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「唐揚げ定食880円→1000円」で1年後に閉店に追い込まれた店が値上げより先にやるべきだったこと

  • 2024.11.27

小さな飲食店が、お客を減らさずして値上げをするにはどうしたらいいのか。飲食店を専門とする中小企業診断士の難波三郎さんは「飲食店は、値上げをする前に、まず考えるべきこと、やるべきことがある。ある和風レストランは、それを怠り、銀行に言われるがまま値上げをしたために経営が悪化し、閉店することになってしまった」という――。(第2回/全3回)

※本稿は、難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)の一部を再編集したものです。

唐揚げ定食
※写真はイメージです
銀行から「2割値上げで利益が出る」と言われて実行

ここからは、値上げの前にすることについてお話しします。

あるとき、商工会議所から和風レストランの調査、助言を依頼されました。この半年ほど売上が激減していて、そろそろ危険なので助言がほしいとのことでした。

お店に行き、売れ筋だという唐揚げ定食を食べました。唐揚げがまずいお店はないのでメインはOK、量も多かったです。

ただ添え物は、既製品のポテトサラダにピンクの漬物、雑な煮物だけでした。レストランなので席間が広く落ち着けますが、全体に殺風景です。会計は1000円ちょっとでした。

その後、社長と面談しました。話によると、8カ月前に銀行から、「今の売上と経費のバランスでは利益が出ないから、全体の価格を2割上げるといい。そうすれば利益が出る」と言われて実行したそうです。そこから客数が減り、そろそろ危険だということでした。

いくつか、ポイントを整理します。

①「なぜお客に選ばれているか」が見えていない

私が食べた唐揚げ定食は、もともと880円だったそうです。この価格であれば、今まで来ていたお客は、「安くて、ゆっくりできるお店」「使いやすい場所にあって、安いお店」といった理由で、お店を利用してくれたでしょう。

しかし、今の価格だと、安くはありません。

この理由で選ばれていたお店が、急な値上げをするのは危険です。

今は安さで選ばれているお店は、商品力や接客、雰囲気を高めて、別の理由でお店を選んでもらえるようにする必要があります。

②原価率の基本がわかっていない

このお店の原価率は、高かったです。こういうお店の場合、原価率の悪化は、「動物性たんぱく質の質と量」の影響が大きいです。売上のメインはランチタイムで、客層が中高年の女性。その割に量が多いと感じました。

また添え物の部分は、少し手間をかけても、質を上げても全体の原価率への影響は小さいです。これを理解して、商品を改善してから値上げをすべきだったと思います。

「値上げは数回に分けて」が基本
③値上げは、一度でやらない

2023年ごろ多く見かけましたが、知名度のある老舗で、商品力や接客力も強いお店が一気に値上げをしていました。こういうお店は、長年かけて多くのお客を持っているので、一時的に客数が減っても戻りやすいです。

しかし、普通のお店だと、この方法は怖いです。「10年に1度」といった大胆な値上げではなく、インフレ時代(少しずつ物価が上がる時代)に合わせて、数回に分けて値上げするのが基本です。

このお店には商品の改善を含めた「QSCA」の改善を提案しましたが、すでにやる気が失せていたのか、耳を貸してもらえませんでした。QSCAとは、Q:品質(クオリティ)、S:接客(サービス)、C:清潔さ(クレンリネス)、A:雰囲気(アトモスフィア)を指し、お客が無意識に店を評価するときの基準です。

【図表】QSCAとは
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)より

それから数カ月で閉店したそうです。

なぜそうなってしまったか?

ここまで読んでくださったあなたには、おわかりでしょう。

現場を見ず、お客の選択理由や満足度を考えず、帳簿上の数字だけで判断したからです。

こうならないためには、自信を持って値上げできるお店を作ることから始めるべきなのです。

すぐできる「C(清潔さ)」の改善

自信を持てるお店、つまり「今よりいい店にする」ためには、お客の満足度を高める必要があります。

そのために必要なのが、QSCAのレベルを高めることです。ここから、それをよくする方法についてお話しします。

最初はC(清潔さ)についてです。

私はふだん、お客の満足度について話すとき「QSA」という言葉を使っていて、Cを抜いて説明することが多いです。理由は、


①Googleマップや食べログの評価項目に、Cは入っていないから
②清潔なのは当然だから
③清潔さは、お客の満足度より、キッチンの衛生管理で使うことが多い言葉だから

などです。

ただ、清潔さは、QSAのうちA、つまり「内外装から感じる、お店のイメージ」とつながっています。

外装でいうと、汚れていると入店を敬遠される可能性があります。内装でいうと、汚れているために不満足度を高める可能性があります。

ネットの書き込みを確認する

まずGoogleマップなどの書き込みを読んでください。

それから、どの社長にもおすすめしているのですが、「このお店を知らない人になりきって、お店を見る」と、改善点が見つかりやすいです。

ただ、これは案外、難しいです。見慣れたものが「普通」で、何が悪いのかはわかりにくいのです。

以前、ある社長に、「店前のノボリとタペストリーが汚れていて、繁盛しているように見えない(初めての場合、入ろうと思いにくい)」と伝えたところ、キョトンとされたことがあります。

