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何が正しいかよりも、自分はどう考えるか。優しい風が運ぶ異国の記憶

  • 2024.12.1

潮風がちょっぴり混ざった温かく優しい風の匂い。
中学3年生だった15歳のときを思い出す。その年、私は3ヶ月間ニュージーランドに留学した。家族旅行で海外へ行くことはあったけど、海外に住むのは初めてだったし、長期で親元を離れるなんてなおさらだ。さらに、行った当初は英語は全く話せなかった。当時はまだガラケーが主流で、自分のパソコンを持つことさえも珍しいような時代だった。電子辞書を駆使して毎日必死に英語を学び、YouTubeなどの誘惑もなく英語漬けの日々を送れたことで英語力が伸びたと思う。電子辞書を使っていた日々がとっても懐かしい。

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私が通ったのは全校生徒2000人ほどの現地の学校だった。ニュージーランドの学校は日本の高校のように1日中同じクラスの人と同じ授業を受けるのではなく、自分でカリキュラムを組んで、授業ごとに教室を移動し、毎回違う生徒たちと学ぶ大学のようなシステムだった。短い時間で友達を作るのは難しかったけれど、多様な文化や価値観を持つ人々がいて、毎時間違う生徒たちと出会う経験は新鮮で貴重だった。

ホストファミリーは台湾人のお母さんとヨーロッパ出身のお父さん、幼稚園生の女の子と生まれたばかりの男の子の4人家族。3歳離れた北京出身の留学生と、台湾から一時的にお手伝いしに来ていたホストマザーのお母さんもいたので、7人で一緒に過ごした。家では、台湾語、中国語、英語が飛び交っていて、まさに異文化の真ん中にいるような感覚だった。ホストファミリーは熱心なクリスチャンで、週末は教会へ行き、平日夜も仲間たちと集まって聖書を学ぶ夕食会もあった。新しい環境で日々、発見と学びに満ちていた。

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多くの人々の親切にも救われた。ある夜、バスで行き先を間違え終点まで行ってしまった時、運転手さんがわざわざ引き返して目的地まで送ってくれたり、夜遅くにホストファミリーのお迎えを外で待っていると、「夜は一人だと危ないから」と見知らぬおばちゃんが一緒に待ってくれたこともあった。そして、留学を始めて1ヶ月が過ぎた頃、ふと涙が止まらなくなり、ホームシックになった。そんな時にずっとそばにいてくれたのは一緒にホームステイしていた中国人の留学生だった。彼女のおかげで寂しさが和らいだのを今でも覚えている。

ニュージーランドは本当に様々な人種の人々がいた。仲良くなった現地の友人たちも、台湾、韓国、中国、ヨーロッパ、インド系のルーツを持つ人たちだった。現地では、日本以上に異なる考え方や価値観が存在し、そしてそれが自然に受け入れられていた。日本では、「みんなと同じようにする」ことが望まれ、「みんなと同じでなければ正しくない」と言うような雰囲気がある気がする。しかし、何が正しいかを追い求めるよりも、自分がどう考え、そして相手を尊重し、違いを受け入れることこそが大切であると気づかされた。

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今も時折、ニュージーランドで感じていた風の匂いと同じような優しい風が吹くたびに、あのときの記憶がよみがえり、留学時代の私のもとへと連れて行ってくれる。現地で出会った人たちが、今もどこかでそれぞれの幸せな道を歩んでいることを願いながら、私の中で確かに生き続けるあの時間を懐かしく思う。

■森のひなたのプロフィール
本と雑貨、コーヒーが好き。最近どんどんインドア派になってきています。一番好きな場所は家。

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