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有村架純、30代で“新たな代表作”誕生へ 心臓移植で繋がる不思議なラブストーリーの魅力

  • 2024.12.18
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Netflix シリーズ『さよならのつづき』独占配信中

Netflixで話題になるドラマというと『地面師たち』、『極悪女王』といった、実話を元にした過激さを売りにした作品のイメージが強い。だが一方で、大石静と宮藤官九郎の共同脚本の配信ドラマ『離婚しようよ』や坂元裕二脚本の配信映画『クレイジークルーズ』のような、テレビドラマの伝統を移植した恋愛モノの作品も増えつつある。

『さよならのつづき』が描く不思議なラブストーリー

11月14日に全8話一挙配信されたWEBドラマ『さよならのつづき』もその一つだ。 本作は恋人の中町雄介(生田斗真)を事故で亡くした菅原さえ子(有村架純)と、雄介の心臓を移植された成瀬和正(坂口健太郎)の奇妙な絆を描いた物語で、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)を手がけた岡田惠和(脚本)と黒崎博(監督)が制作している。

心臓移植の後、成瀬は弾けなかったピアノが弾けるようになり、飲めなかったコーヒーが飲めるようになるのだが、やがてそれが心臓のドナーだった雄介の記憶や体質だったことがわかってくる。
偶然出会った成瀬とさえ子はお互いを他人と思えず、頻繁に連絡を取り合うようになっていく。自分の中にあるさえ子に対する気持ちは、雄介のものだと初めは思っていた成瀬だが、次第に自分の気持ちがわからなくなっていき、さえ子に惹かれていく。
劇中では雄介という死者を間に挟んだ成瀬とさえ子の濃密なつながりが描かれるのだが、成瀬の妻・ミキ(中村ゆり)から見れば二人の関係は不倫でしかなく、3人の関係は袋小路へと向かっていく。

臓器移植による人格の転移という設定こそファンタジックだが、ドラマはとてもリアルで、観ていて胸が苦しくなる不思議なラブストーリーである。

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Netflix シリーズ『さよならのつづき』独占配信中

30代になった有村架純の新境地

岡田脚本のドラマに多数出演している有村架純が主演だったこともあり、これまで岡田が積み上げてきたテレビドラマの流れを汲んだ作品になるのではないかと思われた『さよならのつづき』だが、黒崎の演出や岡田の脚本は、国内ドラマの時とは違う手触りとなっている。

予算やスケジュールの都合で日本のテレビドラマはロケ撮影を増やすことが難しく、終盤に近づくにつれ、セット撮影が増え、演技や台詞の面白さで作品を見せる方向へとシフトしていく。その制約ゆえに、ドラマ脚本家の表現力が高まってきたという側面もあるため簡単には否定できないが、海外ドラマと比べた時に映像面での貧しさをテレビドラマに感じることはとても多い。

だが『さよならのつづき』は、冒頭の雪崩による事故場面に始まり、北海道、ハワイの広大な風景がロケ撮影で描かれており、一つ一つのシーンに力が入っている。

Web版「WWDJAPAN.com」に掲載された有村架純と脚本家・岡田惠和が語るドラマ「さよならのつづき」での新たな挑戦という対談で、有村は現場の様子を語っている。

今回は黒崎博監督の他に、美術監督と撮影監督も同行しており、ワンシーン撮るごとに3人で意見交換をしながら進めていたという。その結果、細部まで作り込まれた豪華なビジュアルとなっている。

一方、脚本はこれまでの岡田作品と違い「・・・」が少なかったと有村は発言している。

その理由について岡田はテンポが落ちないように多少、少なくしたと語っているが、同時に今回の脚本は色々な国で翻訳されることを想定し「訳しにくい言葉にはしない」ように心がけたという。

何より大きな違いは、有村が演じるさえ子だろう。20代の頃に岡田作品で有村が演じていた役柄と比べると、常に物事を自分の意思で選択して行動する強い女性に変わっている。 愛嬌と明るさの奥に、弱さと不安が見え隠れするのが有村の魅力だったが、今作ではそこに働く女性ならではの強さが加わっている。
さえ子は後半、どんどん精神的に追い詰められるのだが、弱さよりも強さの方が際立っていくため最後に爽快感がある。30代の有村にとって、新たな代表作と言えるだろう。

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Netflix シリーズ『さよならのつづき』独占配信中

一挙配信がもたらした新たなストーリーテリング

おそらく『さよならのつづき』の印象が、過去の岡田作品と異なるのは、一挙配信だったことが大きいのではないかと思う。 毎週決まった時間に放送されるテレビドラマは次の話まで一週間の空白期間がある。そこで視聴者が物語の続きや登場人物の行動について想像して会社や教室で知人と話すことで口コミが広がり、作品に対する関心がじわじわと広がっていく。3ヶ月、半年、1年といった放送期間を通じて出来上がる作品を中心としたコミュニティの醸成こそが、作品の良し悪しとは別のところにあるテレビドラマの魅力だ。だからテレビドラマは長く続けば続くほど面白い。
対してNetflixドラマは全話一挙配信が標準となっている。そのため、一週間という滞空時間を武器として使えない。だが、一挙配信ならではの面白さもある。

何より最大の強みは、視聴者の離脱を防げることだ。過激な描写や登場人物がどんどん不幸になる鬱展開を描くと、テレビドラマの場合は辛そうだから次回は見たくないと離脱してしまう視聴者が現在は多い。
そのため一話完結にしたり、辛い展開で次週に続くとならないよう、視聴者にできるだけ負荷のかからない優しい展開が求められるのだが配信の場合は辛い展開が続くと、逆に少しでも負荷を解消したいという思いから、次の展開が気になり、気が付くと最終話まで手を伸ばしてしまう。

言うなれば、テレビドラマはマラソン、一挙全話配信のWEBドラマは短距離走といった感じだが、短距離走の道のりを作り込む時間は配信の方が長く費やせる。今回、岡田は全話書いた後、遡って1話をかなり書き換えたそうだが、こういった書き方はテレビドラマではできないことで、配信ドラマのクオリティが高くなる理由がよくわかる。
逆に、長丁場ならではの「遊び」が作れないのが一挙配信の弱点だ。

全10話のドラマなら、ストーリーと関係のない外伝的なエピソードを1~2話挟むことで、作品世界を豊かにすることができる。
だが、WEBドラマは終わりに向かって一直線に話が進んでいくスピード感が求められる。そのため話数も短く「遊び」の部分は切り捨てられがちなのだが、『さよならのつづき』には、一見無駄に見えるが最高に面白い「遊び」のシーンが意図的に挟み込まれている。

詳細は伏せるが、あのシーンを観た時にテレビドラマで培われた岡田の遊び心は健在だとわかり嬉しかった。
配信ドラマには得手不得手があるが、岡田惠和のようなクリエイターが参入することで、雄介と成瀬のようにテレビドラマの魅力が配信ドラマの中に溶け込んでいくのだろうと、本作を観て感じた。

Netflixシリーズ「さよならのつづき」
[出演]
有村架純、坂口健太郎
中村ゆり、奥野瑛太、伊藤歩
斉藤由貴、古舘寛治、宮崎美子、イッセー尾形
生田斗真 / 三浦友和
[脚本]岡田惠和
[監督]黒崎博
[原案・企画・製作]Netflix
話数:全8話(一挙配信)


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。