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世界で唯一「ジンベエザメ狩り」の秘術を伝承するシャチ一族を発見!

  • 2024.12.4

現状、世界で唯一「ジンベエザメ狩りの秘術」を伝承するシャチ一族がいたようです。

メキシコ国立工科大学 (IPN)はこのほど、米カリフォルニア湾を拠点とするシャチ集団の一派が、世界最大の魚類・ジンベエザメを何度も狩りする様子を捉えたと発表しました。

世界広しといえど、ジンベエザメ狩りの慣習をもつシャチ集団は他に確認されていません。

なぜこのシャチ一族だけがジンベエザメを狩るのでしょうか?

研究の詳細は2024年11月29日付で科学雑誌『Frontiers in Marine Science』に掲載されています。

目次

  • ジンベエザメ狩りをする世界唯一のシャチ一族
  • 一族に伝わる「ジンベエザメ狩り」の秘術のやり方とは?
  • シャチ一族だけがジンベエザメを狩れる理由

ジンベエザメ狩りをする世界唯一のシャチ一族

シャチ(学名:Orcinus orca)は生物学的にすべて同じ一種にまとめられますが、住んでいる海域や習性によって幾つかのタイプに分けられます。

例えば、食性の違いで分けると、小型クジラやアザラシなどを海洋哺乳類を食べるタイプ、ペンギンと魚類を食べるタイプ、シャケだけを食べるタイプなどがいます。

また生息域の違いでも、海岸付近に住むタイプや沖合に住むタイプ、海域を移動しながら暮らすタイプがあります。

シャチはこうしたタイプごとに確固とした集団を形成しており、他のシャチ集団と出くわしても言葉を交わすこともなければ、交流することもありません。

まるで人間のように、それぞれの集団ごとの独自のルールや文化を継承しながら暮らしているのです。

そして今回、ジンベエザメ狩りの秘術が確認されたのは、北アメリカ大陸とバハ・カリフォルニア半島との間の南北方向に伸びる細長い湾「カリフォルニア湾」を拠点とするシャチ一族です。

水色の部分が「カリフォルニア湾/ Credit: ja.wikipedia

カリフォルニア湾に生息するシャチ集団は以前から雑食の食性を示すことで知られ、魚やウミガメ、海洋哺乳類を含むさまざまな獲物を狩りしています。

しかしその中でも、特に興味深いシャチ一族がいます。

この一族は1990年代から観察が続けられており、当時からエイやオオメジロザメ、そして稀にジンベエザメを含む軟骨魚類を狩る様子が目撃されていました。

そしてメキシコ国立工科大学を中心とする研究チームがこの一族の追跡観察をしたところ、2018年〜2024年にかけて4度にわたるジンベエザメの狩猟行動が確認できたのです。

ジンベエザメ狩りをするシャチ一族/ Credit: Francesca Pancaldi et al., Frontiers in Marine Science(2024)

4回の狩りのうち3回には「モクテスマ(Moctezuma)」と命名されているオスのシャチが参加しており、またモクテスマと行動を共にしているメスのシャチも度々見られたことから、ジンベエザメ狩りをしているのは同じファミリーであると考えられています。

現状、ジンベエザメを狩猟するシャチ集団は他に確認されておらず、この一族が唯一と見られます。

さらに狩猟行動を映像や画像から分析したところ、一族に伝わるジンベエザメ狩りの秘術の全貌が明らかになりました。

一族に伝わる「ジンベエザメ狩り」の秘術のやり方とは?

カリフォルニア湾のシャチ一族が行うジンベエザメ狩りは常に同じ方法が取られていました。

まず、数頭のシャチがジンベエザメを取り囲み、その頭を頭突きやヒレなどで何度か殴りつけ、気絶させて動けなくします。

そしてここがポイントなのですが、気絶したジンベエザメをほぼ必ず「逆さまにひっくり返す」のです。

その理由はおそらく、ジンベエザメのお腹が背中などの他の部位に比べて柔らかく無防備だからだと考えられます。

ジンベエザメの体は他のサメと同様、硬いウロコで守られていますが、白いお腹側がウロコが小さかったり、密度が低くなっています。

そこでシャチ一族はジンベエザメのお腹を露出させて噛みつきやすい姿勢にし、大量出血させます。

解明されたジンベエザメ狩りの手法/ Credit: Francesca Pancaldi et al., Frontiers in Marine Science(2024)

それから栄養豊富な臓器を狙って食べていると考えられます。

特にジンベエザメの肝臓は栄養が豊富に貯まっている場所ですが、まだシャチ一族が肝臓を食べたシーンは捉えられていません。

かの有名な南アの殺し屋シャチコンビもホオジロザメの肝臓を狙うことが知られています。

この一貫したジンベエザメ狩りの手法から、研究者らは「このシャチ集団が他の海域では見られない独自の狩猟戦略を形成し、伝承している点で驚くべき発見である」と指摘しました。

しかし、シャチはそもそも海で敵なしの最強ハンターであり、ホオジロザメはおろか、地球最大の生物・シロナガスクジラまでも襲って食べる事例が確認されています。

しかもジンベエザメはホオジロザメと違って大人しく、動きものろいので、世界最大の魚類といえども、襲いやすいといえば襲いやすいターゲットです。

では、なぜカリフォルニア湾のシャチ一族だけがジンベエザメ狩りをし、他の海域のシャチ集団はジンベエザメを狩らないのでしょうか?

シャチ一族だけがジンベエザメを狩れる理由

この疑問の最大の要因は、シャチとジンベエザメの生息環境の違いにあります。

シャチは広範囲の海洋環境に適応していますが、水温の低い冷水域を拠点とするのが一般的です。

それに対して、ジンベエザメは熱帯〜亜熱帯の暖かい海を好み、そこで繁殖するプランクトンなどを大量に呑み込んで濾過(ろか)摂食しています。

つまり、シャチは冷たい海に、ジンベエザメは暖かい海に住んでいるから、基本的には両者は遭遇せず、食べる・食べられるの関係にはならないのです。

これがほとんどのシャチにジンベエザメ狩りが見られない理由の答えとなります。

上:狩られたジンベエザメ、下:ジンベエザメを食べたシャチ一族/ Credit: Francesca Pancaldi et al., Frontiers in Marine Science(2024)

では、なぜカリフォルニア湾のシャチ一族だけはジンベエザメ狩りができるのでしょうか?

それはこの海域に生息するジンベエザメの行動に理由があります。

カリフォルニア湾では時期によってプランクトンが大量繁殖するタイミングがあり、それを狙って定期的にジンベエザメが他の海域から餌を食べに移動してくるのです。

ただそのほとんどは大人ではなく、まだ成熟していない若いジンベエザメだといいます。

シャチ一族はプランクトン目がけて移動してきたジンベエザメを標的にしていたわけです。

もしかしたら、一族の間では「そろそろジンベエザメ漁の時期だぞ〜」と話し合っているのかもしれませんね。

こちらがジンベエザメ狩りをするシャチ一族の様子です。

参考文献

Orcas Have a Killer Technique to Hunt The Biggest Fish in The Ocean
https://www.sciencealert.com/orcas-have-a-killer-technique-to-hunt-the-biggest-fish-in-the-ocean

Unique killer whale pod may have acquired special skills to hunt the world’s largest fish
https://www.eurekalert.org/news-releases/1065044?

元論文

Killer whales (Orcinus orca) hunt, kill and consume the largest fish on Earth, the whale shark (Rhincodon typus)
https://doi.org/10.3389/fmars.2024.1448254

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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