにだって行けるし、嫌いな人とは無理に一緒にいなくてもいい。最低限、仕事のやり取りだけしていればいい。最悪、ひとりになってもどうにでもなる。生きていける。そう気がついた。

いつからか、飲み会はめんどくさくなったら帰るし、そもそも行かないことが増えた。複数人で話す機会がやってきても、無理に輪に入らないようになった。疲れるし、自然に会話に入れないということは、自分も相手も特別話したいことがない証拠だ。これでいい。無理しなくていい。自分に正直に。

仲間はずれに「される」のではなくて、仲間はずれを「自分で選ぶ」。自分で好んでその状況になると全然怖くなかった。集団から一歩引いてひとりぼっちになる状況は変わらないのに。

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ちょっと大人になった私。怖いものが一つなくなった気がする。

■みなちゃんのプロフィール
管理栄養士 │ 口から産まれた米屋のむすめ │ 食べ物が最後は胃に収まる世界を夢見る │ ラジオ「#聴くキッチン」放送中│ instagram:@mina_jp_37

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