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紫式部『源氏物語 二十六帖 常夏』あらすじ紹介。魅惑的な美女・玉鬘、早口おしゃべり娘・近江の君、対照的な内大臣の娘の物語

  • 2024.12.1

平安貴族の物語として有名な『源氏物語』ですが、古文で書かれていることからとっつきにくく感じる方もいるかもしれません。古典文学を身近に感じられるように、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第26章「常夏(とこなつ)」をご紹介します。

『源氏物語 常夏』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「常夏」とは撫子(なでしこ)の異称で、巻名は「撫子(玉鬘・たまかずら)の美しさを実の父(内大臣)に見せたら、母・夕顔を思い出し尋ねることでしょう」という源氏の和歌に由来します。美しく気品のある玉鬘とは対照的なのが、内大臣に引き取られた近江の君で、当時の高貴な女性にとっては下品とされていた早口でせっかちな言動が、面白おかしく描かれます。『源氏物語』の滑稽譚と言えば赤鼻の姫君・末摘花を思い浮かべますが、痛々しいほどの不美人である末摘花に比べると、近江の君はカラッとした笑いを誘うお笑い担当といったところでしょうか。「常夏」は成長してから源氏と内大臣に引き取られたふたりの姫君の対照的な物語で、源氏に敵わない内大臣の本音も読み応えがあります。

これまでのあらすじ

玉鬘を養女として引き取った源氏だが、玉鬘への恋心を抑えることができず、言い寄っては玉鬘を困らせていた。一方、玉鬘の実の父である内大臣は、昔愛人が生んだ娘(玉鬘)を思い出し、行方を探し出そうとしていた。

『源氏物語 常夏』の主な登場人物

光源氏:36歳。玉鬘への恋心を抑えることができず、玉鬘を困らせる。 玉鬘:22歳。夕顔と頭中将(現内大臣)の子。現在は、源氏の養女となっている。 内大臣:玉鬘の実父。雲居雁の父でもある。 夕霧:15歳。源氏の実子。初恋の雲居雁を今もなお思い続けている。 雲居雁:17歳。父・内大臣によって、恋仲だった幼馴染の夕霧と引き離されている。 近江の君:内大臣の娘として引き取られたが、品がなく評判がよくない。 弘徽殿女御:19歳。内大臣の娘の一人で、冷泉帝の妃。

『源氏物語 常夏』のあらすじ

暑い夏の日、源氏は夕霧や若い貴公子たちを伴って東の釣殿(つりどの)で涼みながら魚料理や酒を楽しんでいた。内大臣の息子たちも訪れたので、源氏は最近内大臣が引き取った近江の君という娘の噂を弁少将(内大臣の息子の一人)に確かめた。弁少将は噂を認めながらも、この出来事を「父や家の名誉を傷つけるようなこと」と話した。源氏は、内大臣が好き放題遊び歩いた結果だと皮肉を言い、息子の夕霧に「せめて、(夕霧が思いを寄せる雲居雁の姉妹である)近江の君を妻としてみたらどうか」とからかった。

その日の黄昏時、玉鬘を外に連れ出した源氏は、手持ち無沙汰にしている若い貴公子たちの姿をこっそりと覗き見させながら、夕霧と雲居雁の幼い恋を裂いた内大臣の愚痴をこぼした。やはり源氏と実父の間に隔たりがあることを知り、玉鬘はやるせなさを感じた。

源氏から内大臣が和琴の名手であることを聞いて興味を持った玉鬘は、思わず源氏に近寄り篝火のほのかな明かりの下で和琴の手ほどきを受けた。玉鬘の可憐な姿に、諦めがつかない源氏は、いっそこの邸に住まわせたまま誰かの妻にして、人のものになった後に自分の愛人にしてしまおうかとも考えるほどであった。

一方、内大臣が引き取った近江の君はというと、あまり評判がよくない。息子の弁少将から近江の君の件について源氏が皮肉を言っていたことを聞かされ、苛立ちを抑えることができない。近江の君の悪評に比べ、源氏が見つけ出したという姫君は素晴らしいと噂になっているし、夕霧と雲居雁の一件も、源氏が頭を下げれば結婚を認めようとも思うが焦る様子もなく、内大臣は面白くない。

近江の君の扱いについて、追い返すこともできず、かといって邸にとどめておけば人の目が気になると苦慮した内大臣は、弘徽殿女御に教育を任せようと考えた。品のない近江の君の言動に苦笑し、特に早口で落ち着きのない話し方は気に障ると思う内大臣だったが、容姿は人が言うほど悪くなく愛嬌もあるのにとも思っていた。内大臣から弘徽殿女御のもとで行儀見習いをするよう命じられると、近江の君は大喜びをしてすぐに女御に手紙と歌を送ったが、おかしな内容の和歌と文字の書きぶりに、女房たちは失笑。「(近江の君の訪れを)待っています」という女御からの返事を受け取り、意気揚々とめかし込んで支度をした。

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