1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 垂直避難とは?状況別に避難方法を解説

垂直避難とは?状況別に避難方法を解説

  • 2024.12.4

「垂直避難」は地震後の津波、大雨による浸水などの災害から身を守る方法のひとつです。垂直避難の方法と、注意点などを紹介します。

垂直避難とは?

垂直避難とは、自宅や、近隣の建物の2階以上へ避難することです。以前は水害の危険があるときには原則として、避難所への避難が推奨されていましたが、現在は鉄筋コンクリート製の高層建築が増えたこともあり、状況によっては自宅の2階や、マンションなどの建物の2階以上に避難して救助を待つ「垂直避難」も避難の選択肢となっています。

垂直避難は、津波や洪水で浸水の危険が迫っているけれども、遠くに逃げることが難しいという切迫した状況でも、選択できる可能性があります。

逃げ遅れてしまったとき

すでに浸水がはじまっている場合、歩いて避難できる水の深さは大人のひざ下(約30cm)程度までといわれています。それより浅くても、水に流れや勢いがある場合には転倒のおそれがあり、危険です。また浸水時には蓋が外れたマンホールや、水のあふれた側溝があることに気がつきにくく、落ちて流される危険もあります。

車で避難する場合も、水深が10㎝を超えるとブレーキの効きが悪くなり、30cmを超えるとエンジンが停止する恐れがあります。

逃げ遅れてしまったときは、自宅や、近くにある建物の2階以上へ逃げることが、身を守るための手段となります。

逃げるのが間に合わないとき

津波は海の水深が深いほど早く伝わる性質があり、仮に水深約4000mの南海トラフ付近を震源とする地震で津波が発生した場合には、津波の速度はジェット機レベルの時速700㎞に達します。津波の速度は水深の浅い沿岸に近づくにつれて遅くなりますが、水深1mの浅瀬に到達しても時速34㎞を保ちます。

避難に時間がかかる人

介護を必要としている高齢者、障がいのある人、就学前の子ども、日本語が得意ではない外国人などは、移動が困難であったり、避難指示に気がつくのが遅れたりして、避難に時間がかかることが想定されます。

様々な事情があって避難が難しい人でも、移動距離の少ない自宅の2階や、近くのビルまでであれば、逃げられるかもしれません。垂直避難は、小学校や高齢者施設の避難訓練などでも導入されはじめています。

水平避難との違い

自宅などの2階以上に避難することを垂直避難というのに対し、自宅など今いる場所を出て、開設された指定避難場所や、安全が確保される親戚の家、ホテルなどへ避難することを「水平避難」または「立退き避難」といいます。

垂直避難は、水平避難にくらべて避難のための移動距離が短くてすむのが利点です。ただし、浸水した土地の上に留まることになるというリスクもあります。

垂直避難ができる3つの条件

垂直避難で安全を確保できるのは、次の3つの条件を満たす場合に限ります。なお、斜面や崖地に近い「土砂災害警戒区域」に自宅がある人は、垂直避難では安全の確保ができないため、立退き避難が原則となります。

建物が倒壊する危険がない

垂直避難ができるのは建物そのものに倒壊の危険がないことが前提となります。河川の氾濫により家屋が流される危険のある「家屋倒壊等氾濫想定区域」では、垂直避難は推奨されません。

浸水の深さより高いところに留まれる

浸水の深さによっては2~3階建ての自宅では高さが足りないおそれがあります。その場合でも、近隣のビルや海岸近くに立てられた津波避難ビルなどに避難をすることができるかもしれません。あらかじめ垂直避難ができる場所を探しておきましょう。

水と食料などの備えが十分にある

自宅で垂直避難をした場合は、自治体が定めている避難場所などに比べて、支援物資が届きにくくなる恐れがあります。東京などの海抜0メートル地帯の中には、近くの河川が氾濫した場合、水が引くまでに1週間以上かかると想定されている地域もあります。垂直避難が長引いても水と食料がもつよう備えておきましょう。

住居や出先における垂直避難の流れ

実際に垂直避難をするときの流れをイメージしてみましょう。

マンション

マンションの1階に住んでいる人は、床上浸水がはじまる前に非常持ち出し袋を持って、2階以上の廊下などの共有部や、高層階に住む知人宅などへ垂直避難をしましょう。

すでに床下浸水がはじまっている場合にはエレベーターが故障したり、安全確保のために緊急停止したりすることがあります。その場合は階段を使って上の階へのぼりましょう。

マンションの高層階に住んでいる人は、避難所などへ移動することなく、そのまま自宅に留まることが安全確保行動につながります。乳幼児や要介護者、ペットなどがいる家庭にとっては、ストレスの少ない避難方法といえるでしょう。ただし、浸水の影響で停電や断水などが生じるおそれがあるのは、マンションの高層階でも同じです。水と食料、懐中電灯などの防災グッズを確認しておきましょう。

なお、津波や洪水からの一時避難場所として、近隣住民の受け入れを承諾しているマンションもあります。住人以外の人がマンションの共有部に逃げ込むことがあるかもしれないことを覚えておきましょう。

