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減災と防災の違いは? 個人でできる7つの備え

  • 2024.12.5

災害はいつどこで起こるか分からず、完全に防ぐのは難しいものです。そこで災害にあったときの被害を減らすという意味の「減災」という考え方が広がりつつあります。防災との違い、今すぐはじめられる取り組みなどを紹介します。

減災の目的と取り組むべき理由

減災とは、災害は誰にでも起こりうるという意識のもとで、災害が起こったときに被害を減らすための行動を、私たち一人一人が積み重ね、地域の人々と共有していく取り組みです。

災害による被害を減らすには、私たち一人一人が自分で自分の身を守るために行動する「自助」、地域の人同士が助け合う「共助」、国や地方自治体による「公助」の3つで対応することが必要不可欠です。そして、実際に災害が起こったときに必要な自助・共助・公助の割合は、7:2:1だと言われています。

減災は、災害時の被害を減らす具体的な取り組みを通して、自助、共助の文化をはぐくむことを目的としています。

防災と減災の違い

減災と混同されやすい言葉に「防災」があります。防災とは、「災害による被害を防ぐ」ことです。

災害が起こるメカニズムを解明して予測や予防を行うことも防災であり、災害が起こったときの人命救助や消火活動など、被害の拡大を防ぐための応急対策も防災です。被災したまちの復旧・復興、被災した人々の生活再建も防災に含まれます。

日本に防災という考えが広がったきっかけは、1923(大正12)年の関東大震災だと言われています。都市が再建されていくなかで、火災の延焼を防ぐための公園が整備され、建物の耐震基準が設けられ、また地震研究が国をあげて行われるなど、様々な防災対策が進みました。

しかし私たちがどんなに手立てを講じたとしても、地震、津波、火山の噴火、雷、暴風、洪水などの自然災害をゼロにすることはできません。そこで災害が発生したときの被害をいかにして減らすかという減災の取り組みが、防災にならび重視されるようになりました。

個人でできる減災の備え

減災のために今日から始められる、具体的な7つの備えを紹介します。

自助・共助

自助とは自分の命を自分で守る力です。具体的には、災害に備えて水と食料を備蓄しておく習慣、状況に応じて自ら避難する判断力などが、災害時の被害を減らすことにつながるでしょう。

共助とは、地域の人々が助け合う力です。避難をするときに近くに住む高齢者にも声をかけるなど、共助の力を発揮するためには、まず自分の身を自分で守る自助ができていなくてはなりません。

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、がれきの下から助け出された人の8割が家族や近所の住民などにより救出されたという調査結果があります。2011年の東日本大震災では、「まず自らが率先避難者となれ」という防災教育を受けていた中学生が近隣の小学生や高齢者とともに避難をした事例、行政組織も被災して住民に支援物資が届かないなかで地域の人同士が協力して食料を集め、分け合った事例なども報告されています。

阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模災害が今後また発生したときも、被害の拡大を防ぐためには、自助・共助の力が重要になると考えられます。

地域の危険を知る

自治体ごとに作成されているハザードマップ(防災マップ)を見ると、その地域で起こりうる災害のリスクを具体的に知ることができます。近くの川が氾濫した場合の浸水リスク、近くの断層を震源とする地震で想定される揺れなど、住んでいる地域にどのような危険があるかを知っておくことが、災害時の被害を減らす行動へとつながります。

ハザードマップを参考にしながら、自宅、職場、学校などで被災した場合、どこにどのように避難するかを考えてみましょう。災害の状況に応じて、冠水のおそれがあるアンダーパスや、土砂災害の危険があるがけ地を避けて、安全な避難経路をとることが重要です。

地震に強い家

地震のときに倒れやすい建物と倒れにくい建物があることを知り、地震に強い家に住むことも、減災につながります。特に1981(昭和56)年より前に建てられた家は、古い耐震基準で建てられているため、大きな地震に耐える強度がないかもしれません。住み替えや、柱と柱の間に筋交いを入れるなどの耐震補強を検討しましょう。

自治体ごとに耐震診断や耐震補強にかかる費用の助成を行っているので、条件や金額などを確認してみてください。地震保険に加入しておくことも、被災した場合に住宅の再建や修繕を行う手立ての一つとなります。

家具の固定

首都直下地震が発生した場合、東京の被害想定は建物倒壊(46.2%)に次いで家具類の転倒・落下(34.2%)の割合が高くなっています。阪神・淡路大震災では明け方の地震が就寝中の人々を襲い、倒れてきた家具の下敷きとなった人が多くいました。

寝室にはできるだけ背の高い家具を置かない、タンスや本棚などの背の高い家具は壁に固定する、家具のレイアウトを見直していざというときに逃げられる安全空間を作るなど、被害を減らすための対策を行いましょう。

