自由の象徴であるデニムが、あらためてフォーカスされている。それは単にジーンズのシルエットの動向に止まらない。オフランウェイの着こなしを見れば一目瞭然だが、デニム on デニム、クチュールライク、カラーデニムなど、個々がデニムという素材を使い、思いのままにアイデンティティを炸裂させている。コペルニ(COPERNI)やアクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)、ディーゼル(DIESEL)などのひとクセあるデザインデニムが人気を集めている。そこには価値観の変革期にあり、確たる未来を見出せずにいる混沌とした現在の世相も見え隠れする。クリエイティビティ溢れるデニムの流れは人々の静かなアンチテーゼでもあり、デニムというアコースティックなテクスチャーに包まれ、現実と距離を置きたいというマインドの表れのようでもある。
そもそもデニムとは縦糸にインディゴ染めの糸を使った綾織りの厚手の綿織物。その発祥はフランスで、ニーム地方の綾織物を表すセルジュ・ドゥ・ニームがデニムの語源といわれている。その素材をアメリカへ輸出していたイタリア・ジェノバの船員が履いていたことから、ジェノバ製を意味する呼び名がジーンズへと変化したのだとか。
デニムの成り立ちを振り返れば、人々の声を代弁してきた歴史がある。誕生は19世紀後半、ゴールドラッシュに沸くアメリカ・カリフォルニアでの労働者たちの声から。ワークウェアに耐久性を求める労働者に向け、仕立て屋のジェイコブ・ディビスが銅製のリヴェットをポケットなどに打ったパンツを開発。取引のあった織物商人、リーバイス・ストラウスと共同で特許を得て、リーバイス(LEVI'S®)の原型が誕生する。女性用デニムの登場は1930年代。世界恐慌で財政難となった牧場主がカウボーイに憧れる富裕層に向け、牧場でバカンスを過ごす「デュード・ランチ」を提案。そこで過ごす女性たちにリーバイスがデニムを販売したことに端を発する。その後、第二次世界大戦中、作業に従事する女性たちが着用したことでもデニムは徐々に浸透していった。
戦後のハリウッド映画の隆盛もデニム人 気を後押しする。 55年の映画ではジェームズ・ディーンが、 年の映画『荒馬と女』ではマリリン・モンローも、リーバイスのデニムを着用。活気に飢えていた人々は新たな若者像に熱狂し、デニムのファッション化が進んでいく。そして年代後半になると、物質主義的な価値観や既存の社会、 またベトナム戦争に異を唱えるヒッピームーブメントが巻き起こる。69年の夏にNY 郊外で行われた音楽フェス「ウッドストック」には40万人近くが訪れ、カウンターカルチャーの象徴的イベントに。
80年代に入るとモードの世界にデニムが浸透。デザイナーズデニムの台頭を予見し、先鞭をつけたのはカルバン・クラインだろう。当時まだ15歳だった女優のブルック・シールズが、ボディラインを際立たせたスキニージーンズを纏った広告をリチャード・アヴェドンが撮影。グラマラスな美しさに加え「私とカルバンの間に何があるか知りたい? 何もないわ」というセンセーショナルなコピーも相まって、一部で性的であると物議を醸す。またカルバン・クラインは90年代にはケイト・モスも起用。いずれもデニムを介したブランディングは大成功を収める。時代が求める新たな女性像をつくり出し、記憶に残るエポックメーキングなキャンペーンに。今年に入り、ブルック・シールズがこの伝説のデニムをオークションに出すと決めたことも、時代の移り変わりを感じるエピソードだ。
その後もY2Kブームでのローライズデニム、より高級感を提示したLA発のプレミアムジーンズブランドも話題となる。ただすでにデニムにおいてもトレンドは出尽くした感があり、目新しさは20世紀ほどではなく、短い周期で人気は変化した。このところはデニム製造における環境への負荷という課題解決に取り組んでいる、エシカルコンシャスなものを求める傾向にもある。デニムは誰にとってもワードローブに欠かせない存在。だからこそ時代を映し出したデザインで自分らしい表現をしていきたい。
問い合わせ先/ディースクエアード/スタッフ インターナショナル ジャパン クライアン トサービス 0120-106-067
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スワロフスキー・ジャパン 0120-10-8700
Photos: Valentin Giacobetti (model),Getty Images Styling: Jack Borkett(models)
Text : Hiroko Koizumi Editor: Yui Sugiyama, Saori Yoshida
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