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「栞の父親は俺だ」。美羽(松本若菜)の「罪」に夫が下した審判 『わたしの宝物』6話

  • 2024.11.26

ドラマ『わたしの宝物』(フジ系)は、夫以外の男性との間にできた子どもを、夫の子と偽り、産み育てる「托卵」を題材に描く。神崎美羽(松本若菜)と夫の宏樹(田中圭)は仲の良い夫婦だったが、結婚から5年が過ぎ、美羽は宏樹のモラハラに悩まされている。だが、幼なじみの冬月稜(深澤辰哉)と再会したことで、美羽の人生は大きく動くことになる。6話、真実を知った宏樹が、美羽に告げた言葉とは。

子の存在を知らされない“父親”

このドラマでは、血のつながった父親が、自分に子どもがいることを“知らないまま”過ごしている。美羽が冬月との子ども=栞を妊娠し、産み育てていても、美羽が彼に知らせない限り、冬月は「自分の子どもがいること」を知らないままだ。

それは、親になることも、親としての責任を果たす機会さえも与えられないということ。くしくも、2024年夏の月9ドラマ『海のはじまり』(フジ系)で、子の存在を知らされず、いきなり父親としての役割を果たすことになった主人公・月岡夏(目黒蓮)とも重なる。

美羽の会社員時代の後輩であり、雑貨店を経営するシングルマザー・小森真琴(恒松祐里)も「父親が子どものこと何も知らないままなんて」と口にしていた。彼女の元夫であり、息子の父親は、父親らしいことを何一つしないし、息子に会いたがっていないらしい。

美羽と宏樹、そして冬月をめぐる問題は、喫茶店のマスター・浅岡忠行(北村一輝)が示唆したように、真琴には関係のないことだ。しかし、彼女が3人に異様に執着し、ねじ曲がった正義感を発揮するモチベーションの源は、子どもに由来するのかもしれない。宏樹や美羽のため、というよりは、大人の都合に振り回される子どもに同情を寄せているようにも見える。

6話において、結局のところ冬月は、詳しい真実を知り得ることなく終わった。真琴の計らいにより、美羽と引き合わされた冬月だが、美羽からは「これは私の家族の、夫婦の問題だから。冬月くんには関係ない」と突っぱねられてしまう。

このまま冬月は、栞が自分の子どもだと知らないまま生きていくのか。水木莉紗(さとうほなみ)の想いに応える道を、模索していくのか。「人を好きになる方法は、一つじゃないと思う」と莉紗に言った冬月。この物言いがどれだけ残酷で、人の心情を軽視しているか、彼は気付いていないように思う。

真琴の屈折した正義感

5話で、DNA親子鑑定によって、栞が自分の子どもではない、という真実を知ってしまった宏樹。彼は突然、栞とともに美羽の前から姿を消した。美羽との電話で事情を把握した真琴は、その後、あけすけな言葉で美羽を責める。「宏樹さんがいなくなったの、美羽さん心当たりありますよね」「宏樹さんと栞ちゃんに何かあったら、あなたのせいです」とたたみかける真琴には、まさに“屈折した正義感”という言葉が似合う。

冷静に考えれば、宏樹が栞を連れて海に行き、入水しようとしたきっかけを作り出したのは、美羽ではなく真琴ではないだろうか。

美羽は1話において、宏樹ではなく冬月の子を妊娠した事実を知った瞬間から、一人で罪を背負い、真実を隠し通すことをひっそりと誓っていた。誰に罪を告白しようとも、許されようとも思っていない。そこまでの思いを知らぬまま、強い覚悟とともに踏み入った悪路にザカザカと踏み入り、筋違いの正義感を手に悦に入っているのは真琴である。

隠したままにしようとする他者の罪を、勝手に明るい場所にさらし、どうするんですか、あなたのせいですよ、と騒ぎ立てているように見える真琴。宏樹は、真琴から事の次第を聞かなければ、美羽と栞に愛情をたっぷり注ぎ、良好な家族関係を保っていく努力をしただろう。原因をこしらえたのは美羽かもしれないが、いたずらにきっかけをチラつかせたのは真琴だ。

浅岡は、喫茶店を訪れた真琴に「あんた、何がしたいの?」と言っていた。これが、ほとんどの視聴者の心理を代弁した言葉だろう。真琴が意気揚々と“正そうとしている”道に対して、「あんたが動けば動くだけ、みんな不幸になってるんじゃないの?」「正義振りかざすのもほどほどにしないと。あいつらの正解をさ、あんたが決めんなよ」と諭す浅岡の言葉は、金言だらけだ。

真琴と宏樹の道を導く“良心”的な存在

栞とともに海に入ろうとした宏樹が、寸前で立ち止まり、SOSを出したのも浅岡だった。彼は今のところ、喫茶店のマスターとして登場するのみにとどまり、物語の本筋に深く絡んではきていない。しかし、職場のストレスを抱えた宏樹にとってのサードプレイスを提供し、どんどん暴走する真琴の頭を冷やすきっかけにもなった、いわば“良心の象徴”として機能している重要なキャラクターだ。

「栞を連れて、海に入ろうとしました。生まれ変わったら、本物の親子になれるかなって」と告白する宏樹に、浅岡は「どこに行っても答えなんてないんだぞ」と助言。宏樹の選択を断罪することなく、彼らしい言葉でそっと道筋を示した。

浅岡は、前述したように、真琴に対してもいったん頭を冷やすように促す言葉をかけている。必要以上に、誰の敵や味方につくこともなく、あくまで中立的な立場から、各々が大きく道を違えることのないよう誘導してくれている浅岡。利己心が剥(む)き出しになった真琴に対し、SNS上では彼女の言動を非難する声も多く見られる。しかし、浅岡は広い懐で、真琴が幸せに生きられる道筋についても、ともに考えてくれるのかもしれない。

どこに行っても答えなんてない、と浅岡に言われた宏樹は、自分が心から望んでいること、そして目指す場所を認識し直した。美羽は、宏樹がひっそり行ったDNA親子鑑定の結果を見つけるが、決して許されることのない罪を、一人で背負っていこうとしている。しかし、どうしたって、宏樹は美羽のやったことが理解できないし、これからも家族3人で生きていきたいという彼女の思惑と重なることもない。

宏樹が美羽に下した“審判”は、「俺、美羽とは一緒にいれない」「栞の父親は俺だろ? 離れるくらいなら、あの子と一緒に死ぬよ。頼む、出ていってくれ」という言葉に込められていた。栞が生まれ、元の優しさを取り戻した宏樹となら、夫婦関係をやり直せるかもしれない。そう考えた美羽の目論見(もくろみ)は、宏樹にとっては品がなく、残酷で、人の存在を軽視したものに映ったとしてもおかしくはない。宏樹が泣き出す栞をあやし、美羽は荷物をまとめて部屋を出て行く。

宏樹も栞も失った美羽と、どうしても美羽のことが忘れられない冬月が、また出会ってしまったら。視聴者として気になるのは、未だ美羽の本心が掬(すく)いきれないことだ。宏樹や栞と生きていきたい、と望む気持ちは本物だろう。それでも、彼女はまだ心の奥底、自覚してない無意識の領域で「冬月のことも忘れられない」と考えているのではないか。

宏樹との夫婦関係に悩み、再会した冬月へ救いを求めた1話の美羽の姿が思い出される。彼女はまた、一人で背負い込むしかない過ちを重ね、罪を作り出すことになるのだろうか。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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