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憧れと共に抱え続けた「この人には勝てない」という敗北感。その先で

  • 2024.11.27

憧れている先輩がいる。わたしが持っていないものを持っている、追いつけないとずっと感じていた。

◎ ◎

その先輩はわたしよりも一年先に入社して、大学時代からずっと子どもの自然体験に関わっていた。見た目はガタイのいいムキムキマッチョなので、子どもたちからは最初怖がられがち。だが、話してみるとすごく優しく、いつも子どもたちのことを考えており、ユーモアもあって面白い。子どもたちにもそれは伝わり、気づけば子どもたちから信頼され、好かれている。

また、自分の理想を実現させるための強かさと、強引さを持っていた。もっと他のスタッフのことを考えた方がいいのではと思う場面もありつつも、この人ならしょうがないかと思わせてしまうような、うまく人の懐に入ることのできる何かを持っていた。

そして何より、引き出しが多い。自分では思いつかないようなプログラムを考えついたり、こんなこともできるのかと思うようなことをやってのける。わたしはいつも感心させられた。こんな風にありたいという憧れを抱くとともに、この人には勝てないというような敗北感を常に抱いていた。

◎ ◎

ある日「話したいことがあるんだけど、夜時間ある?」と投げかけられた。その先輩のプログラムをフォローするサブの立ち位置でプログラムを一緒に行っていた最中。わたしはかなり自分のやりたいように子どもたち関わっていたので、思わず怒られたり、注意されたりするのかと肝が冷える。

ドキドキしながら夜を迎え、向かい合って座る。「相談するなら1番だと思って」と、相談が始まった。なんだか拍子抜けする。わたしに相談?わたしで参考になることあるのか?と逆に不安になってくる。そんな気持ちを抱きながら、今の気持ち、プログラムのこと、子どものこと、自分自身のこと、将来のこと、たくさん話した。先輩とこんなに真面目に面と向かって話したのは初めてだった。

この人もこんなに悩んでるんだということを初めて知った。同時に、自分がこの人のことを恐れているのだと気づいた。この人はすごい、勝てない、だからこそ自分のことを見てほしくない。こんなもんかと失望されたくないと。

◎ ◎

その1ヶ月後、先輩が体調を崩し、先輩が担当するはずだったプログラムが急遽わたしに回ってきた。代わりは務まるのだろうか、わたしだからこそできるプログラムはなんだろうかと短い時間の中で考え、なんとかやり遂げた。終わったあと、先輩からはこんな連絡が。『本当にありがとう!迷惑かけてしまってごめん。いてくれて本当によかった!!突然で大変だったと思うけど、本当にありがとう!!』と。

このメッセージを見た時、なんだか胸がいっぱいになった。憧れと恐れを抱きながら、わたしが勝手に距離を取っていただけかもしれない。壁を作っていたのかもしれない、先輩はずっと前から対等に自分を見ていてくれたのかもしれないと。

◎ ◎

とは言いつつも、一年半ほど心の距離をかなり取ったスタンスで関わり続けていたので、すぐに何かを変えることはできないが、もっとわたしが心を開けば、打ち解けられるかもしれないと思い始めた。自分にとっても、新たな世界を開くきっかけになるかもしれない。憧れを大袈裟に恐れないように、きちんと目の前のその人を見れるように。これからが楽しみだ。

■雲和のプロフィール
人口1000人のまちで田舎暮らし。子どもの「生きる」に寄り添います。好きなことは、日光浴と食べること。

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