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ドラッグストアで600円。石鹸の安っぽい香りに残る片思いの記憶

  • 2024.11.25

石鹸のボディミストの香り。ドラッグストアで600円程で買った、安っぽい香り。でも私にとっては思い出の香りだ。

◎ ◎

この香りの思い出を語るのに、時は18歳まで遡る。

私は高校卒業後、地元の企業に就職した。そこで人事担当の若い男性社員に恋をした。
彼はいわゆる高身長イケメン。いつから好きだったか明確に思い出せないが、彼の容姿から察するに、一目惚れだったのだろう。ろくに恋愛をしてこなかった、高校卒業して間もない小娘など、それだけ単純だった。

とはいえ彼の容姿以外にも、惹かれる要素は沢山あった。誰にでも人当たりが良く、仕事をスマートにこなし、時にはユーモアのある彼に、どんどん惹かれていった。

◎ ◎

私の必死のアピールは、今思えば空回りばかりだった。
運動会などの社内イベントは必ず参加し、彼に話しかけた。終わった後にLINEを入れるのも欠かさない。

仕事の相談と称して、彼に電話をかけたことは一度や二度ではない。いつまでも私の話に付き合ってくれる彼の優しさに甘えて、何時間でも話していた。

化粧も初心者の私は、メイク動画を見漁ってはコスメを買い漁っていた。彼に会う日は早起きして、気合いを入れてメイクをした。ジムに通い、ダイエットも始めた。とにかく可愛くなろうキャンペーンだったのだ。

◎ ◎

その一環で購入したのが、ボディミストだった。

ネットの記事で「男性ウケ香水」などを見ていたので、何か香りを纏わなくては、という考えはあった。しかし香水など買ったこともないし、家族や友人にも香水をつけている人がいなかった。いきなり高価なものを買って失敗しても怖いし、社会人になりたてでお金もそんなになかったので、コスパの良いものを探すことにした。そこで見つけたのが、ドラッグストアに売っているボディミストだった。何種類もテスターを嗅ぎ分け、一番好きな香り、男性ウケしそうな香りを選んだ。

香りを纏うという経験が初めてだったので、なんだか大人になった気分だった。嬉しくて毎日のように体に振り撒いていた。

香りも纏って可愛くなった(?)私が彼とどうなったのかというと、入社三年目に告白し、振られてしまった。告白する少し前に彼女ができたと言っていたが、彼女がいなくても振られていたと思う。脈ありの要素はほとんどなかった。それでも気持ちを伝えたいと思った私は、やはり若かった。後輩として大事に思っていると伝えてくれて、彼とは今でも良好な関係を築いている。

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さて、当時大人っぽいと思っていたボディミストの香りだが、今になって嗅ぐと、なんとも安っぽい、中高生がつけていそうな香りだった。結局そのボディミストは妹にあげてしまった。

今の私には必要のない香り。でも、今でもその香りを嗅ぐと、若かった私を思い出す。
彼に片思いしていた期間は、苦しいときもあったが、がむしゃらに頑張って充実していた。あのときの真っ直ぐさを思い出すと少し恥ずかしいが、彼を好きだった三年間は、美しい思い出として残っている。

■春風凜のプロフィール
エッセイにどハマり中の24歳女。読む専から書き手にシフトチェンジしていきたい今日この頃。

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