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「83歳の父は認知症。発作の度に認知機能が低下している…介護者の51%は心身の健康に影響が出ている」英司会者が介護をする家族の苦悩を語る

  • 2024.12.21

イギリスで今、一番の死因となっている病気は何だと思う?

それが「認知症」だと知ったら、あなたは驚くだろうか。そう、多くの人が老化の一部だと思い込んでいるこの病が、実は今、イギリスで最も多くの命を奪っている。そして何百万人もの人々が、日々この病と戦い続けているのだ。

 

認知症はイギリス全土の家庭に静かに忍び寄り、診察室では多くの患者が診断を告げられている深刻な病である。その影響は、診断を受けた本人だけでなく、愛する人々の生活にも深く及んでいる。それにもかかわらず、認知症は権力を握る人々に真剣に受け止められていない。 なぜだろう?

多くの家族が直面している認知症の現実

認知症患者は、イギリスで約100万人おり、私の父、ジム(83歳)もその一人だ。

父は、脳への血流の減少によって引き起こされる脳血管性認知症を患っている。これはアルツハイマー病に次いで2番目に多いタイプの認知症である。2018年に診断を受けて以来、父は一連の一過性脳虚血発作(ミニストローク)に何度も見舞われ、認知機能と身体機能の衰えが加速した。

元牧師だった父は、人生を教会に捧げてきた。私たちが住んでいたいくつかの教区では、父がいつもコミュニティの中心にいて、人々を助けることに日々忙しくしていた。完全にワーカホリックだった。

今の父の生活は180度異なる。支援付きの住居に一人で暮らし、1日3回、介護士が服薬や食事のサポートをしている。一過性脳虚血発作は以前より頻繁に起こるようになり、意識がもうろうとし、言葉がもつれる。脳へのダメージを最小限に抑えるために何度も病院に運ばれるが、その度に父の認知機能はどんどん低下していくのだ。

'認知症は、長い間軽視されてきた'

40年前に離婚した母は、81歳になった今もできる限り父の面倒を見ようとし、掃除や買い物を手伝ってはいるものの、身体的なサポートまでは当然ながらできない。

私も兄弟も、母と父をサポートするために最善を尽くしているもの、全員がフルタイムで働いており、私はロンドンから数時間離れた場所に住んでいるため、常にそばにいることはできない。そこで生まれるのが、罪悪感とフラストレーション。欠陥だらけの社会保障制度の隙間を埋めるために、家族全員が尽力しているけれど、できることには限界がある。認知症の影響は、本人だけでなく、家族全体に計り知れないほどの影響を与えているのだ。

これはイギリス中の多くの家族が直面している認知症の現実であって、私たちだけの問題ではない。それでも、認知症の問題は今も閉ざされた扉の向こうに隠れたまま。あまりにも長い間、認知症はうやむやにされ、優先すべき課題として扱われてこなかった。だから私は、これからも自分のストーリーや家族の経験を共有していくつもりだ。他の人たちも同じように声を上げてくれることを願って。

認知症は現代における最大の社会課題の一つ

先ほども言ったように、認知症はイギリスで最も多くの命を奪っている病気である。がんや心臓病ではない。認知症なのだ。それなのに、なぜ他の病気のように、緊急性のある問題として優先されないのだろう。

イギリスでは、3人に1人が認知症の影響を受けている。イギリスの認知症支援団体であるアルツハイマー病協会は、2040年までに認知症患者の数が140万人に達すると予測している。また、認知症患者の約3分の2が女性であることも推計されている。

これは私たちの時代における健康と社会福祉の最大の課題ではないだろうか。認知症の影響を受けている多くの人々が語るように、サポートの負担は家族にのしかかり、その影響は仕事や対人関係、さらにはメンタルヘルスに壊滅的な打撃を与えている。認知症は、私たち全員に関わる問題なのだ。

統計からみるアルツハイマー

アルツハイマー病協会が行った最近の調査によると、家族の介護者の半数以上(51%)が、認知症の家族を介護することによって、自身の精神的または身体的健康に影響を受けており、4分の1以上が孤独を感じていると回答している。

これらの統計は、認知症の厳しさを恐ろしいほど正確に示している。

私がドキュメンタリー『Love Loss and Dementia』(リチャードソンが家族の認知症をテーマに制作したテレビ番組「愛、喪失、認知症」)の撮影中にお会いしたマリーという女性の話を紹介しよう。彼女は55歳で早期発症のアルツハイマーと診断された夫リチャードのケア費用を支払うために、自宅を売り、貯金を使い果たさなければならなかった。彼女は毎週1,900ポンド(約36万円)という驚異的な額を支払いながら、夫の介護を続けているのだ。

これは、私がこの1年間で耳にした数多くの胸が痛む実話の一つにすぎない。多くの家族は、認知症という現実と、壊れた社会福祉制度という難題を同時に抱え、必死に戦っているのだ。

もちろん、私自身の経験からも、そのことをよく理解している。

前に罪悪感とフラストレーションについて触れたが、私は父が住むところから数時間離れた場所に住んでいるため、思うように頻繁に会いには行けない。だからなおさら父の健康が心配で、必要なときにそばにいてあげられないことに罪悪感を感じ、介護制度が不十分であることにフラストレーションを抱えている。政府ががんや肥満などの他の健康問題を優先するのは当然だが、認知症への対応は不十分なのである。

'認知症患者の約3分の2は女性だと推測されている'

このエビデンスを見れば、認知症が軽視できない問題であることは明白だ。多くの人が認知症を「高齢者の病気」と思い込んでいるが、実際には「私たち全員」に影響を及ぼす問題なのである。

みんなで社会福祉制度について話し合う機会を

私たちは、みんなでこの問題について話し合わなければならない。もちろん、簡単なことではない。私の家族でさえ、お互いにオープンに話し合ったことがなかった。でも、すべての人が必要なサポートを受けられるようにするためには、声を上げることが何よりも大切。経験を語り、私たちのストーリーを共有し合うことで、政府に認知症を優先事項として取り上げるように訴えかけることができる。そうすれば、認知症に苦しむ何百万もの家族に大きな変化をもたらすことができるはずだ。

また、政府には社会福祉制度の改善を強く求めるべきである。認知症に特化した研修は、患者が必要なケアを受けるための重要な要素となる。そして、求人倍率の上昇や低賃金といった雇用の課題にも真剣に向き合わなくてはならない。

現行のシステムは不十分。認知症の患者を持つ家族は苦労を強いられ、認知症を患っている人々は必要なケアを受けられずに放置されているのが現状なのだから。

認知症の問題は他人事ではおさまらない

私には、家族や父の介護の未来がどうなるかわからない。それでも、できるだけ長く父が自立した生活を送れるようにサポートしたい。父にとって重要なのは、コミュニティとのつながりを維持すること。だから、私は父が施設に入れられないように、全力で戦い続けるつもりでいる。

認知症は危機であり、忘れられた危機でもある。それは私たち全員に関わる問題で、高齢者だけの問題ではない。今こそ、認知症の問題を最優先に取り組むべきである。

※この記事はイギリス版ウィメンズヘルスからの翻訳をもとに、日本版ウィメンズヘルスが編集して掲載しています。

Text: Anna Richardson Translation : Yukie Kawabata

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