一軒家

2階建て以上の一軒家であれば、自宅の上の階へ垂直避難をすることが可能です。床上浸水がはじまる前に、水と食糧、防災グッズなどを持って2~3階へとあがりましょう。

ただし、自宅がある地域で想定されている浸水の深さに注意してください。近くの河川が氾濫すると3m以上の浸水が予想されるエリアでは自宅の2階まで、5m以上の場合は3階まで浸水する恐れがあります。

河川氾濫や土砂災害で家が倒壊する危険のあるエリアでも、垂直避難はできません。津波の場合も勢いが激しく、家が流される恐れがあります。自治体が指定する津波避難ビルなど、鉄筋コンクリートの頑丈な建物に避難をしてください。

商業施設や屋外にいる場合

浸水が想定される区域では、自治体に協力するショッピングモールやオフィスビル、ホテルなどの商業施設を一時避難場所として利用できる場合があります。日中に職場などのオフィスビルや商業施設にいた場合は、そのまま上の階へと垂直避難ができるかもしれません。施設の従業員や警備員などの指示に従い、避難が許可されているエリアへと移動しましょう。

夜間などの営業時間外であっても、商業施設の共有部や駐車場が一時避難場所として開放される場合があります。該当する商業施設を自治体のサイトやハザードマップで確認しておきましょう。

住んでいるエリアの危険度や防災について知っておこう

垂直避難ができるかどうかは、自宅のある土地の浸水リスクによります。東京・大阪・名古屋の三大都市には、海や川よりも低い土地に人が暮らす海抜0メートル地帯が広範囲に広がっています。

多くの人にとって、水害は他人事ではありません。自治体が公表しているハザードマップを確認してみましょう。

ハザードマップと避難経路の確認

津波ハザードマップや洪水ハザードマップでは、想定される浸水区域や、浸水の深さなどが確認できます。水害から身を守るために重要な情報ですので、家族で確認し、どんなときにいつどこへ避難するか話し合っておきましょう。

避難するときに避けたほうがよい道を確認しておくことも大切です。自宅から避難場所までの間に、冠水しやすいアンダーパスや、土砂崩れの危険がある崖地などはないでしょうか。高台の公園などの一時避難場所、学校や公民館などの避難所、緊急避難ができる津波避難ビルなどいくつかの避難場所について、道順とおおよその所要時間をイメージしてみましょう。実際に災害が発生したとき、危険が迫ったときの冷静な行動へとつながるはずです。

防災グッズの準備

水害により、電気・ガス・水道などが使えなくなることがあります。自宅で垂直避難をする場合でも、防災グッズの準備をしておきましょう。津波や洪水からの避難は一刻を争う場合があるので、非常持ち出し袋に荷物をまとめておくことも大切です。

・水、食料

水と食糧は3日~1週間分の備えをしておきましょう。電気やガスが使えなくなるかもしれないので、常温で保存できて、加熱調理をしなくてもそのまま食べられる缶詰やレトルトがあるとよいでしょう。水は一人につき、1日3リットルが目安です。

・モバイルバッテリー、携帯ラジオ

情報収集や緊急通報、安否確認のために、携帯電話・スマートフォンの電源を温存することが大切です。ソーラー充電や手回し充電に対応した携帯ラジオがあると、停電時の情報収集に役立ちます。

・LEDライト、カセットコンロ

電気とガスの代わりとして用意しましょう。夜間のトイレなど少しの距離でも、暗闇の中を歩くのは危険です。歩くときに足元を照らすための懐中電灯は、一人にひとつ用意しましょう。カセットコンロがあると、温かい食事をとることができます。

・携帯トイレ、その他衛生用品

停電や断水でトイレが使えなくなるかもしれません。凝固剤で固めるタイプの携帯トイレを用意しておきましょう。トイレットペーパーまたはティッシュペーパーも必要です。手洗いの代わりとして、除菌ウェットティッシュも重宝するでしょう。

・着替え、防寒具など

家の近くのビルなどへ避難するときに、衣服が濡れてしまうかもしれません。非常持ち出し袋の着替えは濡れないように、ビニール袋に入れるなどの対策をしておきましょう。季節に応じて、薄手のアルミ毛布などの防寒アイテムもあると役立つでしょう。

・医薬品

解熱剤、抗アレルギー薬、ばんそうこうなど。持病があり、服薬している薬がある人はお薬手帳とともに忘れずに持つようにしてください。

・現金、貴重品

貴重品を取りに戻って避難が遅れてしまうことのないよう、いくらかの現金、保険証のコピー、銀行の口座番号を控えたメモなどを、非常持ち出し袋に入れておきましょう。

まとめ

津波や洪水で浸水のリスクがあるときに建物の2階以上に逃げる垂直避難は、遠くまで避難することが難しい高齢者や、逃げ遅れてしまった人などが身を守る手段となります。

浸水リスクのあるエリアでは、身近な商業施設が垂直避難のできる一時避難場所として利用できる場合もあります。自治体のサイトや、ハザードマップなどで垂直避難ができる場所を確認しておきましょう。

<執筆者プロフィル>
 
山見美穂子
フリーライター
岩手県釜石市生まれ。幼いころ両親から聞いた「津波てんでんこ」の場所は、高台の神社でした。

元記事で読む
の記事をもっとみる