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結婚も子育ても知り尽くした妻と、すべてがルーキーの夫の、愛おしい家族のかたち【私たちのパートナーシップ Vol.6・後編】

  • 2024.11.30

大きなテーブルを囲んで、みんなでワインを飲んで

ワインバー「祖餐」を営む、石井英史(左)と美穂(右)。
ワインバー「祖餐」を営む、石井英史(左)と美穂(右)。

V お二人が一緒に仕事をするようになった経緯は?

英史 月の満ち欠けに即してつくられる自然派のワイン満月の夜に感じながら飲む「満月ワインバー」という取り組みが、2011年の震災のあとに仙台や山形、盛岡から九州まで全国に広がり、いろんな飲食店の仲間とつながっていきました。さらに2012年にはインポーター「ヴィナイオータ」の太田久人さんと美穂さんと一緒に1カ月イタリアへ行くなどして、また新たな出会いもあり。日本各地や世界中をめぐる中でのつながりを生かして、山梨県北杜市にあるワイナリー「ボーペイサージュ」をお借りし、ワイナリーを開放したイベントを企画したのが、二人で初めて一緒にした大きな仕事。それに加え、自分が個人的に買ったワインがどんどん増えて、合計で200本以上あるのに自分や友人と飲むしかないから、美穂さんにそれを売りなさいと(笑)

美穂 家の物置だけでも12ケースくらいのワインがあって、これはどうするんだろうかと。

英史 僕は美穂さんと一緒にお店をしたいと思っていたんです。というのも、そのミモザの咲く自宅には大きなテーブルがあり、よく人が集う家でね。仕事終わりの飲食店の人が来たり、全国各地の友人やフランスやイタリアの生産者とかも来たりして、みんなでワインを飲みながら、美穂さんがある食材でご飯を作って。

四角四面じゃないパートナーシップの流れつく安らぎの場

美穂 夜11時開店みたいな感じでね(笑)

英史 それがすごく面白くて。知り合いでも、知り合いじゃなくても、大きなテーブルを囲んで皆が友達になっちゃう感じのお店はいいなと思って。そしてそれまで僕はイタリアンフレンチのお店でしか働いてこなかったのですが、美穂さんの作る和食がすごくワインとしっくりきたんです。それから鎌倉駅近くにあった小さなコーヒースタンドを月に一回間借りして「ピルグリム」というお店を開き、美穂さんがご飯つくり、僕がワイン出したのが12年あたりのこと。

美穂 私たちのお店とパートナーシップは、一本の道になっていると思うんです。まだ10年前は結婚に対する社会の固定観念がある中で、石井くんはそのルールになびかないし、私も結婚や離婚など自分のルールで進みすぎるタイプ。そんな二人がくっついたからこそ、今のスタイルができあがってきたと感じます。四角四面じゃない内容が、このパートナーシップと店作りの中で良くも悪くもずっと生きている。

英史 そういうふうにつながっているのかも知れない。その後、息子が2014年に生まれて、今の物件と偶然に出会い、「きっとお店をやったら子どもも喜ぶよ」という美穂さんの言葉も後押しし、「祖餐」がオープンしました。それこそ、大きなテーブルを囲って皆でワインを飲めるお店を。

ワインの妖精のテレパシーと、ゆるりと浸透する料理と

2015年より「祖餐」の改修工事を行う二人。
2015年より「祖餐」の改修工事を行う二人。

V 仕事のパートナーとして尊敬していることや、大切にしていることとは?

美穂 石井くんは研ぎ澄まされた受容体なんです。この人の中には、ワインのデータベースがたくさんあり、相手のデータベースにアクセスしながら、その人の飲みたいものを出せる能力がある。自分が出したいワインを出すのではなくて、相手のものをキャッチして出す、ある種のテレパシーのような。そうやってワインに変換できる人はあまりいないと思う。相手の心を鷲掴みにしながら、自分の主張を出しすぎず、場を持っていく感じ。

英史 僕がやっているわけじゃない。僕を通して何かがやっている。

美穂 ワインの妖精がやっているんだね(笑)。なので私の役割は、食べた瞬間に感動する食事ではなくて、帰ってから自分に浸透しているのを感じるような料理を出したいと思っています。来てくれた人がワインに気持ちを向けて、一緒にいる人との時間を満喫してもらう。その後しばらくしてからふと、「あの料理、美味しかったな」って思ってもらえるのが、一番リラックスした空間なんじゃないかなと。石井くんはもっと料理も前に出てきていいと思っているかも知れないけれど。

V そうだったのですね。ワインとともに美穂さんの料理を愛しているお客さんばかりだと強く感じますが。

美穂 石井くんと私が考える一番の中央値となりそうなのが “実家の料理”。お母さんの料理って、すごく美味しくなきゃいけないわけじゃないけど、自分の希望は叶えてくれるものじゃない? そうしたほっとする料理でも、やっぱり石井くんはうまいから緩急をつけてワインを出す。

もう一つ尊敬しているのは、五感のバロメーターが変わらないところ。たとえば私は、ほぼほぼ美味しいものは、美味しいって言っちゃう。それはいいところを探す癖があるから、自分の誇れる部分でもあるんです。でも石井くんはどんなに周囲が美味しいと言ってても、自分の中で100点に至っていなかったら、レスポンスを返さず、うんとも違うとも言わない。だからこそ、いろんな人がワインについて彼を信頼してやってくるんだと思う。

かわいい夫への一番の不満

V 石井さんが美穂さんの尊敬しているところや、パートナーシップを育む上で大事にしていることはどんなことですか?

