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【賢者の選択心理テスト】仕事が自分に合わないとき、どうしたらいいのか?

  • 2024.11.27

今回は仕事についてです。すでに働いている方も、まだ学生の方でも、「働くとはどういうことなのか?」と、迷ったり悩んだりすることはあるのではないでしょうか。

人生の3分の1は睡眠と言いますが、それと同じくらいか、あるいは人によってはもっと仕事に人生を使っています。それだけ重要なテーマと言えるでしょう。今回は、山田太一脚本の「もうひとつの春」というテレビドラマをご紹介します。このドラマは、ビデオにもDVDにもなっていません。シナリオ本も出ていません。山田太一作品の中でも、有名なほうではなく、Wikipediaの「山田太一」の解説でも、なんと作品リストから抜け落ちてしまっています。

しかし、私は“働く”ということを考えるとき、いつもこのドラマを思い出します。仕事に対する私の考えを、大きく変えたドラマです。なので、見ることが難しいのを承知で、あえてご紹介させていただきたいと思います。

長いドラマで、いろいろなエピソードがあるのですが、 今回ご紹介するのは、そのうちの仕事に関する部分のみです。 主人公の青年、信一は、夜間大学に通いながら、金属加工工場に勤めていました。そこの上司に、高岡さんという課長がいました。

信一は、この高岡さんが好きで、尊敬していました。話したことはなかったのですが、ベテランとして堂々としていて、たのもしかったからです。

その工場が、倒産してしまいます。このドラマが作られたのは、1975年ですが、この当時は不況で、とくに金属加工業はひどい不況で、同じ業界の別の会社に入り直すことは不可能でした。まったく別の職をさがすしかありません。

信一はスーパーに勤めます。高岡さんも、職安(ハローワーク)で仕事をさがしますが、当時は、中年の働き口はなかなかありませんでした。

そんなとき、小料理屋に勤めている信一の母が、「焼き鳥屋の支店長代理」という仕事口があることを聞いて、高岡さんに紹介します。仕事はまるっきりちがうけれど、支店長代理というような管理職なら、少しでも経験を活かせるのではないかと。

高岡さんは喜んで、勤め始めます。信一は、高岡さんが働いている様子を見に行きます。すると、支店長代理とは名ばかり、小さな焼き鳥屋の店の外に立って、高岡さんは、道行く人に焼き鳥のお土産を売っていました。しかも、慣れないことで、うまく声も出ませんし、うまく口上を言うこともできません。

「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ、おいしい焼き鳥のお土産はいかがでございますか」 と、小さな声で言うくらいがせいいっぱいです。人がたくさん歩いている往来で、なかなか大きい声というのは、出せるものではありません。まして、口上というのは、年季が入っていないと、流ちょうにはいかないものです。

焼き鳥を焼いている職人さんは、映画「男はつらいよ」の寅さんのように、じつに流ちょうに口上を述べます。

「へいっ、らっしゃいませ! お土産、持って帰ってちょうだいよ、ねー、遅く帰っても、絶対に焼きもちは焼かないよ、かーちゃんは。そういう焼き鳥だ、持って帰ってよ、ほら!」

高岡さんのほうは、とてもそうはいきません。お店の人から、「声がちっとも聞こえない!もっと景気よくやってよ!」などと怒られています。

信一は愕然とします。

「高岡さんは手も足も出ない感じだった。あれほど仕事ができ、魅力のある高岡さんが、 なぜあんな目にあわなければいけないのか。ぼくは、みすぼらしい高岡さんは見たくなかった」

信一は高岡さんのところに駆け寄って言います。「辞めてください!こんな仕事は辞めてください!高岡さんには、もっとふさわしい仕事があります!」

高岡さんの娘も、この仕事には大反対します。周囲はみんな、高岡さんにはいちばん向いていないと思います。でも、高岡さんは辞めようとしません。

高岡さんは、いろんな工夫を始めます。まず、拡声器を用意して、それで口上を言うようにしてみました。大きな声が出せないのを補おうとしたのです。

でも、これは店の人から怒られてしまいます。「声がでかければいいってもんじゃないんだよ!選挙演説やってんじゃないんだから、冗談じゃないよ。粋(いき)にできないんなら、声なんかむしろちっちゃいほうがいいんだから」

次に、今度は絵看板を用意します。それを自分の後ろに飾って、口上が未熟な分を、絵で補おうというわけです。絵本を買って、コピーで拡大していって、それをお手本に手作りしました。でも、これもお店の人に怒られてしまいます。「舌切り雀」の絵本の挿絵だったからです。

「鳥にひどいことをするのはやめましょうって話でしょ。それで焼き鳥を食えっていってもねー」

それでも挫けず、高岡さんは、焼き鳥屋の職人さんの口上をテープに録音して、家でそれを何度も聞きながら練習します。しかし、どう練習したところで、いきなり寅さんのようなしゃべりができるようになるわけはありません。

信一は高岡さんに言います。 「あんな仕事は辞めてください。高岡さんには向いていません」

でも、高岡さんはこう言います。 「私は不器用な人間だから、はじめから向いている仕事はないと思うんだ」

信一「それにしたって、焼き鳥屋の表に立っているよりは、向いている仕事はあります」 高岡「たしかに、あまり向いてはいない。だけど、簡単に降参はしたくないじゃないか」 信一「向かない仕事だったら、他をさがすのが、あたり前でしょ!」

さて、ここまで読んできて、あなただったら、どう思いますか?

