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名前に抱く愛着と葛藤。損ではなく貴重な「女の子」という立場

  • 2024.12.3

「下の名前の印鑑作っておきなさい」母にそう言われて、初めて「みな」の印鑑を注文した。

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大学卒業の時、記念品で印鑑がもらえた。その場で実物をもらえるのではなく、各自希望の名前を注文する形式だった。私は当たり前のように名字で作ろうとした。ただ、母の提案を受けて「なんで?」「まあ、名字の印鑑は既に持ってるから変わり種があってもいいか」と思いながら下の名前を注文書に書いた。その時深い話は母としなかったが、多分結婚して名字が変わってもずっと持っておけるようにと、そんなことを考えての助言だったんだと思う。

結婚すると名字が変わる。女の子だから仕方がないこと。別になんの気にも止めていなかったが、この印鑑の件があってから少し疑問に思うようになった。もしかして、女の子、めっちゃ損じゃない?

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私の名前は両親がお寺の住職さんと相談しながら決めてくれた。特別感もないし、珍しくもないが、とにかく画数にこだわってつけてくれた。名字と下の名前で33画。すごく縁起の良い画数で、外画、地画も良いものだ。予測変換で出しにくい漢字の名前だが、私は自分の名前を気に入っている。名前ばっかりは自分でどうしようもないので、きちんと最初に考えて付けてくれた両親に感謝している。大人になってからこの画数が縁起の良いものだと知って、改めて「この名前にしてくれてありがとう」そうお礼を言ったほどだ。

ただ、結婚するとそれが総崩れする気がする。せっかく周りの人たちがつけてくれた名前をなんで籍を入れた瞬間台無しにしないといけないんだろう。バランスの取れた上と下の名前なのに……。20何年も寄り添ってきた上下セットの名前なのに……。そんな運命にある女の子はすごく損だと思う。

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もちろん、嫁入りではなく婿入りを選択することもできる。最近では個人を尊重して、夫婦別姓や新しいパートナー関係を結ぶこともできるだろう。とはいえ、大富豪でも貴族でも特別な事情もない私。「お嫁さんが名字を変える」この「普通」で「一般的」ルートを選ばない結婚に踏み出す未来を想像できないし、両親を不安に思わせるイレギュラーな判断もできない。そんなことを考える。将来の私は結婚を目の前にして名前が変わる現実を受け入れられるのだろうか。

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そしてもう一つ気になることがある。それは、私の代で我が家の名字は廃れる可能性があること。私には姉がいる。もし、世の中の一般的な流れに沿って、姉も私も結婚と同時に名字を変えたとする。そうすると、今まで受け継がれてきた名字が終わってしまうだろう。私の名字は少し珍しい。だから愛着もある。少し寂しい気持ちになる。

我が家には遺影が6つ並ぶ仏間がある。つまり、高祖父(ひいひいおじいちゃん)からお墓と仏壇を守る本家に当たる。このご先祖様たちの遺影を私はこれから、違う名字になってからも守っていくのだろうか。できれば同じ名字で守っていきたい。そんな気持ちもある。

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パートナーと名字を重ねることに夢を見る子もいれば、自分の名前が変わることに葛藤を抱える子もいる。自分の名前について深く考える機会がやってくる。そう考えると女の子という立場は損ではなく貴重な気もする。

先のことは当然わからない。今も変わらず同じ名字の印鑑を使えることに感謝して、ご先祖様が繋いできてくれた名字に誇りに持って、いつか終わるかもしれない自分のフルネームを愛そう。これが今の私ができること。

■みなちゃんのプロフィール
管理栄養士 │ 口から産まれた米屋のむすめ │ 食べ物が最後は胃に収まる世界を夢見る │ ラジオ「#聴くキッチン」放送中│ instagram:@mina_jp_37

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