1. トップ
  2. エンタメ
  3. 秦 基博さん「さまざまな軽やかさ・奥深さに触れられた1年でした」/アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』インタビュー

秦 基博さん「さまざまな軽やかさ・奥深さに触れられた1年でした」/アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』インタビュー

  • 2024.12.3

新しい音楽との出会いを求めて制作したアルバム

━━今回コラボ・アルバムを制作することになったいきさつを教えていただけますか。

これまで、ひとりで自分のやりたいことを追求していくかたちで7枚のアルバムを発表してきましたが、自分にとって新しい音楽と出会える作品を作ってみたい気持ちが強くなってきたというか。今まで共作する機会もあったのですが、誰かと一緒に1枚のアルバムを制作をしたらどうなるのかに興味があったのです。

━━個性豊かな10組のアーティスト/ミュージシャンの方々が参加されていますね。どういう基準で選ばれたのですか?

自分がずっと大好きで、ずっと聴いてきた方から、最近特に耳にする機会の多い方まで、 心から敬愛する人と制作したいと思ったので、どこまで実現可能か不安もあったのですが、声をかけてみたところ、みなさんからご快諾をいただきました。

━━スピッツの草野マサムネさんも参加されていますね。

僕がいちばん多感な時期からスピッツさんの音楽を聴いていたというか、彼らの楽曲がそばに流れている印象があって。 また、デビューしてからも、ありがたいことにスピッツさんのイベントに呼んでいただいたりとか。ずっと音楽を作り続けていらっしゃる。しかも、どの楽曲もみずみずしいものばかり。とても憧れがあると同時に、一緒に楽曲を作ったらどんなことが起こるのかなっていう興味もあったので、無理を承知でお願いしてみたところ、快諾いただきました。

━━草野さんとは、どんなやりとりをしながら完成させたのでしょう?

当初は、僕が曲を作って草野さんには歌で参加していただけたらいいなと思ってたんですけど、結果的に作詞もしていただけるという話になって。メールでやり取りをしながら完成させていったのですが、まさか草野さんと共作できるなんて、想像もしなかったうれしい出来事でした。

━━草野さんが歌うフレーズを秦さん、秦さんのフレーズを草野さんが考えられています?

確かに、お互いに自分で書いていないフレーズを歌うのが面白いという話になって、最初のフレーズはそういうふうになっていますが、徐々にそういう感じではなくなってきますね。

━━なぜ「ringo」というタイトルになったのですか?

当初から仮タイトルで「りんご」とつけて制作していました。りんごって、キュートなイメージもあるし、青さ(酸味)も感じる部分もあるし、毒リンゴの話もあったりして、いろんなイメージを含んでる果実だなって。そういう鋭さと優しさが共存するようなものを楽曲にしたいという思いのもと制作していくなかで、仮タイトルをそのまま使用したほうが良いのでは、という話になりました。

━━完成した楽曲は、これまでの楽曲にはない雰囲気が。おふたりがコラボするからこそ生まれる、高揚感にあふれる仕上がりになっていますね。

意識してそれを作りだしたというより、ポップでロックでキュートな世界をふたりで歌ったら面白そうだなっていうのはありましたね。

異なる視点で見える美しさを楽曲に表現

━━また、今年3月にご一緒にライブをされた又吉直樹(ピース)さんが朗読を担当されている楽曲「ひとり言」も。

ラジオ番組での対談をきっかけに仲良くさせていただいているのですが、年齢も一緒で又吉さんの作る世界も好きなので、一緒にライブをやりましょうという話になって実現し、その流れで楽曲も制作しませんかとオファーしたところ、参加いただけることになりました。

━━又吉さんの朗読からスタートする楽曲。抒情的でありながらも、どこかクスッとさせる部分があるのは、さすがお笑い芸人さんだなと思いました。

そうですね。視点がとても文学的で、詩的ですごいなと思いました。

━━TOMOOさんとの楽曲「青葉」は、ピアノの音色とおふたりのハーモニーがエバーグリーンな印象を与えます。

桜って、満開の時がいちばん華やかで印象に残るとは思うのですが、年齢を重ねてくるとやがて花びらが落ちて緑が濃くなっていく過程も好きだなと思えるようになって。同じ景色だけれども、受け取り方で美しさの基準が変わってくるなって感じるようになりました。その移り変わる美しさや景色を、世代や性別が異なるふたりのミュージシャンの視点を通して、楽曲のなかに存在させたいと思って、最近よく聴いているTOMOOさんにお願いして完成させたものになります。同じ青を見ているんだけど違う気持ちっていうのが、そこに共存するといいなというイメージでしたね。

