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【ネタバレ解説】『劇場版モノノ怪 唐傘』あの水は何故不味いのか?アサが捨てたものとは?徹底考察

  • 2024.11.29

シリーズとしてはかなり久しぶりの新作となる『劇場版モノノ怪 唐傘』(2024)。和紙のようなフィルターと鮮やかな色彩、そして多くを語らずとも随所のカットが雄弁に物を言う様子に、かつてのTVアニメ『モノノ怪』を観ていた人にとっては想像以上の体験になったのではないでしょうか。

ただし、雄弁と言っても抽象的な演出も多く、「この意味はなんだろう」と思う瞬間もありませんでしたか? 今回はそんな作中の気になる要素について解説・考察していきます。

『劇場版モノノ怪 唐傘』(2024)あらすじ

“天子様”の世継ぎを産むために各地から美女・才女が集められた男子禁制の場である大奥。独自の掟が敷かれた社会に、才色兼備のアサと天真爛漫なカメの2人が、新人女中として入ってきた。性格は正反対の2人だが不思議と意気投合し、互いを助け合う存在になっていく。

二人はお勤めに入るにあたり、大奥で信仰されているという“御水様”に「自分の大切なもの」を捧げる儀式に参加させられ、カメは持参した大事な櫛を捧げたが、アサには捧げるべき大事な“物”などなく、他の女中からは白い目で見られると同時に、一目置かれる存在に。そうして大奥に仲間入りした2人は、2ヶ月前に延期された「大餅曳」の準備のため、忙しない日々を過ごす。アサが順調に仕事をこなし頭角を見せていく中、カメは自分の出来なさに悩まされていく。

そんな特殊な信仰や独自の社会で過ごしていくうちに、大奥が生んだ異様な環境と“何か”の気配が蠢き出す。その正体がモノノ怪であると気づいた薬売りは、怪異を斬り祓うべく、大奥に秘められた過去を解き明かしていく……。

※以下、ネタバレが含まれます。

『モノノ怪』シリーズとは?

『モノノ怪』シリーズは、もともとフジテレビ系列の深夜アニメの放送枠である「ノイタミナ」で2006年に放送されたオムニバス形式のホラーアニメシリーズ『怪〜ayakashi〜』内で制作された「化猫」というエピソードがベースにあります。2007年には同枠で単独のTVシリーズ『モノノ怪』全12話が制作されました。

『モノノ怪』の主人公は、謎多き存在である“薬売り”。人の情念が“アヤカシ”と交わることで生まれるというモノノ怪が怪異をひき起こすところに現れ、モノノ怪を斬り祓える唯一の“退魔の剣”でそれらの退治に臨みます。

本シリーズは、放送から15周年を記念して劇場版制作のクラウドファンディング企画を実施して、今回久しぶりの新作がシリーズ初の劇場版として実現しました。このクラウドファンディングでは目標金額1000万円という当初の金額を大幅に超える5900万円が集まり、当時の放送から時間は経過していたものの未だ根強い人気を誇ることがよくわかる結果を残しました。

謎の多い“薬売り”という主人公

本作の主人公である薬売りは、まだまだ謎の多いキャラクターです。作中では明らかに時代の違うエピソードも登場するのですが、薬売りの容姿は変わって見えず、ほぼ同じ外見です。

その設定についても、今回の劇場版の公開に合わせて公式で発表している配信番組にて中村健治監督が設定を明らかにしており、モノノ怪を斬るための武器である退魔の剣は64種類あるとされ、その退魔の剣と同じ数だけ薬売りは存在しているのだそう。

今回の『劇場版モノノ怪 唐傘』では、退魔の剣“坤(こん)”が登場し、TVアニメシリーズで声優を務めた櫻井孝宏に変わり、神谷浩史が新たな薬屋を演じました。

モノノ怪を斬る“退魔の剣”の使用条件

この退魔の剣は、鞘から抜くための条件があるとされており、今回の劇場版でもその設定が踏襲されています。その条件は、モノノ怪の「形(かたち)」「真(まこと)」「理(ことわり)」を示すことです。

「形」とはモノノ怪の原因となったアヤカシの名前のこと。「真」とはモノノ怪が生まれるきっかけとなった事件の伏せられた真実。そして「理」とはモノノ怪となってしまったほどの深い情念や晴らしたい恨みなどの心の有様だとされます。

今回の『劇場版モノノ怪 唐傘』でもその3つが徐々に明らかになっていきます。

カメが井戸に櫛を捨てた時に、薬売りは“形を成した”ことを明言。のちに遺体によって濡れた床が円の姿を描いて乾いていく様子から、形が「唐傘」であることが明示されます。

続いて、前回の餅引きを務めるはずだった女中の名前が北川であることが発覚する場面で“真”を得たことが明言されます。

そして、最後にアサが自身の務めを自覚し、カメが悪臭に耐えかねるところで“理”が示されたとされ、満を持して剣が抜かれます。

アサとカメだけが水を臭がる理由は?