しかたないので、近所にあった牛丼チェーン店のノボリ(牛丼チェーンは、毎月フェアがあるので、いつも新しい)と、その近くのケーキ店のタペストリーを一緒に見に行ったところ、なんとなく理解してくださいました。

スマホで口コミサイトに評価している人の手元
※写真はイメージです
知らない人になりきって店を見てみる

まずは、お店から少し離れた場所から、あなたのお店を見てください。

初めてのお客が「入ってみよう」と思うようになっていますか?

さらに近づいて店頭を見てください。不要な貼り紙はありませんか?

さらにゆっくりと、初めてのお客の目線で店内に入ってください。

それから、いろんな席に座って、注文した商品を待っているお客の気持ちで店内を見回してください。

オープンしたとき、コロナ禍で大掃除をしたときと比べて、汚れているところはありませんか?

エアコンの吹き出し口が黒ずんでいませんか?

壁に貼られているポスターに油が沁み込んでいませんか?

こうしてゆっくり見直すと、改善点が見つかります。

改装しなくても「A(雰囲気)」は改善できる

続いてA(雰囲気)についてお話しします。

私の創業塾では、最終回に「コンセプトシート」というものを提出してもらい、内容について協議するようにしています。このシートの中にはオープンしたいお店のQSA(どんな商品をメインにして、価格はこれくらいなので接客レベルはこうして、食事する空間はこんな感じ、といったこと)を書き込む場所があります。

女性の参加者は、雰囲気の欄をびっしり書き込んでいることが多いです。一方、男性は雰囲気の欄が弱いです。

ただ、食事をする空間は重要です。最近はキャンプに行って食べる「キャンプ飯」が流行っています。外出先なのであまり手の込んだことはできませんし、調理にも時間がかかります。でも、開放された自然空間の中で食べるので、おいしく感じます。同じ料理を自宅で作って食べたら、「ほかの選択肢もあったな」と感じる人が多いと思います。

店内の雰囲気作りですが、構成するのは6つの要素です。

【図表】空間を作っている要素
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)より

まず、お店全体のイメージを決めるのは、①色と、②質感でしょう。

質感は、たとえば同じ木目でも、使用材によって伝わるイメージが変わります。それが店格と合っているかがポイントです。

③の照明ですが、明るさによってイメージが変わりますし、間接的な照らし方にすると高級感が出ます。

④の香りですが、この6つの要素は小売店も含めた店作りで考察された考え方なので、項目として入っています。宝石店など高級品を売る小売店でアロマを使用したりするのがよい例で、少し高めの雑貨店でも同じ取り組みをしています。

飲食店でいうと、街中のうなぎ店のように、調理中の香りを店外に流れるようにして誘引するという例もあります。

ただ、料理以外の香りを客席で使用するのは難しいでしょうし、調理中の香りを客席に届けるにはお金がかかりますし、油が回る可能性が高いです。こうした取り組みを考えるよりは、嫌な臭いを抑える、つまり不満足度を減らすことを考えるといいでしょう。

メニューを変えずに大幅な改装をすると借金だけ増える

私は銀行の紹介で、多くの飲食店の決算書を見てきました。その中で感じるのは、「メニューのリニューアルなしで大幅な改装をすると、借金だけが増える」ということです。

ここまで、お店全体のイメージを大きく変える要素を中心にお話ししました。しかし、大きくターゲット層を変えるといった方針でなければ、あまり多額の改装はおすすめしません。やるなら、古びている部分や、変えて効果が出ると思える部分を数十万円単位で改装するのが無難です。

例外は、居抜きで開業して、客単価(店格)と空間が合致していないような場合です。

これなら大幅な改装も考えられますが、条件は先ほどと同じで、メニューのリニューアルや、売りとなる新商品の販売がなければ効果は薄いです。

温度も店のイメージにつながる

⑤温度について。冬場の話をすると、日本海側のお店で感心するのは、開店直後から暖かいことです。寒い外から入ってホッとする経験を何度もしました。

同じ時期に、個室のある都会の居酒屋で、部屋に入ったときヒンヤリ感じたことも何度かあります。入店直後に与えるイメージは重要なので、改善の余地があります。

また秋口、忙しいお店の場合、働いている人にちょうどいいのかなと感じるほど寒いこともあります。これも検討の余地があるでしょう。

BGMの工夫

⑥音について、いくつか例をお話しします。

いつも女性客で満席になるカフェがあります。BGMがないので、女性の楽しそうな話し声であふれています。

このお店の社長に、なぜBGMがないのか聞いたところ、開店して客席が8割くらい埋まるまでは、大きな音でBGMを流しているそうです。その音につられてお客が大きな声で話しだしたらBGMを止めて、あとはお客の話し声が空間に響くようにしているそうです。