Aの意見

「信一の言うように、向かない仕事はやめるべき。無理をしてみても仕方がない。もっと向いている仕事をさがしたほうがいい」

Bの意見

「なんとかその仕事に向いた人間になれるよう、自分のほうを変えていくべき。頑張れば、いつかその職人さんのようになれるはず」

Cの意見

「なんとか自分らしいやり方で、仕事をこなすことができないか、そこを考えてみるべき」

心が決まったら解説を読んでください。

このテストから学ぶテーマ 「辞めるのではなく、自分を捨てるのでもなく、第三の道を!」

まず、このドラマの続きから、お話ししましょう。

高岡さんは焼き鳥屋の仕事を辞めませんでした。そして「今週、一度、店に来ないか」と信一を誘います。信一が行ってみると、高岡さんが、以前と同じように、店の前で焼き鳥のお土産を売っていました。でも、以前とちがっていることがありました。高岡さんは見違えるように口上がうまくなっていたのです。

といっても、それは、職人さんのように言えるようになったということではありません。高岡さん独自の真面目な語り口で、しかし口上としても通用するように工夫したのです。それはこんなふうです。

「鳥吉兆、3つ自慢を申し上げます。まずはもちろん肉自慢でございます。名古屋直送でございますが、名古屋だったらいいというような時代ではございません。30年間、養鶏の基本を変えないという、大量生産方式に抵抗する三河養鶏場と特別契約いたしまして、鳥吉兆独自の風味を保っております。

鳥吉兆、3つの自慢の2つ目を申し上げます。タレ自慢でございます。タレなんか、味醂(みりん)とお酒とお醤油(しょうゆ)をかき混ぜて火にかければいいだろうなんておっしゃっては困ります……」

真面目な語り口なだけに、かえって信頼できて、おいしそうです。たくさんの人が焼き鳥のお土産を買って行きます。

信一は感動します。 「次第にぼくは引き込まれていった。高岡さんは何よりも熱心であった。自分をなくしてまでくだけるということはなく、売り方に品位があった。そして、明るかった」

誇りを失うことなく、ちゃん焼き鳥屋の口上を述べている高岡さんに、信一は打たれます。

私もこのドラマを見ていて、このシーンでとても感動しました。仕事に対する考え方が変わったと言ってもいいくらいです。昔の人は、いったん仕事に就くと、なかなか辞めませんでした。なんとか、そこで頑張ろうとしました。

一方、最近は、自分に合わないと感じたら、すぐに仕事を辞める人が多くなりました。これはどちらも一理ありますし、一長一短があります。合わない仕事に無理に自分を合わせて、本来の自分を見失ってしまうのは、決していいこととは言えないでしょう。

しかし、もともと自分にぴったりなんて仕事はなかなかないものです。合わないからといって、仕事を辞めていると、きりがなくなってしまいます。

高岡さんは、合わない仕事を辞めませんでした。でも、職人さんそっくりに自分を変えてしまったわけではありません。仕事のために、本来の自分を失ってしまったわけではありません。

何度も工夫して、その都度、否定されてしまいましたが、それでもくじけず、自分らしいやり方で、なんとか仕事かできないか、工夫し続けました。そして、ついに成功したわけです。「こういう仕事の仕方があるのか!」と目からウロコでした。

心理学の研究でも、カセラックの【デマンド─コントロールモデル】というのがあります。世界で最も知られている職業性ストレスモデルのひとつです。これによると、仕事のストレスの強さは、「要求(デマンド)」と「裁量(コントロール)」の2つの次元で決まります。

「要求」とは、仕事の量や、スピードや、ノルマや、役割、集中や緊張などのことで、「仕事のきつさ」と言ってもいいでしょう。「裁量」とは、仕事上の問題を自分の考えで判断し処理したり、仕事のやり方などを自分でコントロールしたりといった、「仕事上の自由度と決定権」のことです。

仕事がきついほうがストレスなのは当然ですが、しかしじつは、仕事がきつくても、「裁量」が許されていれば満足度が高く、心の病になる率も低いのです。

逆に、仕事がきつくなくても、「裁量」が許されていないと、満足度が低く、うつ病などの心の病になる人が多いのです。厚生労働省の調べでも、「裁量」が許されていない人は、病気で休むリスクが2.05倍になるという結果が出ています。

しかし、「自分のやり方でやったらいいよ」なんて言ってくれる職場は、まずないでしょう。いったいどうやって、自分らしく仕事をすればいいのか? 高岡さんは、その見事な見本と言えるでしょう。

私は、自分に合わない仕事を依頼されたとき、いつも高岡さんのことを思い出します。「合わないからお断りします」というのは簡単です。でも、そんなに合う仕事ばかりがくるわけはありません。いかにして、自分らしく仕事をして、なおかつ、相手にも満足してもらうか。難しいですが、目標とすべきことだと思っています。

