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「私を買うことができるかしら?」留学の写真から感じた思い出の匂い

  • 2024.12.4

大学生の時に初めて買った香水の匂いは、今でも忘れることができない。

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念願の海外留学が決まり、渡航準備に胸を躍らせていた頃、「どうやら海外では香水を付けるのがマナーらしい」というネットの記事を読んで、人生で初めてバラエティーショップの香水コーナーを訪れた。大学生のアルバイト代ではとても手が出ないようなブランド物が並ぶ中、黄色のきらびやかな装飾が施されガラスケースに鎮座している香水がふと目に留まった。値段もギリギリ大学生のお財布から賄える程度。「私を買うことができるかしら?」と問いかけられているようだった。サンプルの香りを嗅いでみると、私が好きな柑橘系がベースになっていて、しつこくない爽やかな、癒やされる香りをしていた。これが海外生活を一緒に心中することとなった香水との出会いである。

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香水は、ものによって付ける量のさじ加減が難しい。ブランドによって1プッシュするもの、1.5プッシュするもの、さらに加えて頭から一振りするもの、と付け方を変えている。

当時使っていた香水は、手首に2プッシュしてから更に耳の裏側にこすりつけ、最後に頭から振りかける、という使い方をしていた。これは海外基準の分量なので、日本で再現すると少し香りが強い方かもしれない。大学の授業に行くときや、友達とランチに出かける前に決まった分量を付けるのがルーティンになっていた。パーティーや気になる男の子とパブに出かけるときなど、ちょっと特別な日には更にもう1プッシュつけていた。

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いつしか毎日の生活に欠かせない存在になり、授業についていけずに頭がつかれたときや、初めて海外のフォーマルパーティーでちょっと緊張していた時、ホームシックで日本が恋しくなった時、いつでも癒しの存在で留学中の私に寄り添ってくれていた。疲れた時や落ち込んだ時には手首をクンクンかぐのが癖になっていた。そんな香水は、帰国する直前にちょうど使い切ってしまって、瓶ごと現地に捨ててきてしまった。

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日本に帰国してからは、大学生の間で流行っているサボンの香りに手を出してみたり、当時好きだった先輩が教えてくれた香水を使ってみたり、色んな種類の香りを試していたと思う。社会人になってからは少しお金に余裕が出てきたので、会社の綺麗な先輩がつけていたバニラの大人っぽい香りや、ウッディな香りを試してきた。いつの間にかあの柑橘系の香水からは距離を置いていた。

ふと、留学中の写真を見返していた時、当時のあの香りを写真から感じた。思い出から匂いがするなんて、なんとも変な話だが。ただ、どうしてももう一度あの本物の匂いをかいでみたくて、どうしてももう一度あの頃を思い出したくて。ネットで調べてみると、どうやら数年前に廃盤になってしまったらしい。どうにか売っているECサイトに辿り着いたが、やはり希少なのか高額転売されていた。

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当時から「私を買うことができるかしら?」という姿勢は変わっていないようだ。もう、あの香りは当時の写真からしか感じることができない。

■三久のプロフィール
和菓子が大好きな会社員トレーニー。文章を書くのが趣味です。 note:https://note.com/_danke39/

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