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美羽(松本若菜)の本音はどこにある? 悪い母親に離婚を告げた夫の心理 『わたしの宝物』7話

  • 2024.12.3

ドラマ『わたしの宝物』(フジ系)は、夫以外の男性との間にできた子どもを、夫の子と偽り、産み育てる「托卵」を題材に描く。神崎美羽(松本若菜)と夫の宏樹(田中圭)は仲の良い夫婦だったが、結婚から5年が過ぎ、美羽は宏樹のモラハラに悩まされている。だが、幼なじみの冬月稜(深澤辰哉)と再会したことで、美羽の人生は大きく動くことになる。7話、美羽はついに宏樹から離婚を切り出される。

どうしても「一人」になってしまう美羽

「今すぐ出ていって」と宏樹に言われた美羽は、フラフラと街をさまよい歩く。公園で一人、サンドイッチを食べようとしたところ、通りがかった母親が連れた赤ちゃんを見て、栞を思い出したのか目を細める。

美羽の会社員時代の後輩でシングルマザーの小森真琴(恒松祐里)からは「3日も帰ってないんですか?」「栞ちゃんは? 宏樹さんが育てるってことですか?」と、またもや筋違いな正義感をぶつけられそうになる美羽。「宏樹は、栞のこと本当に愛してるから」と返しているが、実際のところ、美羽の本音がどこにあるのか、視聴者にも見えなくなっているように思えてならない。

美羽は、宏樹と栞と三人で、家族として暮らしていきたいと思っているのだろうか。それとも「私は宏樹の答えに従う」と口にしたとおり、宏樹の判断によっては栞と離れ、一人で生きていくこともやむを得ないと考えているのだろうか。再会した中学生時代の幼なじみ・冬月と生きる未来は、少しも想定していないのだろうか。

「絶対に許されないことをした」と罪の意識に苛(さいな)まれ続ける美羽にとって、たった一人の味方となり得るのは、母・夏野かずみ(多岐川裕美)だろう。久しぶりに行きたい場所がある、と母娘で訪れたのは、かずみにとって「いちばん幸せだった街」という給水塔のある団地。二人で思い出話に花を咲かせるうち、長らくしまわれていた美羽の笑顔が滲(にじ)み出る。

「最後に、その笑顔が見たかったの」「ずっと、私を助けてくれてありがとう。私はずっと、美羽の味方だからね」と連ねる母の言葉が、どれだけ美羽の心に染み入っただろう。夫である宏樹を裏切り、娘の栞にも会えず、親友だったはずの真琴からも繰り返し疑われ、冬月には真実を知らせることもできない。まさに八方塞がりのような苦境に陥っている美羽。

「一人で抱えないで」と言うかずみに「私は悪い母親なの。栞は宏樹の子じゃない。宏樹も栞も苦しめることになった」と打ち明けた。しかし、その後、かずみが亡くなってしまったことで、さらに追い詰められたようにも見える。美羽は自宅に戻るが、まるでとどめを刺すかのように、とうとう宏樹から「離婚しよう」と告げられてしまった。

冬月が美羽に宛てた手紙の意味は?

冬月は、気持ちの整理をつけるため、美羽に手紙を書いた。前に進もうと思ったきっかけとして、宏樹と水木莉紗(さとうほなみ)の存在がある。

フェアトレードの会社を経営している冬月は、仕事の関係で宏樹と接点を持つようになった。以前、名刺交換をしたことから、冬月は宏樹が美羽の夫であると気付いている。打ち合わせに訪れた宏樹の様子がおかしいこと、宏樹の薬指に指輪が嵌(は)められていないことから、どうやら美羽が苦しい状況に置かれていることを察する。

そして、冬月とともに働く莉紗は、アフリカでテロ事件に巻き込まれ亡くなった下原健太(持田将史)の弟・隼人(西垣匠)に会っていた。アフリカに学校をつくるという夢を諦めたくない様子の莉紗に、隼人は「水木さんの重荷になるのは、兄は望んでないと思う」「水木さんは、自分の人生を大事にしてください」と背中を押すような言葉を伝える。

自分のこれからの人生と向き合った莉紗は、会社を辞める旨を冬月に告げた。そして、アフリカでの自身の“罪”についても告白する。あのとき、意識を失っていた冬月を下原だ、と偽ったことについて「日本に大切な人がいるって聞いて、冬月がその人のところに行っちゃうのが嫌で、少しでも引き留めたくてわざと言った」と洗いざらい話した。

宏樹の薬指からなくなった指輪。宏樹とともにタクシーで移動中、道を歩く美羽に冬月だけが気づいたこと。必死に美羽のことを忘れようとする冬月に、莉紗が「忘れなくていいんじゃない?」と言ったこと。

宏樹と莉紗、二人からの働きかけにより(それが無意識にしろ、意識的にしろ)、冬月は美羽のことを忘れないために、そして前に進むために、正直な気持ちを手紙にしたため、「神崎さんに渡してほしい」と真琴に託し、美羽は手紙を受け取った。

「世界には素敵なものがいっぱいある。素敵なものはなくならない。同じように、素敵な思い出もなくならないと思うんだ」「夏野が笑顔でいられることを願っています」「夏野、頑張れ。ずっと応援してる」と重ねられる冬月の言葉は真摯(しんし)だが、やはり、栞のことを知らない立場だからこそ言える、絶望的なまでに“他人事”な物言いでしかない。

美羽に罰を与えようとした宏樹

6話で、他人との子どもを、自分たちの子だと偽っていた妻・美羽のことを、どうしても受け入れられず家から追い出してしまった夫・宏樹の気持ちに、賛同した視聴者もいただろう。しかし、美羽がいないことで一人になってしまった宏樹は、体調を崩した栞の面倒を見なければならず、案の定仕事に影響を及ぼしてしまう。

宏樹が美羽をいったん追い出したのは、彼女の好意が生理的に受け付けられない、あるいは夫婦関係において看過できない裏切り行為を受けた、と感じたからだろう。そして、宏樹自身が口にしているように、栞と血が繋がっていないことによって「一度離れたらもう戻れないんじゃないかって、すごく怖い」という気持ちもあいまった結果だ。

栞が生まれたことで、宏樹は変わった。美羽に冷たく接し、召使のように扱っていたモラハラの態度から豹変(ひょうへん)し、理想的な父親として、栞にも美羽にもあたたかい配慮を向けるようになった。

しかし宏樹に言わせれば、根本的な心理はまったく変わっていなかった。栞の実父の名前を宏樹に言わなかった美羽。彼女の顔を見たくないと思ったのは、栞と離れる怖さに、美羽に罰を与えようとした気持ちが織り混ざり、自分を優先した結果だったのかもしれない。

時間を置いて内省できるようになっただけでも成長の証(あかし)だろう。宏樹は、美羽に離婚を切り出し、自分が家から出ていくことを提案する。

今後の物語がどう展開していくのか、読めない。美羽の母子手帳から栞(しおり)がなくなっていることに気づいた宏樹は、おそらく美羽の不倫相手であり栞の実父である冬月に辿り着くだろう。しかし、その後は? 誰がどんな選択をしてもわだかまりが残り、幸せになる人の陰で不幸になる人が現れる。そんな結末しか見えない。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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