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2010年2月号から再認識。未来とは、現在の積み重ね【連載・ヴォーグ ジャパンアーカイブ】

  • 2024.12.1
Photography_ Inez van Lamsweerde and Vinoodh Matadin , Model : Abbey Lee
Photography: Inez van Lamsweerde and Vinoodh Matadin , Model : Abbey Lee

14年前の誌面で提唱された「未来のために今、やっておくべきこと」は、良い睡眠・良い食・たゆまぬ学習の3つ。ちゃんとやった人とそうでない人の差は大きそうだ。私はここ10年あまり、ろくに寝ていない。毎日規則正しく7時間眠る生活に心の底から憧れている。これを書いている今も、徹夜明けだ。6年ぶりにスマホを機種変更し、メールのデータ移行でバグって難儀した。我らデジタル原始人(最新のスマホも、未来人から見れば素朴な石器だ)の悲しみを、10年後には少しは笑って振り返ることができるのだろうか。パスワードのない世界に転生したい。

2010年、ファッションのマストバイアイテムはセリーヌをはじめとした女性デザイナーの作る服やバッグだったという。ああ、覚えている。なんかセリーヌがスッキリステキになったな! って思ったら、みんな同じバッグを持ち始めたんだっけ。08年にセリーヌのクリエイティブ・ディレクターに就任したフィービー・ファイロはそれまでの2年間、ファッションの世界を離れて子どもと過ごしている。掲載されたインタビューでは「2年前にようやくメールアドレスを手に入れたの/今でもブラックベリーは持っていなくて、携帯電話を使っているわ/そういうもの(SNSなど)って時間を取られるし、私に仕事と家族以外のものに割く時間なんてないのよ」と語っている。

さすがに今は彼女も自身の名を冠したブランドをオンライン展開しているが、確かに私生活まで始終オンラインでは疲れるし、子どもとの時間を最優先にしたい時期もある。

私の周囲でも、子どもと過ごすために仕事を辞める決断をした優秀な女性たちがいる。キャリアをしっかり築いた上だからできることだろうが14年前だったらまだ勇気のいる決断だったかもしれない。未来のために今を犠牲にしてがむしゃらに働くよりも、一度きりの人生をそのときどきで充実して過ごしたほうがいいと考える人が増えているのではないだろうか。滅私奉公を求める組織には人が集まらなくなったし、男性育休の取得も促進中。今我慢すれば将来が報われるという発想ではなく、幸せな今の延長上にこそ幸せな未来があると、みんな気がついたのだ。

2010年は「婚活」が流行りでもあった。今や一般名詞になったが、結婚活動ことコンカツは当時の大トレンドで、好条件の結婚が人生を変えてくれると期待する女性も多かった。男女の収入格差が大きい日本では、女性は結婚相手の年収次第で生活レベルが大きく左右される。残念ながらそれは現在も変わらない。何より婚活は効率がいい。偶然の出会いから恋愛していざ結婚となったときに諸条件のギャップに悩むのでは、甚だ時間と手間がかかる。子どもを望むのなら尚更、悠長に時間をかける余裕はない。私の知人も忙しく働いていたが数年前にマッチングアプリで出会った相手と結婚して、いわゆるパワーカップルとして睦まじく子育てしている。お互いに条件を納得した上でのことだから話も早いのだろう。

でも2010年の誌面には、流行りの「婚活」に批判的な識者のアドバイスも載っている。社会学者の上野千鶴子は、女性は婚活にかける時間をキャリアに投資したほうが良いと指南する。もはや結婚はアガリではなく、離婚するかもしれないのだから、まずは自身のキャリアをしっかり築けというアドバイスには説得力がある。未来のために、頼りになる自分を育てるべし!というのはいつの時代でも同じだろう。

私は2010年に会社を辞めて独立した。それが決断できたのは、夫の収入があったからだ。だがその3年後には夫が仕事を離れ、私は思いがけず片働きの身となった。そこで、せっかく夫が子どもたちのそばにいられるようになったのなら、二拠点生活をしてみるか! と思い切って息子たちをオーストラリアで育てることにした。そんな大冒険ができたのも、私が勤め人ではなかったからだ。日豪往復の渡り鳥生活なんて、会社に勤めていたら不可能だし、考えつきもしなかっただろう。今ではリモートワークも可能だが、当時はそうではなかったから。そんなつもりで会社を辞めたわけではなかったけれど、結果として独立は自身と家族の未来を広げる決断だったと言える。いつも、先のことなんて細かく計算していない。毎日最大限に頭を使って、やってみたい、今ならできる! と思って踏み出した方向へと、地道に歩みを重ねた結果だ。誌面では、本を読みなさい、映画を見なさい、旅をしなさいと人生の先輩たちがアドバイスをしてくれている。自分への投資も大事だが、ヴィヴィアン・ウエストウッドの言葉は深く刺さる。「世の中を理解しようと努めなさい/もし世の中をもっとよくしようと考えるなら、人生はもっと意味のあるものになるでしょう」「真剣に取り組むことをしないばかりに、人は人生を無駄にしてしまう/しなければならないことが起こったら、その責任を引き受けよう」。先ばかり見ていないで、今の世の中にしっかり関わりを持つ。自分の持ち場で最善を尽くす習慣が、歩みを強くするのだ。

Photos: Shinsuke Kojima (magazine) Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai

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