自分に合わない仕事をしなければならないことは、必ずあると思います。そんなとき、「やめた!」と決める前に、「ガマンして言われた通りにやろう!」と決める前に、「自分に合わない仕事でも、自分を捨てることなく、なんとか自分らしくこなせないか」ということを、一度は考えてみてください。もしかしたら、道が開けるかもしれません。

<賢者の答え>

Aさんの意見「向かない仕事はやめるべき。もっと向いている仕事をさがすべき」 をもっともだと思ったあなたは……

高岡さんが仕事を辞めなかった話をご紹介しましたが、もちろん、どんなときでも仕事を辞めないほうがいいということではありません。高岡さんも、実はこの後、事情があって焼き鳥屋をクビになってしまい、次に不動産のセールスの仕事を始めるのですが、そこはすぐに辞めてしまいます。

いつでも辞めずに頑張り続けるというわけではないのです。辞めた理由は、そこでは自分らしく仕事をする余地がなかったからです。高岡さんは「現地を見せてほしい。その上でお客さんに勧めるほうが、説得力がある」と上司に頼むのですが、却下されます。そして「霧が丘別荘地は世界一いい別荘地です」と大きな声で10回唱えろと強制されます。そういうやり方には、高岡さんはついていけなかったのです。

では、自分らしく仕事ができない職場はやめたほうがいいのかというと、そうとも限りません。この不動産屋の上司はこんなふうに言います。「指図されて、やっと気持ちが安定するってやつもいるんだ。喜んでついてくるやつがいる以上、オレは反省などせん。怒鳴って、追い回して、ひっぱっていく。人間の半分くらいはそういうやつらなんだ」

実際、高岡さんの友達は、この上司を嫌いではなく、仕事も辞めません。どういう場合に辞めるべきで、どういう場合に辞めるべきでないかは、まさにその人次第ということです。

ただ、自分に合わない、向かないと思っても、それですぐに辞めるのではなく、「自分を捨てることなく、ちゃんと仕事をこなすことのできる、何か工夫はないだろうか?」と、これだけは考えてみてください。もしその工夫が見つかれば、その仕事で満足できるようになるかもしれません。もし見つからなければ、そのときに辞めても遅くはないでしょう。

Bさんの意見「なんとかその仕事に向いた人間になれるよう、自分のほうを変えていくべき」をもっともだと思ったあなたは……

自分に合う仕事というのは、なかなかありませんから、自分のほうを変えていくべきと考えるあなたは、現実的ですし、とても謙虚な方と言えます。

ただ、高岡さんが職人さんのようになろうとしても、それは並大抵のことではありません。そして、大切なのは、本当にそういうふうに変わりたいかどうかです。変わりたいと思うのであれば、どんなに大変であっても、目指す価値があるでしょう。

しかし、本当はそんなふうに変わりたくはない場合には、仕事のためにそこまで自分を捨てるのは考えものです。もちろん、生きていくために、そんなことは言っていられない場合もあります。しかし、ぎりぎりのところまでは、自分を捨てない道を考えるべきです。 自分を変えてしまうことなく、どうにかして自分らしく、仕事をこなすことができないか、その工夫を考えてみましょう。

そして、それが無理であるならば、辞めることも考えてみましょう。無理に自分を変えるのは、それからでも遅くないはずです。

Cの結末「なんとか自分らしいやり方で、仕事をこなすことができないか、そこを考えてみるべき」をもっともだと思ったあなたは……

あなたは、仕事を自分なりにこなすことの楽しさを、すでに知っているのかもしれません。

高岡さんは、自分なりの口上を工夫してから、仕事に熱が入り、明るくなっています。自分らしいやり方で仕事をするのは、楽しいものです。もちろん、自分らしくと言っても、ただの自己満足になったり、やたら自分を出し過ぎたりしては、仕事をこなせているとは言えません。

たとえば、洋服販売の接客をしていて、自分は赤色が好きだから、お客には赤色の服ばかり勧める、なんていうのはむちゃくちゃです。似合っていなくてもお世辞を言うことが苦手だったら、ちゃんと似合う服をコーディネイトしてあげられるように勉強して、お世辞の代わりに、その能力を使って接客する。たとえば、そういうことが自分らしく仕事をするということです。そういう仕事のやり方をぜひ目指してみてください。すでにそうしておられるかもしれませんが、今後もぜひ。

津田先生「最初にも書いたように、この「もうひとつの春」というテレビドラマは見ることが難しいです。ただ、再放送されることはあります。私も再放送で見ました。もしテレビ欄で「もうひとつの春」というタイトルを見つけたら、ぜひご覧になってみてください。

スタッフより

映像の手がかりがないので、どんなドラマだったのかまったくわからないのですが、高岡さんの努力が実ったシーンを読んで、思わずホロリとしてしまいました。自分の仕事に誇りを持ち、よりよくしようと工夫する姿は素晴らしいです。この姿勢を見習って行きたいと思いました。それにしても山田太一さんの脚本って、人間味があってあらすじだけでも面白いですね(^^)

お話/津田秀樹先生

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