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全身麻酔は「女性」の方が早く意識を戻し認知力を回復すると判明

  • 2024.12.2
麻酔後、女性の方が早く目覚めると判明 / Credit:Canva

全身麻酔は、患者の意識を一時的に無くし、手術に伴う痛みを感じなくさせる医療技術です。

昔から多くの人が全身麻酔に助けられてきました。

しかし、全身麻酔が意識を失わせるメカニズムについては、現在でも完全に解明されたわけではなく、近年の研究により徐々に理解が進んでいます。

そして最近では、アメリカのペンシルベニア大学(UPenn)に所属するアンジェイ・Z・ワシルチュク氏ら研究チームにより、全身麻酔後、女性は男性よりも早く意識を取り戻し、認知の機能を回復させると判明しました。

この研究では、この性差を男性ホルモンの一種が生じさせることも分かっています。

研究の詳細は2024年1月8日付の学術誌『Neuroscience』に掲載されました。

目次

  • 徐々に明らかになっている全身麻酔のメカニズム
  • 女性は男性よりも麻酔から早く目覚める
  • 男性ホルモン「テストステロン」が麻酔感受性の性差を生じさせる

徐々に明らかになっている全身麻酔のメカニズム

全身麻酔のおかげで、私たちは痛みなく手術を受けることができる / Credit:Canva

全身麻酔の歴史は19世紀に遡ります。

西洋で初めて全身麻酔による手術が行われたのは1846年のことでした。

それまで手術とは苦痛を伴う大変危険なものであり、その痛みとリスクの大きさから、緊急の場合にのみ行われることが多かったようです。

そのことを考えると、「気づいたら手術が終わっている」なんてことを可能にする現代の全身麻酔は、今やなくてはならない存在です。

しかし、よく知られていることですが、全身麻酔が最初に行われて180年近く経った現代でも、麻酔によって人が意識を失うメカニズムは完全には解明されていません。

もちろん、全く見当がついていないわけではなく、現在に至るまで1つ1つ証拠を集めるかのように、徐々に理解が深まってきています。

そして理解を深めるべき全身麻酔の分野の1つに、「麻酔薬に対する感受性の性差」があります。

例えば初期の研究では、「男性と女性は麻酔薬に対して同等の感受性がある」と報告されていました。

しかし、アメリカのウィスコンシン大学(Universities of Wisconsin)による2022年の研究では、「手術中に意識を戻す可能性は、男性と比べて女性の方が約3倍高い」と報告されており、議論の余地があります。

そこで今回、アメリカのペンシルベニア大学(Penn)に所属するアンジェイ・Z・ワシルチュク氏ら研究チームは、マウスと人間を対象に、麻酔薬の感受性に対する性差を調査することにしました。

女性は男性よりも麻酔から早く目覚める

麻酔後、男性よりも女性の方が早く意識と認知力を回復させる / Credit:Canva

最初の研究には、22~40歳の健康な成人30名(男性18名、女性12名)が参加しました。

彼らは3時間にわたり、全身麻酔に一般的に使用されている吸入麻酔薬「イソフルラン」を投与されました。

そして麻酔中は、脳波検査(EEG)により、脳活動が記録されました。

また麻酔後は、30秒ごとに聴覚への合図が再生され、聞こえた場合に手を握るよう指示されました。

さらに3時間にわたり、30分ごとの認知テストを受け、被験者の認知機能がどれだけ早く回復するか観察されました。

その結果、平均して、女性は男性よりも早く意識を取り戻すと分かりました。

女性は麻酔後29分で聴覚合図に従うことができましたが、男性は45分を要したのです。

同様に、認知テストにおける速度と正確さも、男性よりも女性の方が早く回復しました。

この結果は、最近の他の研究結果と一致しており、麻酔薬の感受性には性差があることを示しています。

では、この性差を生じさせているものは何でしょうか。

男性ホルモン「テストステロン」が麻酔感受性の性差を生じさせる

マウスでも人間と同様の実験が行われた結果、メスのマウスがオスのマウスよりも早く意識と認知力を取り戻すと分かりました。

同じ濃度の麻酔薬の投与に対し、メスのマウスの方が抵抗性が高いことが確認されたのです。

麻酔感受性の性差は、主にテストステロンによって生じていた / Credit:Canva

そしてマウスを使ったさらなる実験では、男性ホルモン「テストステロン」が麻酔薬の感受性に関係していると判明しました。

例えば、オスのマウスで去勢(テストステロンの減少)を行うと、麻酔薬への抵抗性が増加し、より早く意識と認知力を取り戻すようになりました。

去勢したオスとメスでは、麻酔薬に対する感受性の性差がなくなったのです。

また、テストステロンを投与することでも、麻酔薬に対する感受性が高まり、意識と認知力の回復が遅くなることが示されました。

男性ホルモンのテストステロンは、アロマターゼという酵素によって脂肪組織で女性ホルモンのエストラジオールに変換されますが、今回の研究では、このプロセスの一部が、オス(男性)の麻酔感受性と関係していることが明らかになりました。

しかし、脳波検査の結果には、これらの性差が反映されず、研究チームは、「従来の脳波検査よりもさらに精密な検査方法を開発する必要がある」と考えています。

今回の研究では、人間やマウスにおいて、女性(メス)の方が、男性(オス)よりも、全身麻酔への抵抗性が高く、意識と認知力を早く回復すると判明しました。

また、その性差には男性ホルモン「テストステロン」が関係していることも分かりました。

「手術中に意識を取り戻す」という悲劇をできるだけなくすためにも、今回の発見は大いに役立つことでしょう。

全身麻酔に対する私たちの理解は、さらに一歩進みました。

参考文献

After exposure to anesthetics, females regain consciousness and cognition faster than males
https://www.psypost.org/after-exposure-to-anesthetics-females-regain-consciousness-and-cognition-faster-than-males/

元論文

Hormonal basis of sex differences in anesthetic sensitivity
https://doi.org/10.1073/pnas.2312913120

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

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