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父急逝で突如家督を受け継ぐことに...イタリア・ピエモンテの美しいワインを造り出す、20代女性当主の物語。

  • 2024.12.12

イタリア3大銘酒のひとつに数えられるのが、ピエモンテ州で造られるバローロだ。

その芳醇な味わいから"ワインの王"と称される。フローラルな香りとみずみずしい果実味、そしてやわらかなタンニン。どこかブルゴーニュワインを思わせるような奥深くエレガントな味が飲む人を瞬時に魅了する。

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「ピオ・チェーザレ バローロ 2019」:イタリア・ピエモンテ州。ネッビオーロ100%。チェリーやサクランボの香り。豊かな果実味とピュアな酸味。タンニンもシルキー。エレガントで正統派のバローロ。美しい熟成を見せ、今飲んでも十分に美味しいが、まだまだ熟成のポテンシャルが大きい。

バローロはクーネオ県ランゲ地方のバローロ村やラ・モッラ村を中心にした11地区で産出されるが、バローロと名乗るには厳しい規定をクリアしなければならない。使用するブドウ品種はネッビオーロのみ、熟成は3年(うち、木樽熟成2年)、リゼルヴァで5年以上熟成させることが義務付けられている。

数あるバローロの中でも、伝統的な造りで世界でも高い評価を受けているのが1881年創業のピオ・チェーザレだ。5代目当主のフェデリカ・ボッファは、まだ20代ながら、従兄弟であり、共同経営者のチェーザレ・ベンヴェヌートとともにこの老舗カンティーナ(ワイナリー)を率いている。

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5代目のフェデリカ・ボッファさん。従兄弟のチェーザレ・ベンヴェヌート氏とともにカンティーナを牽引。親日家で、来日は「数えきれないほど」。日本食も大好きだという。

実は彼女が家督を継いだのには、やむを得ない事情があった。ピオ・チェーザレの名を世界的に有名にした父ピオ・ボッファが急死してしまったことで、若くして当主となったのだ。

「2021年のコロナ禍で父は亡くなりました。当時、私はただショックで、これからどうしたらいいのか、まず何をすべきなのか、まったくわかりませんでした」

とはいえ、カンティーナを支えるのは自分しかいない。フェデリカは、手始めにひとつずつ実務を覚えていったという。

「私を支えてくれたのはファミリーの絆でした。ピオ・チェ―ザレは昔ながらの家族経営で、それぞれの世代の個性をワインに反映してきました。

創設者のチェーザレ・ピオは、ピエモンテのテロワールが感じられる高品質のワインを造ることを目標としてカンティーナを設立し、2代目である曽祖父は、『ピオ・チェーザレ』をこの地のベンチマークとして発展させました。私の父は、壮大なヴィジョンと情熱をもってランゲ地方のブドウ品種で世界的ワインを造ることに精力的に取り組み、ファミリーのワインを世界基準に押し上げました。

そして私の代には何ができるのだろう、とずっと考えていました。ですが、私の傍には父の薫陶を受けた従兄弟のチェーザレがいました。彼とは兄妹のように育ったので、彼と力を合わせれば大丈夫だと、私は少しずつ前向きになっていきました」

その後も、「父のようになるのは無理」と何度も弱気になったというが、そんな彼女の指針となったのが、幼少期からの父との思い出だったという。

遊び場はいつもブドウ畑やセラー。大好きな父の後をついてまわり、いつも仕事ぶりを見ていた。何をしているのかわからなかったが、働く父を見ているのが「ただ楽しかった」。そして、父はいつもフェデリカにこう話していたという。

「大切なのは基本だよ。何ごとも丁寧に行うんだ。そうでないと、いいワインは造れないからね」ーー。父の言葉を思い出し、不思議にも"自分にはすでに準備はできている"と確信したという。フェデリカは続ける。

「周りを見渡せば、家族だけでなく、畑を管理するスタッフや醸造に携わるスタッフなどが私を見守っていてくれたことに気づきました。彼らは父がまとめてくれた大切なチーム。これも父が遺してくれたものだったのです」

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「ピオ・チェーザレ」は1881年に設立された老舗。今年は新しいセラーも完成。

これから自分がなすべきことは、「ピオ・チェーザレ」の伝統的スタイルを守り、そしてさらにカンティーナを発展させること。フェデリカは心を新たにした。

「いま、私が取り組まなくてはいけないのは気候変動への対応です。これからは、気候変動によりブドウの生育状況も変わってきます。私の世代ではそれを注意深く見守り、対策を考えていかなくてはいけません。また、カンティーナのスタッフが心地よく働けるよう、配慮することも、私に課せられた役割だと思っています」

自らの仕事について真摯に話す彼女だが、時折見せる花のような笑顔が印象的だ。私生活について尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「私はカンティーナのオーナーである前に、普通のワインラバーです。そして食べ歩きが大好き(笑)。イタリア料理はもちろんですが、エスニックなど、友人と一緒にレストランに行って、さまざまな国のワインを飲むのが楽しくて(笑)。ワインは人生に歓びを与えてくれると、いつも実感しています。だから今回、また日本を訪れることができて、とてもうれしいんです」

ちなみにこの日のランチは、グランドハイアット東京の日本料理レストラン「旬房」の和牛をメインにした会席料理。

「和牛は『バローロ 2019』と合わせたのですが、素晴らしかった! マグロのお造りにもよく合っていて、『バローロは日本料理と合う』と実感しました。とても素敵なアッビナメント(マリアージュ)でした」と微笑む。

最後に、フィガロジャポンの読者にこんなメッセージを寄せてくれた。

「私はワインの魔法を信じています。生きていれば疲れる日も落ち込む日もある。でも、そんな時にワインを飲めばリラックスでき、心も癒やされます。私たちのワインが、皆さんにとってそんなワインであれたら幸せです」

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