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平安時代の美と権力争いを描く…衝撃の大河ドラマ『光る君へ』ついに最終回! 視聴者の心を掴んで離さない理由

  • 2024.12.17

一年にわたって放送されてきた大河ドラマ『光る君へ』(NHK)が、12月15日の放送で最終回を迎えた。本作は平安時代を舞台にした大河ドラマで、「源氏物語」の作者・紫式部として知られているまひろ(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の生涯を描いた物語。

『光る君へ』の面白さとは

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『光る君へ』9月29日放送(C)NHK

下級貴族・藤原為時(岸谷五郎)の娘・まひろは、藤原氏の名門・左大臣家の藤原兼家(段田安則)の三男・三郎(のちの藤原道長)と幼少期に出会う。

素性を隠して散楽を見ていた三郎とまひろは打ち解け仲良くなるが、兼家の次男・道兼(玉置玲央)に、まひろの母・ちやは(国仲涼子)を衝動的に殺されたことで、まひろの幸福な幼年期は終わりを告げる。

後に、成長したまひろは三郎と再会するが、やがて彼が藤原兼家の息子で母を殺した道兼の弟だと知ることになる。

戦国時代や幕末に比べて平安時代は、貴族が政治の中心にいた戦のない平和な世の中だったという印象が『源氏物語』の影響で強かった。そのため、既存の大河ドラマと比べて平和で穏やかな物語になるのではないかと思われた『光る君へ』だったが、第1話終盤で起きたまひろの母親が道兼に惨殺される場面は、視聴者の先入観を吹き飛ばす強烈なインパクトを与えた。

劇中で描かれたのは血で血を洗う権力闘争で、藤原兼家たち左大臣家は一族の繁栄のために、敵対勢力を次々と粛清していく。
普段は美しい衣装をまとい和歌を読み、穏やかでまったりとした振る舞いを見せている上品な貴族たちが見せる裏の顔は残酷かつ暴力的で、「煌びやかな地獄」とでもいうべき貴族社会を徹底的に描いたことが、『光る君へ』序盤の面白さだったと言って間違えないだろう。

不倫ドラマの名手・大石静が描いた平安時代の「セックス&バイオレンス」

脚本を担当する大石静は発表会見で、平安王朝は映画『ゴッドファーザー』や小説『華麗なる一族』を足して3倍にしたような権力闘争の世界だったため「平安時代のセックス&バイオレンス」を描きたいと語っていた。

当時は優雅な貴族たちが支配した平安時代と「セックス&バイオレンス」という言葉の落差に違和感を覚えたが、作品を振り返るとまさに「セックス&バイオレンス」な大河ドラマだったと感じる。

80年代後半から活躍する大石静は、連続テレビ小説の『ふたりっ子』(NHK)と『オードリー』(同)を筆頭とする数々の話題作を手掛けたベテラン脚本家で、大河ドラマは『功名が辻』(同)に続いて二作目。コメディから医療ドラマまで幅広い作風で知られている大石だが、もっとも得意としているのがメロドラマだ。

特に不倫モノには定評があり、長谷川勝己の出世作となった『セカンドバージン』(NHK)は、映画も作られた彼女の代表作だ。
今回の『光る君へ』も、藤原道長とまひろの壮大なメロドラマだが、身分違いの恋ゆえに二人は結ばれず、人目を偲んで逢瀬を過ごしていた。やがて道長は源倫子(黒木華)と結婚し、まひろも父の友人で幼い時からの知り合いだった藤原宣孝(佐々木蔵之介)と婚姻関係を結ぶ。まひろのお腹の中には、道長の子どもがいたのだが、宣孝は赤ん坊を自分の子どもとして受け入れる。
時が経ち、藤原道長は権力の頂点に立ち、摂関政治をおこなうようになる。そしてまひろは、道長に依頼されて「源氏物語」を執筆することに。

道長がまひろに『源氏物語』を書かせたのは、亡くなった皇后・藤原定子(高畑充希)から一条天皇(塩野瑛久)を解放するためだった。 『源氏物語』を読んだ一条天皇は唐の故事や仏の教えがさりげなく散りばめられている博識ぶりに感心し、まひろと『源氏物語』に興味を抱くようになる。

道長はまひろを一条天皇の元に入内した娘・藤原彰子(見上愛)の女房(身の回りの世話をする女官)にして、宮中で物語を書かせるようになる。 やがて彰子も、一条天皇が読んでいる『源氏物語』に興味を持つようになり『源氏物語』を読むことで人を愛する心を知り、一条天皇の真の妻になりたいと思うようになる。

藤原彰子は、物語後半を彩るもっとも重要な人物だ。12歳で入内したため、純粋だが人の心に無知だった彰子は、『源氏物語』を読み、物語の内容をまひろに尋ねることで、女として成長していく。その後、一条天皇と彰子の子どもが生まれ、次の天皇に即位することとなる。 『源氏物語』に貴族や女房が夢中になり、その影響が宮中の政治を動かしていく姿を観ていると、物語が人に与える根源的な力を感じる。

人を楽しませ熱狂させる物語には、人を思う恋心を目覚めさせるポジティブな側面だけでなく、政争を動かす武器となり、時に人の命すら奪うネガティブな側面もある。 数々のドラマ脚本を執筆してきた稀代のストーリーテラーである大石静は、物語の持つ二面性を『光る君へ』で、描きたかったのではないかと感じた。

最後まで過剰な盛り上がりを見せたエンタメ根性

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『光る君へ』8月4日放送(C)NHK

道長は体調不良を理由に出家するが、それでも政治権力を持ち続ける。 一方、『源氏物語』を書き上げたまひろは女房を辞めて太宰府へと旅立つ。そこでかつて越前で出会った医師・周明(松下洸平)と再会する。

しかし、亡き友・さわ(野村麻純)が暮らしていた松浦へと向かったまひろと周明は異国の海賊との戦いに巻き込まれ、命を落とす。
傷心の中、宮中に戻ってきたまひろだったが、道長の妻・倫子から「あなたと殿はいつからなの? 私が気づいていないとでも思っていた?」と問われ、最終回に「続く」となった。

最終話直前となっても『光る君へ』は波乱の連続で、視聴者の心を掴んで離さない。

海賊に襲われ、新しいパートナーになるかと思われた周明があっさりと退場し、今まで隠し通していた秘密の関係が正妻にバレるという超展開の連続はまさに「セックス&バイオレンス」。

ここまで格調高い物語を楽しんできた視聴者としては「そんなに盛り上げなくてもいいのにと」思ってしまうのだが、作品全体を壊しかねない過剰な盛り上がりを用意してしまうサービス精神こそが、大石静の作家性なのだろう。

最後の最後まで油断できない、エンタメ根性の塊のような大河ドラマだった。最終回はぜひ、その目で確かめてみてほしい。


ライター:成馬零一

76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。