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万城目学の『八月の御所グラウンド』に続く人気シリーズ!摩訶不思議な街・京都ゆかりの人物と織りなす物語#京都が舞台の物語

  • 2024.11.25
ダ・ヴィンチWeb
『八月の御所グラウンド』(万城目学/文藝春秋)

京都では「先の大戦」とは太平洋戦争ではなく応仁の乱(1467年)のことを指す――こんな噂を聞いたことはないだろうか。平安の昔から続く京都の街ならば、そんな言説があってもおかしくない。路地を歩けば「○△□跡」なんて石碑があちこちにあり、「過去へのタイムトンネル」がそこここに開いているようで、なんとも不思議な感覚になってくる。京都で学生時代を過ごした万城目学さんが描く第170回直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』、続く『六月のぶりぶりぎっちょう』(いずれも文藝春秋)は、そんな摩訶不思議な街・京都の魅力を絶妙に描きだす人気シリーズ。なんといっても物語のキーになるのは「もうこの世にはいないはずの人」なのだから。

死んだはずの伝説の名投手と草野球!? 『八月の御所グラウンド』

京都は「夏が暑すぎる」でも有名だが、表題作はそんな夏の早朝に御所グラウンドで開催される謎の草野球大会「たまひで杯」をめぐる青春物語だ。借金のカタに無理やり参加させられた大学生・朽木をはじめ寄せ集めメンバーで構成されたチーム「三福(みふく)」は初戦に勝つものの、第二試合では早くもメンバーが足りなくなり、その場にいた中国人留学生のシャオさん、工場で働いているという「えーちゃん」に助っ人を頼むことになる。ある日、シャオさんがその剛速球でチームの危機を救ってくれた「えーちゃん」の写真を朽木に見せてきたのだが、その写真はなんと100年以上前のもの。すでにこの世にいない伝説の名投手の写真だった――こうやってあらすじを紹介すると「そんなバカな」と思うかもしれないが、そこをスルッと納得させてしまうのが万城目さんの腕であり京都マジック。同時所収の「十二月の都大路上下(カケ)ル」では都大路を走る京都の風物詩・女子高校駅伝のピンチランナーに挑む女子高校生を描くが、なんと彼女が目撃するのは「新撰組」。これまた京都の歴史で欠かせない人気者たちだ。

信長も登場!本能寺の変の謎解きに挑む『六月のぶりぶりぎっちょう』

直木賞受賞後、早くも登場したシリーズ第二弾『六月のぶりぶりぎっちょう』。表題作で万城目さんが挑むのは、日本史最大のミステリと言われる「本能寺の変」だ。織田信長が裏切った明智光秀に急襲され本能寺で自害する――事件のあらましは多くの人の知るところだが、実は歴史好きの間では「黒幕がいるのでは?」と様々に論じられてきた。物語はそんな本能寺の変の謎を、主人公である大阪女学館の歴史教師・滝川がうっかり解明する羽目になるというもの。京都の研修会に参加するために前のりで同僚と京都観光に行ったはいいが、深酒した翌朝、目が覚めると見覚えのないホテルのフロアで信長の死体を発見してしまい、羽柴、明智、丹羽、柴田、フロイスを名乗る面々にぐるり囲まれ――タイムトリップではないが、歴史をなぞるような異空間を舞台にした物語は、奇妙さもスケールもスピード感もさらにUPして目が離せない。同時所収の「洛中女子寮ライフ」では古い女子寮に長く住む「お局様」として、これまた雅なあの女性が登場する。

京都の街の面白いところは、リアルな街の雑踏にも、一人や二人この手の人が本当に紛れていたって不思議じゃないと思わせるところだ。だからこの物語シリーズも「ありそうだよなー」と自然に納得してしまう。いずれも読後には爽やかな感動が残るのも嬉しいところ。さて、お次は誰が登場するのだろう。早くも楽しみでならない。

文=荒井理恵

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