━━また、国境を超えた視点の違いを表現しているのは、1990年代より活躍するシンガー・ソングライターのリサ・ローブとの楽曲「Into the Blue」ですね。

僕が高校生の頃におそらく初めて購入した洋楽アルバムが彼女の作品でして、まさか今回共演が実現するなんて。夢のようなお話です。世代、性別に加え、国境も異なるふたりが感じる美しさを楽曲で共有できたら面白いのでは?というアイデアがまずあって。まったく違うものに対して美しさを感じることもあるだろうし、同じものを美しいと感じることもあるかもしれない。そうやっていろんなものを飛び越えて、お互いディスカッションしながら完成した楽曲になります。

━━秦さんも英語で歌われていますね。

英語が話せないので、自分の伝えたいニュアンスとかも含めて、サポートしていただきながら完成させたものなのですが、向こうのミュージシャンの方々は<韻>を大切にするんだなって。そこは大きな発見でした。

━━また、本作には2021年にリリースしたKANさんとの楽曲「カサナルキセキ」も収録されています。

KANさんと共演できたことは、自分にとって本当に大きな財産になりました。徹底的に細部にこだわって、妥協をいっさいしないその厳しさ、純粋にいい音楽を追求される姿勢で制作されている姿は、本当に刺激になりました。天才を超えた存在だなと思っています。

できるだけ自然を感じる創作空間に

━━今回のアルバム制作全体を通しても、刺激になることが多かったのでは?

先ほども言ったように、これまでは自分だけの尺度で、良い・悪いを判断してきましたが、今回さまざまな人の軽やかさ・奥深さに触れられて、発見することが多くありました。今後、自分の作品に新たな視点を取り入れることができそうだなって思います。

━━楽しみにしています。さて、2024年は秦さんにとってどんな一年になりましたか?

このアルバム制作に費やした一年でしたね(苦笑)。いろんな方々とのコラボレーションを進行させながら、アルバム全体をどうまとめていくのかをじっくり考えていたので、ほかのことにまったく手をつけられない状態でした。

━━では2025年はどんなことに挑戦してみたいですか?

この一年の経験をいかして、新しい楽曲を制作できたらと思います。

━━このアルバムに参加された方々とのコラボ・ライブも楽しみにしています。

そうですね、何かしらのかたちで実現できたらと考えています。

━━また、最近の秦さんの暮らしに関しては何か変化はありましたか?

この一年、作業に没頭していたので、外に出かける機会がほとんどなくて。来年はできるだけ外に出て活動ができればと思うのですが。

━━そうしたら、作業しやすい環境作りにこだわりがあったのでは?

自宅ではなく作業場があるのですが、そこには無垢の木の机とか、優しい色のソファーとか、自然を感じさせるものが多いのかなとは思いますね。アイデアが生まれそうな雰囲気のものを集めています。

━━プライベートと創作作業をする時間、スイッチの切り替えをされるのですね。

結局、制作作業をしていると、どういう環境にいても常にそのことを考えてしまいます。ただ、曲作りに集中できる環境があるのは大切。でも、リフレッシュしたいときは、喫茶店などに行って考えることもあります。

━━さまざまな暮らしの時間のなかで生まれた本作。どんな時間やシチュエーションで楽しんでもらいたいですか?

いつも以上に色とりどりで、振り幅があるアルバムだと思います。だから、それぞれの楽曲にフィットするシーンというのも、リスナーの方によって異なるような気がするので、それぞれの感覚で楽しんでいただけたら。

アルバム『HATA EXPO -The Collaboration Album-』

秦 基博/¥3,300(通常盤)
ユニバーサルシグマ
now on sale

ハナレグミさんとの楽曲「No Where Now Here」や、KANさんと共演した「カサナルキセキ」といったすでに話題の楽曲のほか、1990年代の洋楽チャートを席巻したリサ・ローブとデュエットした英語ナンバー「Into the Blue」なども収録。ソロ曲とは異なる秦さんの表情が詰まった作品に。

PROFILE

はた・もとひろ/1980年宮崎県生まれ、神奈川県横浜育ち。2006年にデビュー。繊細さと抒情性を感じさせるサウンドで人気。時代を超えて愛される楽曲を多数発表している。12月25日には、弾き語りベストアルバム『evergreen』『evergreen2』のアナログが完全限定盤でリリースされる。

[衣装クレジット]シャツ¥30,800 / ファクトタム(シアンピーアール)、ジャケット¥82,500 / ホーク、パンツ¥46,200 キーライム(キーライムトウキョウ)

photograph:Miho Kakuta hair&make-up:Asumi Washizuka styling:Tsuyoshi Takahashi(Decoration) text:Takahisa Matsunaga

リンネル2025年1月号より
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

元記事で読む
の記事をもっとみる