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夫の実家からの帰り道、名字が変わることが明確に恐ろしくなった

  • 2024.11.25

名字にこだわりはないと思っていた。
結婚するまでは。

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学生時代、結婚したら~の話でよく盛り上がっていたけれど、私はそのとき俳優の長谷川博己さんが好きだったので「名字は長谷川がいい!」と公言しており、実際色々なSNSのアカウント名を長谷川にしていた(今は結婚して名字が変わったが、結局長谷川ではなかった)。

私の旧姓はとても珍しいのだけれど、全く誇りなどはなく、読み間違いもかなり多くあったので早く名字変わりたい!とすら思っていたくらいである。名字については周りの友達の認識も同じであり、当たり前のように結婚したら名字は変わるものだと思っていた。

◎ ◎

名字について初めて深く考えたのは、夫の実家に挨拶に行ったときだった。

和やかに時は過ぎていたが、食事をしながら夫の母が言った「名字はどうするの?」の一言で空気が変わった。私は箸を置いて、少し戸惑いながらも、そのときは特に迷いなく「○○(夫の名字)にします」と言った。両親にも話していたし、それが当たり前だと思っていた。ご両親も同じ考えですか?と聞かれ、はいと答えると、夫の母は「よかった。妹さんもいらっしゃるから、もし必要であれば妹さんが、ね」と言い、夫の父は「いずれ夫婦別姓になるから」とだけ言った。そしてまた食べ始めた。夫も。

途端に私の心は荒れ始めた。え、妹……?関係ないじゃん。夫にだってお姉さんも、妹さんもいるのに。そちらは変わる前提なのに。正直夫の母の言い方にも問題はあったと思う。けれど、そうか、私の名字を残すとしたら妹しかいないんだと改めて気付かされたのも事実だ。私の珍しい名字も、ここで消えてしまう。そう思うと、なんだかとても胸が締め付けられるようだった。なぜか急に両親の顔が脳裏に浮かんだ。気の弱い私は何も言えず苦笑いするしかなかったけれど、このとき初めて名字が変わることが明確に恐ろしいことだと認識したのだ。

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夫の実家を後にしてからも、観光地を巡っても、帰りの新幹線に乗ってからも気分は晴れなかった。曇る一方だった。けれどこのもやもやを口に出してみても「私の名字はここで終わっちゃうんだ」「両親とは別のお墓に入るんだ」「結婚したら夫の名字で呼ばれるようになるんだ」なんて、今までだってそれはずっと考えていたのに、今になって何がそんなに怖いのか悔しいのか分からなかった。けれど、名字が変わることが怖い。とにかく怖い。私が私でなくなるような気がする。私なのに。私のままなのに。夫に私の名字になってほしいとも思わなかった。別姓にしたいとも思わなかった。よくわからなかった。

結局、私は結婚することを選んだ。何度も何度も泣いて、両親と話して、悩みに悩んだ末に結婚することにした。お墓は樹木葬にすると勝手に決めたし、やっぱり夫が好きだったから。

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あれほど悩んだのに役所での結婚の手続きはあっという間に終わった。その後のクレジットカードや銀行などの変更も難なく終わってしまった。

そうして夫の名字で呼ばれることにも慣れた今、思う。
夫や妻の名字、どちらかになるわけでもなく、夫婦別姓でもなく、新しい名字を作れたらいいなあと。それに伴う問題は私にはわからないけれど、そうなれば夫婦ふたりで新しい気持ちで生活できるのかなと夢物語のようだけど私はそう考えている。

いつの日かそれが一般的になったら、少なくとも今は許されていない夫婦別姓が許される世の中になったら、苦しむ人がぐんと減るんじゃないだろうか。私のように、いや、私以上に苦しんでいる人が穏やかに暮らせるんじゃないだろうか。そうなればいいと心から願っている。

■湯田かにのプロフィール
エッセイと詩と短歌が好き。ゆたかにいこう。X:yuta_kani

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