「理」が示されたタイミングからも、大奥でのお務めや、度々言及されるアサとカメが感じる悪臭に今回の事件の原因があることは明確です。

アサとカメが水を飲むときに感じた悪臭とはなんだったのでしょうか。

映画のクライマックスではあの水が、多くの女中たちの亡き骸が積まれた井戸から汲まれていたことが明らかになりました。多くの女中が大事なものを手放し、まさに自分を殺してきたことで大奥という社会が成り立っていることを示しているようです。

女中たちが毎日飲まされる水は、まさにそんな犠牲の上に成り立っている大奥という社会に対して、どんなスタンスにあるかで味が変わったり、登場人物の態度も変わります。

まだ大奥に入ったばかりの二人にとって、あの水はまだ受け入れがたい臭いものでした。しかしお務めが長くなり大奥の社会を受け入れてきたアサは、臭かった水がいつの間にか平気になっていきます。一方、大奥を拒絶するに至ったカメはついには水を口に含むことなく捨てている様子が描かれます。

パンフレットや配信番組などでは度々監督やプロデューサーがこの映画のテーマが「合成の誤謬(ごびゅう)」であることが明言されています。これは経済の世界でよく使われる言葉で、消費を節約するような個人のレベルでは正しいとされる行為でも、経済全体で見たときには景気を悪化させてしまう悪い行いとなってしまうような、個人で見たときと全体で見たときでは「正しさ」が変わってくる様を表しています。

大奥という社会を成り立たせるために、個人を押し殺すことはできるのか。社会を優先できるのであればあの水は平気に飲めるし、個人を殺せない人間には受け入れ難いものなのです。

北川の後悔とアサが捨てたものとは?

大奥を成り立たせるためにそれぞれが捨てなければいけないものは、思い入れのある櫛や鞠、万華鏡など、人によってはっきりと物として描かれていますが、唯一、アサだけはそういった“物”が描かれません。

しかし、アサにも“捨てなければいけないもの”があることは、北川の2回目の来訪で言及されています。その捨てなければいけない物は形があるものとは限らず、それを捨てると乾いてしまう、と語られています。

ここで「限らない」のセリフだけをカメに口にさせている通り、アサが捨てなければいけない物とは、カメへの思いであり、カメという存在です。

明らかに大奥に馴染めていないカメは、大奥という社会には不適合だとして切り捨てなければいけない。しかしアサにとっては大事な存在である……。そんな葛藤が、かつて同じように友人を切り捨ててしまい、後悔から井戸へと投身した北川という存在を呼び寄せたと言えます。

結局、アサはカメに暇をだすことになるのですが、最後にカメが新しい櫛を携えアサがカメの櫛を持っていたことから、二人の仲は壊れていないことがわかります。アサは他の女中のように大事なものを井戸に捨てたのではなく、大切だからこそ手放したのです。そのことをカメも十分にわかっているから、ラストは笑顔で大奥を後にしていました。

男子禁制という特殊な場である大奥では、同性愛も決して少なくないことであったとされていますが、二人の関係が友情だったのか、はたまた恋愛だったのか。作中でははっきり明言はされませんが、今回の事件の引き金になるほどの固い絆があったことは想像できます。

物語は『火鼠』へ!全三部作であることは示唆されていた?

先日、新たにこの劇場版シリーズが三部作であることが発表されました。次編、『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』が2025年3月14日に公開されます。物語自体はすでに決着がついていたので、驚いた人も多いのではないでしょうか。

しかし、実は映画のエンドロールでも意味深な映像が流れていたことに気づいた人もいるでしょう。

御水様として描かれた物体を取り囲む三本の柱。そこには日本神話に登場する“アマテラス”や“スサノオ”、“ツクヨミ”らしき姿が描かれ、綱らしきもので繋げられていました。

エンドロールが流れ始めた際は三本とも繋がれた綱ですが、主題歌であるアイナ・ジ・エンドの「Love Sick」が流れ終わったところで、三本のうちの一本が切れ落ちてるのが分かります。

『劇場版モノノ怪 唐傘』が三部作の一部と分かった今となってみると、なにかを示しているようにも受け取れます。

そういえば作中では御水様を「アマ……」と言いかける場面もありました。唐傘の物語こそ決着はつきましたが、まだまだ何か隠されているものはありそうです……。次編『劇場版モノノ怪 第二章 火鼠』(2025)を楽しみに待ちましょう。

※2024年11月29日時点での情報です。

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