英史 頭の回転が速いのと、俯瞰視点で物事を見れることはすごい。そして出会ったときから感じていることですが、美穂さんは喋ると面白い。お客さんが喋りたいことを引き出す質問ができる。なのでできればお客さんともっと喋ってもらえたらいいなと思っています。あとは、夫婦でやっていると甘えがあるので、気持ちよくお仕事してもらえたらいいなと思い、カウンセリングの出張などはなるべく尊重したい。

美穂 かわいいでしょう。頑張っているの。

英史 はい。大事なのは、できるだけ素直で正直でいること。掃除と洗濯も、なるべくやります。

美穂 私の一番の不満は、前は「ワインちょうだい」と言ったら一生懸命考えて出してくれてたけど、最近は終わりそうな瓶底を出してくれることかな(笑)

子育て経験値の大きな差は脅威なのか

V 子育てにおいては?

美穂 3回結婚して子どもを育てていると、私は傾向と対策における経験値がそれだけあるんです。でもそれは逆に、データベースがない側からするとたぶん脅威だと思う。

英史 そうだね。それに関してはあんまり二人で話したことはないけど、お互い初めて親になったタイミングだと、一緒に切り拓いていく感じは多かれ少なかれあるのではないかと思います。でもうちは全部それがゼロだから、自分ができるようになっている感じがしない。

美穂 補足すると、私は答えを言わないしやらない。石井くんが自分なりに挑戦してみて、土壺にはまってしまったときに、「大丈夫じゃない」っていうくらい。「答え知っているなら教えてよ」って思うかも知れないけれど。

英史 でも良し悪しで、楽にできてる部分もあると思う。ある意味余裕を持って、自分が息子と接することができるタイミングがあるとも感じています。子どもと触れる時間は長く持てていると感じるし、もしお互いが子育て初心者同士だったら、もっと気負ってた部分もあるのかもしれないと思う。それはなく、気楽にやってるんじゃないかな。

0歳の息子とともに。2014年撮影。
0歳の息子とともに。2014年撮影。

V すれ違いや意見が合わなかったときは、どのようにして話し合っていますか。

英史 うちは話し合うと言うよりかは、ゴリゴリにぶつかり合ってる感じがするけど(笑)

美穂 ねじ伏せようとは思っていない。でも言いたいことは言っておく。私はあまりにも俯瞰モードが強く、一週間から数年のタームで物事を見る癖がついちゃっているから、食い違って見えるかもしれないけれど。ベースはリスペクトから始まっているから、それが引き金になって大変な状況になることはないかな。喧嘩の原因は小さいことだけど、私から見ると10回のうち7回は石井くんが固まってしまっているようにもみえる。

英史 10倍になって返ってくるから、口にするのはやめておこうってことはある。

美穂 10倍で済んでる?(笑)

英史 火に油どころじゃないときもあるけれど、自分も頭の整理が必要なときは、時間と距離を置くようにはしているかな。

ぶつかり合いではなく、感情の共有

V いい夫婦ってなんでしょう。

美穂 互いを配慮し合いながら言いあえる夫婦がいい夫婦だという考え方もあるけれど、家族ではない他人とそうしているんだから、プライベートの一番近いところにいる人とは、ぐちゃぐちゃになってもいいと私は思う。私は自分以外のことは環境だと思っていて、石井くんは環境側にいない。石井くんは嫌かもしれないけど、自分の一部になっちゃっている。だから自分の中のゴタゴタもモヤモヤも全部共有する。変な話、私は石井くん以外の人とトラブルになる状況にはならないけど、石井くんとぶつかることがなくなったら、彼が環境側に行ったことになるから、それは寂しいな。

V なるほど。美穂さんの視点では、ぶつかり合っているのではなく共有しているんですね。

美穂 結婚指輪を友人に作ってもらったんだけど、プラチナとゴールドが両方どこかで被っているの。正反対だけど、くっつきすぎちゃっているみたいな。相手のことなのか、自分のことなのかわからないときがあるくらいですから。すごく私たちを表していると思う。

V 最後に、お二人は将来についてどんなことにワクワクしていますか。

英史 このお店の契約があと3年で切れるので、その後どうしようかという話しをしてて。鎌倉と、別の場所を行ったり来たりできたら面白いだろうな。たとえば、「パリ祖餐」とかがあったら、すごくいいね、なんて。

美穂 探すのが楽しみだね。

Text&Interview: Mina Oba Editor: Mayumi Numao

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