家具の転倒防止対策には、家具と天井の間に使うつっぱり棒タイプや、床との間に挟んで使うストッパータイプなど、壁に傷をつけない器具もあります。

なお東日本大震災では、マンションやオフィスビルなどの高層階で家具の横滑りにより出入り口がふさがれたり、家具と壁の間に人が挟まれたりする被害が発生し、新たな課題となっています。高層階では背の低い家具にも、移動の防止対策を施しましょう。

防災グッズなど日頃からの備え

災害が起こったときになくては困るもの、あると役立つものは、性別や年齢によっても異なります。生理用品、入れ歯、補聴器、介護用の紙パンツ、乳幼児のミルクや離乳食、紙おむつなど、必要なもののリストを作成しておき、避難する際にも忘れず荷物に入れるようにしましょう。身分証、かかりつけ医の診察券、服薬している薬が分かるメモなどは、日頃から財布などに入れてすぐ取り出せるようにしておくことが大切です。

災害発生時に救援物資が届くまでの備えとして、3日~1週間分を目安とした水と食料の買い置きも必要です。停電時に役立つ懐中電灯(LEDライト)は、一人にひとつ用意しておきましょう。

家族で防災会議

災害は、家族みんなが一緒にいるときに起こるとは限りません。離れている家族の安否を確認することは、多くの人にとって災害発生時の最優先事項になるでしょう。

災害発生時には電話やインターネットがつながりにくくなることが想定されます。災害用伝言ダイヤル(171)や、災害用ブロードバンド伝言板(web171)、大手携帯電話会社が運営する災害用伝言板サービスなどを利用して連絡を取り合う方法を、家族と相談しておきましょう。

自宅、学校、職場の近くで指定されている避難場所を確認し、「災害が起こったときはこの避難場所にいるかもしれない」と家族で確認しておくことも大切です。

地域とのつながり

阪神・淡路大震災や東日本大震災では、地域の人々の協力で助かった命が多数ありました。高齢者や乳幼児のいる家庭では、避難をするにも誰かの手を必要とする場合があります。普段から近隣の人とあいさつを交わし、いざというときに助け合える関係を築いておきましょう。自治会などが主催する避難訓練があったら参加してみると、災害発生時に安否確認をする方法や、家の近くの避難場所などを知ることができるかもしれません。

とはいえ、国土交通省の調査によると、都市部では「近隣の人とほとんど、もしくは全く付き合いがない」という世帯が半数近くを占めるのが現状です。地域のボランティアや趣味のサークルなどに参加してみることも、減災への一歩といえるでしょう。

減災の取り組み事例

減災は、みんなで取り組む未来への投資です。近年、様々な企業や団体が減災への取り組みをはじめています。

ここでは、内閣府が推進する「災害被害を軽減する国民運動」の事例を紹介します。

ぼうさい探検隊(日本損害保険協会ほか)

「ぼうさい探検隊」は、小学生が2人以上のグループで楽しみながらまちを探検して、防災・防犯・交通安全に関する施設や設備を見て回り、気づいたことや危険な場所などを安全マップにまとめ、発表しあう教育プログラムです。

日本災害救援ボランティアネットワークが阪神・淡路大震災後にスタートし、現在は日本損害保険協会などと連携してマップコンクールも開催しています。小学校、児童館、学童など子どもたちの活動を通して、地域の防災力、コミュニティの強化につながっています。

大規模災害時協力ガソリンスタンド登録制度(静岡県石油組合)

静岡県石油組合では、災害時にガソリンスタンドが地域の防災ステーションとなる「大規模災害時協力ガソリンスタンド登録制度」の取り組みを進めています。

ガソリンスタンドは危険物を扱うことから災害に強い設計をしています。阪神・淡路大震災などの大災害でも倒壊することなく、まちの延焼を食い止めるポイントとなった事例が確認されています。

まちなかにほどよく点在し、日ごろから地域住民が利用する場所であることなどから、緊急物資の保管や、安否情報の掲示、防災用品の貸し出しなどを行う場所として、全国の石油組合が自治体と災害時協力協定を結ぶケースが増えています。

家具の転倒防止ボランティア(東京都江戸川区)

東京都江戸川区では、地元の建設会社、工務店などの大工さんたちが「熟年者住まいのボランティア推進協議会」を結成しています。

自分自身で住まいを修繕することが困難な65歳以上の一人暮らし世帯や、熟年者だけの世帯を対象として、材料費は自己負担、工賃は無料のボランティアで戸の立て付けなどの修繕工事を行ってきました。2005年からは江戸川区と協力して、地震の際に転倒する恐れのある家具の固定も行っています。

家具を固定するためのL字金具などの材料は江戸川区が支援しており、工賃は無料です。

まとめ

減災のポイントは「自助・共助」です。自分で自分の身を守るために備えること、地域の人とつながること。災害が起こったときの被害を減らせるように、今できることをひとつずつ積み重ねていきましょう。

<執筆者プロフィル>
山見美穂子
フリーライター
岩手県釜石市生まれ。幼いころ両親から聞いた「津波てんでんこ」の場所は、高台の神社でした。

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