ある焼肉店では、80年代のJ-POPをBGMにしていました。土曜の夜に行ったのですが、客層は40代~50代、住宅街だったので知人と利用している近隣の住人が多いと感じました。肉を食べながら、まわりの会話を聞いていました。

「あれ、この曲、タイトルなんだっけ?」「あー、聞いたことある。誰だっけ?」「これ、学生時代によく聞いてたから知ってる。正解は!」などと会話が盛り上がっていました。

飲食業は、食事をする時間を提供する商売です。滞在時間にもよりますが、こうした工夫で楽しんでいただけたら、お金をかけずに付加価値が高まります。

雰囲気の変化を楽しんでもらう

最後に、6つの要素には入っていませんが、小物・オブジェを使って雰囲気を少し変えるという方法をおすすめします。

飲食店の壁面に、殺風景にならないようポスターや絵画が飾られていることがあります。

先ほど、あなたのお店をお客の目線で見回すというお話をしました。そのとき、これらも見直してほしいのです。とても思い入れがあるならずっと飾っていていいでしょうが、そうでなく、古びていれば変えてみると雰囲気が変わります。できれば定期的にローテーションで変更するといいです。

ちょっとした変化を続けていくと、自分の気持ちも新鮮になりますし、必ず常連さんから、「あれ、ちょっと変わった?」と声をかけてもらえます。あまりお金をかけなくてもいいですが、少しは使って、お客にも変化を楽しんでもらいましょう。

もっとも怒らせるのは「S(接客)」

ある日、複数の講師が別々のテーマで話すセミナーを担当しました。

私の後には、接客の話をするセミナーが2時間ありました。担当するのは、キャビンアテンダント出身でホテルの接客コンサルタントをされている方でした。

会場には4人用のテーブルが並べられ、参加者が向き合って座っていました。私は時間があったので、後ろで見ることにしました。

最初に講師が、「あなたが行った飲食店の中で、一番よかったお店のことを思い出し、話してください」と、言いました。

しばらくして順番に話し始めたので、会場内を回って内容を聞きました。参加者は、豪華な食材の話、巧みな調理技術の話、絶景が見えるお店など、いろんな話をしていました。

次に講師が、「今度は、今までで一番ひどかった飲食店の話をしてください」

しばらくして順番に話し始めたので、会場を回って聞き、驚きました。

聞こえてくる話はすべて、接客のことだったのです。服を汚されたといった、そそうの話ではなく、言われた言葉、態度の話でした。

満足要因には挙がらないが怒らせる理由になる

ここで振り返ると、一番よいお店の話のとき、「接客もすごくよくて」という声は聞こえましたが、接客のみを一番の理由に挙げた話は聞き取れませんでした。

この講師はうまいと思いました。大満足させる要因の一番に「接客」は挙がらないけど、怒らせる一番の理由は接客だと、痛感させたのです。

私も、接客が理由で行かないお店があります。逆に、接客が理由で通うお店もあります。

【図表】接客が生む影響
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)より

図表3をごらんください。

定食屋さんを5店舗経営している会社がありました。カウンター商売で、どのお店も商品は同じです。商品力は、かなり高いです(私の採点で80点)。

このうちの2店、AとBの接客には、違いがあります。

難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)
難波三郎『小さな飲食店のお客が減らない値上げ』(秀和システム)

ここでクイズです。この差は、どんな影響を生みますか?

私が視察したところ、両店の味は、本部の味が保たれていました。

しかし、Googleマップや食べログの評価では、商品の項目まで差が出ていました。

人の感情は味覚に影響するのです。当然、リピート率が変わるので売上に差が出ます。

お客には、「(数ある店の中から、この店を選んでわざわざ)来てあげている」という気持ちが、少なからずありますから、お金を払った後(退店時)に気分が悪いと、「また来てあげよう」という気が薄れます。

逆に、「応援してあげよう」という気持ちがあるお客も、多々います。そういう人は、少し割高でも、顔を覚えてくれていることが伝わる接客をしてくれて、退店時に感謝を伝えられると、気分がいいのでまた来ます。

人の感情を動かす。それが接客です。

難波 三郎(なんば・さぶろう)
中小企業診断士(飲食店専門)
1967年生まれ。ながらくフリーターとして多くの店で修業した後、1999年に渋谷区で飲食店を開業。2006年に中小企業診断士の資格を取得し、『メニューが飲食店を救う!』(こう書房)を出版。希少なメニュー関連の本としてヒット。これを機に全国で活動するようになる。現在は出身地である岡山市に所在し、近隣県の商工会議所、銀行などから依頼を受けて中小・個人の飲食店を中心に利益増加のアドバイスを行う。同時に、週の半分は東京など都市部からの依頼を受けて全国で活動。年に約30社と向き合いながら、年に約50回のセミナーを開催している。日本調理製菓専門学校経営学非常勤講師。

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