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手は口ほどに #7:水に見立てた手でボードを撫でる、シェイパー

  • 2024.12.5
手は口ほどに #7:水に見立てた手でボードを撫でる、シェイパー

多くのシェイパーは、1本のボードを1時間ぐらいでシェイプし終える。そこを関澤さんは、6時間くらいかける。「一日でシェイプを終わらせない。3〜4時間シェイプして、目が疲れて細かいものを見られなくなったら翌日までボードを置いてみる。

いいと思っていても、次の日に触るとボードにボコッと段がある。それで、また3時間ぐらいシェイプする。効率は悪いですね」と笑う。

ほんとうは、少しくらいボードにデコボコがあっても、波にもデコボコがあるから、乗っているサーファーにはわからない。「それよりも、ボードに沿って水がちゃんと流れるかどうかがすごく重要」。それを確かめるために、ボードの表面を愛でるように何度も何度も触る。

「自分の手を水だと思って、こうして流したときに、ボコッとなったら、乗ったときにもボコッとなる」。ボードのどこを水が抜けていくかを探るのは、手じゃないと、目では分からない。

説明をする関澤さん
まずは、作業場の馬にサーフボードを設置する。目で見て、手で撫でて、ボードにある凹凸を削っていく。水に見立てた手をボードの上に流すのが、いちばん大切。
ボード高さに合わせた蛍光灯
ボードを載せる馬と同じ高さに設置された蛍光灯によって、ボードに影が浮かび上がる。「それを見て、スムースに水が流れるかどうかを確認しているのです」。
シェイプされたボード
マシンを使って何時間もシェイプされたボードには、蛍光灯の影が真っすぐに出る。今では、コンピュータにデータを打ち込んでここまで仕上げる有名ブランドも多い。
ヤスリで表面をやする様子
シェイプの後は、ヤスリで表面をスムースにしていく。全部の工程を一人でやる関澤さんをシェイパーと呼ぶのに違和感があるが、「呼び名は別になんでもいい」。
作業中の関澤さん
いちど仕上がったと思っても、次の日までボードを寝かせる。「長い時間やっていると、目も手もダメになるから」。翌日に見つけた凹凸を、再び削っていく。
関澤さんのアトリエの様子
アトリエには、関澤さんのアート作品が飾られている。「沖からのうねりを描いたり、樹脂でラインを引いたり」。最近ではこれを作ってほしいというオーダーもある。

関澤さんは30歳から35歳までの5年間、サーフボードの有名ブランド「ブルーワー」で働いていた。「最後の仕上げをやるサンディングマンとして、でっかい機械で余分な樹脂を削り飛ばしていた」。

毎日5本くらい仕上げるが、作業は完全に分業制。最初に削り出すシェイパー、エアブラシでピンラインなどを引くブラシマン、樹脂を巻き付けるラミネートマン、コーティングをするホットコートマン、仕上げをするサンディングマン、そしてボードを光らせる場合はバフマンも加え6人がかり。「いちばん多いときで、年間1000本以上。僕が在籍したころには減ってきて、それでも年間500~600本。

ただ、それだけ作ってもディーラーに納めるだけなので、ボードの調子が良かったのか悪かったのか、わからない」。

いまは、ボードづくりの工程すべてを一人で行う。作れたとしても、年間40本くらい。ボードの発注を受けたら、「まずは一緒に海に入ります。その人が波に乗るのを見て、もっとスピードを出したいなら、フィッシュテールのボードがいいですよとか」。

まるで、クリニックのお医者様のようにも思える。「すごく時間がかかります。でも、それがやりたかった」。サーフ業界は、お客様に敬語も使わない上から目線の人が多い。それに違和感があった関澤さんは、「シェイパーだからといって、先生だとありがたがられたいわけではない。発泡スチロールを削っているただのおじさんなので」という。

30万円もするサーフボードを買ってもらうのに、売ったら終わりというのは流儀ではない。「丁寧に、イメージに合うもの作っていきたい」。

笑顔の関澤さん
「オーダーしてくれた人は、お客様というより友達みたい。一緒にサーフィンしたり、お茶を飲んだり」。ゆったりとしたこの雰囲気に惹かれるリピーターも多い。
シェイプする関澤さん
テールが2つに分かれたフィッシュテールのボードのオーダーを受けることが多い。「一緒に海に入って僕がこの型のボードに乗っているのを見ているからですかね」。
関澤さんの手
シェイパーにも利き手も利き目もあるから、同じ捩れを毎回作ってしまう場合もあるという。関澤さんは、自分の癖を踏まえたうえで、慎重にバランスを取っていく。
削りかすの乗ったボード
シェイプして、ヤスリで削って、徐々にボードが仕上がってくる。樹脂を巻き付けたり、ピンラインを引いたり、ボードを作っていくには様々な工程がある。
シェイプの仕上がりを手で確かめる様子
ボードの先からテールまで、両手でレールを何度も撫でる。「手を海の水に見立てて、スムースに流れるかどうかを確かめる。目ではわからないから、手じゃないと」。
カラフルなストックボード
オーダーが基本だが、最近ではストックボードも用意している。「既成のボードは価格も手ごろになるから、若い人たちにもサーフィンをやってほしいと思って」。

ひと回りも年上のお客様が、出来上がりのボードを見て、感動して泣いてしまったことがある。「ビンビン来て乗れないかもと言っていたけれど、海に一緒に行って、そのボードをおろすのに日本酒で撫で撫でしていたら、ビンビンしていたボードがトロンと柔らかい感じになった」。作るものには、念が入るから、気持ちよくシェイプするのを心掛ける。

丁寧にやっていると、そういったマジックが起こる。「その人を思って作ることは、絶対にやるようにしている。これでいいや、というのはない」。

ブランド名の〈モントーク〉を〈アキノブセキザワ〉に変えた。さらに、いまは「アキノブセキザワ・サーフ&クラフト」にしている。シェイプだけではなく、全部の工程を一人でやっているのを「クラフト」の言葉にこめた。

最近は、バルサウッドのボード作りを始めている。「まだ一本目なのですが、木をカンナで彫刻しているみたい。でも、ビンテージのようなボードにはしたくなくて」。試しに海で乗ってみたときに、他のボードとポンとぶつかってしまった。

持ち帰ってボードのへこんだところにウェットティッシュを置いてドライヤーをあてたら、木が生きているから真っすぐに戻った。「面倒な作業もニヤニヤしてやっています。便利になり過ぎると、格好悪いことも多い。面倒くさいのも、そんなに悪くはないです」。

profile

関澤さんのポートレート

関澤明信(シェイパー)

せきざわ・あきのぶ/1979年、横須賀市秋谷生まれ。高校から大学の途中まで熱中していたアメリカンフットボールを20歳でやめてからは、「目が覚めて窓を開けて海が見えて波があったらサーフィンをする毎日」。その後オーストラリアに遊学したときにもサーフィン三昧の生活を送るが、帰国後はスーツを着てサラリーマンに。その後、子供のころからあったモノ作りへの興味で家具メーカーに転身。ただ、そこでは家具作りに関わることは叶わず、店長としてお客様の気持ちを汲み取る術を学んだという。その後、伝説的なシェイパーであるディック・ブルーワーの名を冠したブランドでサンディングマンを5年務める。2014年に独立して、いまは「AKINOBU SEKIZAWA surfandcraft」を主宰する。

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