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天才頭脳&財力におばあちゃんのサバイバル術で立ち向かう!はやみねかおるが贈る冒険小説『都会のトム&ソーヤ』【書評】

  • 2024.12.2
ダ・ヴィンチWeb
『都会(まち)のトム&ソーヤ』(はやみねかおる/講談社)

探偵は謎解きを「さて――」から始めると教えてくれたのは、はやみねかおるさんの「名探偵夢水清志郎」シリーズだが、冒険のはじまりは三日月の夜こそふさわしいと知ったのは、「都会(まち)のトム&ソーヤ」シリーズだ。

主人公の内藤内人(ないと)はごくふつうの中学生、のはずだった。塾帰り、夜道をひとりで歩いていたクラスメートの竜王創也(そうや)が突如として消えてしまったのを目撃してから、その日常は変わり始める。創也は、日本有数の大企業・竜王グループの御曹司で容姿端麗、学校始まって以来の天才といわれる孤高の存在。ろくに会話したこともない彼の「砦」に招かれ、仕掛けられた罠を突破しながら最上階へとあがるゲームに参加することになる。

本シリーズがおもしろいのは、天才的な頭脳と財力で仕掛けられる罠を、内人がおばあちゃん仕込みのサバイバル術を駆使して、突破していくことである。牛乳パックに、その場で拾った鉄切れ、音楽プレイヤーに入っていた電池、さらにほこりくずをくみあわせて即席の松明をつくってしまう。「きみは、ほんとうに中学二年生かい?」と創也が聞くのも納得の知識、だけでなく、度胸と機転でゴールにたどりつく。その能力を見込んで、創也は内人を砦の新しい住人として認め、誰にも話したことのない自分の夢――究極のゲームをつくるという目的を、共有しようと決めるのだ。

夢を打ち明けることは創也にとって勇気のいることだった。けれど、内人は笑わなかった。大企業の跡取りという決められた(けれど安泰な)レールに逆らってまで夢を守ろうとする、そのための砦を自力で築き上げた創也に、内人もまた心を動かされたから。とくべつな夢をもたない、何かにがむしゃらに頑張った経験のない内人は、しばらく創也の夢につきあうことを決める。そうすれば自分も、未来を切り開けるのではないかという期待は、言い換えれば「わくわくする」ということだ。そんな相手と出会うこと以上に、人生で有意義なことがあるだろうか?

それはきっと、創也も同じ。むしろ、友達なんて不要と思ってきた彼が「きみはすごい!」と素直に称賛してくれる内人に出会えたことは、何よりの僥倖だっただろう。自分にはない知恵をもつ内人と一緒なら、究極のゲームにいちばん近いと言われている謎のクリエイター、栗井栄太の挑戦をおそれることなく受けることもできる。もちろん傲岸不遜な創也のこと、ひとりだってためらいなく突っ込んでいっただろうけれど、「きみといっしょなら、なんとかなる気がするんだ」なんて、無条件に不確定要素にベットすることは、なかったはず。

いいなあ、と思うのが、物語が進むにつれて、創也の抜けた感じがどんどんあらわになっていくことだ。二人一緒にいることで、どんどんポンコツになっていく。そして相手のポンコツさを知っているから、自分にできることで支えようと成長することができる。そんな二人ののびやかさが、たまらなく愛おしい。

ちなみに、内人が折に触れて思い出すおばあちゃんの知恵は、働く大人にもグサリと刺さるものばかり。それを読み集めるだけでも、本シリーズを追う意義はある。

文=立花もも

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