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「そもそもあなたがモラハラしたから」最終回目前、田中圭“宏樹”へ消えない厳しい目…木曜劇場『わたしの宝物』

  • 2024.12.18

木曜ドラマ『わたしの宝物』が最終回直前。主人公・神崎美羽(松本若菜)が犯した罪が夫・宏樹(田中圭)に明かされ、“不倫相手”である美羽の幼馴染・冬月稜(深澤辰哉)と宏樹が対峙する展開に。娘の栞が誰の子であるか、冬月自身が知らない様子であったことに衝撃を受けた宏樹は、美羽との離婚話を進めながら一つの答えを選びとる。その様子に切なさを感じるも、SNS上では「なんだかモヤモヤする」の声も。

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(C)SANKEI

宏樹にモヤッとする理由「モラハラどこいった?」

栞の父親が自分ではなかったこと、実父にあたる冬月が真実を知らされていなかったことに驚きを隠せない宏樹。かつては栞とともに海に入ろうとしたり、美羽を追い出して栞と二人で生きていこうとしたりと、宏樹も動揺していた。

ついに冬月と対峙し、美羽との離婚に向けて話を進めていくなかで、宏樹はある一つの答えに行き着く。血の繋がりがない宏樹は、血縁関係だけで見ればどこまでも関わりがなく、第三者でしかない。誰よりも、何よりも大切な栞との思い出を消していき、自分だけがそっと姿を消すことを選んだ宏樹。その様は、多くの視聴者の心を揺るがせた。

そもそも美羽が、栞の父を宏樹だ、と偽ったのが騒動の始まりだと思わざるを得ない。しかし、そこからさらに根源を辿ると、美羽がそんな行動に至った原因として「宏樹のモラハラ」が浮かび上がってくるのだ。

どんどん冷たくなっていく夫婦仲を案じて、美羽は必死に宏樹に働きかけようとしていた。何を言われても、何をされても笑顔で受け入れ、タイミングがあれば子どものことについて話し合おうとする。彼女の態度はどこまでも誠実だったはずだが、頑なに拒み、自分の要求だけを通そうとしてきたのは宏樹のほうだった。

宏樹にも、理由はあった。ただ美羽のことを疎んじていたわけではなく、会社で陥る境遇がストレスに繋がり、それを美羽にぶつけていただけのこと。愛情がなくなったわけではなく、あくまで環境がそうさせたのだ、と視聴者に思わせる脚本になっていた。

栞が生まれて、宏樹はわかりやすく変化した。元の優しさを取り戻し、栞にはもちろん美羽に対しても柔らかく接し、配慮を怠らないようになった。

それでも、宏樹が美羽にモラハラをしていた事実は覆らない。栞との思い出の写真を、一枚一枚確かめるようにしながら消去していく宏樹に同情しながらも、シビアな視聴者は「そもそもあなたがモラハラしたからだけどね」と厳しい目を忘れていない。

それぞれが選ぶ、理想の幸せ

すべてを知った宏樹は、美羽と離婚したあとも一切、栞とは会わないことを決めた。そして「最後に三人で会いたい」と指定した場所にも、自分ではなく冬月に行かせるよう仕向けた。実質、血の繋がりのない宏樹は、栞と会う理由がない。冬月という実父が近くにいるなら、なおさらだ。

この物語は、主人公である美羽をはじめ、登場人物それぞれの「いちばん大切な宝物」を探る過程を描き出したものだった。モラハラ、不倫、托卵、嫉妬……。さまざまなキャッチーな要素で構成されてはいるものの、丁寧に慎重に中身を解体していくと、驚くほど純粋でシンプルなメッセージが表出する。

人は、欲張りだ。欲しいと思ったものは、すべて欲しい。難しいと思える状況でも、それを両立させたい。それでも、欲は膨大になればなるほど首を絞める。ならば「自分にとっての宝物」は一つに決め、それを守り抜くにはどうしたらいいのかを考える。そのことだけに集中する。そんな潔さを浮き彫りにした物語だった。

彼らはどこへ行き着くのか。どんな答えを見出すのか。それが彼らにとっての“幸せ”の形に結実してくれることを祈る、そんな最終回目前の9話だった。



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_