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ジュークボックスから流れる正体不明の音源。この不快な曲が事故を誘発している?/右園死児報告③

  • 2024.11.24

『右園死児報告』(真島文吉/KADOKAWA)第3回【全5回】『うぞのしにこ』と読む。この文字列を、人間、動物、無機物、現象などの名前に採用すると、壊滅的な被害が出る。「右園死児に至る集団報告」は明治二五年から続く政府、軍、捜査機関、探偵、一般人による非公式調査報告体系。右園死児という名の人物あるいは動物、無機物が、規格外の現象の発端となることから、その原理の解明と対策を目的に発足した。X(Twitter)発の人気ホラー小説『右園死児報告』をお楽しみください。

報告七号

報告案件 ジュークボックス 報告者 川谷勝(かわたにまさる)(川谷電機代表)

全国のバーやクラブに置かれている川谷電機製ジュークボックスにて特定のナンバーをリクエストすると、右園死児(うぞのしにこ)という題名の曲が流れることが判明。作詞、作曲者も歌手も不明のこの曲は、川谷電機本社の設計所でしか曲名を確認できなかった。

極めて不快な曲調であったため流された回数は少なかったが、設置店舗での事故や事件の原因になったと思われ、軍によってすべての機体の回収作業が行われた。分解検証作業においてはジュークボックス内壁の経年原因以外による腐食や汚損が無数に確認された。

報告八号

報告案件 論文 報告者 田山幸三(たやまこうぞう)(大学教授)助手陣

右園死児(うぞのしにこ)という存在が誤って定義されているとして、政府および軍部に向けて作成された報告論文。

右園死児は本来、人間、動物、その他無機物の名称となった時に災害を誘引するものである。しかしながら、右園死児関連情報開示法案のような、他の文字列と結び付いた場合た やまこうぞう にはその災害誘引能力が消滅あるいは極度に軽減されるというのが、田山幸三(たやまこうぞう)による論文の要旨である。右園死児を恐れるあまり、その文字列が含まれるものすべてを禁忌扱いにし過度に対策していると田山は主張している。

現在報告されている右園死児案件のうち少なからずは、その対策の名の下に正当化された政府および軍部の過剰反応が原因の人災であるとしている。論文では実際に右園死児の名を冠された事象と右園死児を含む別名称を冠された事象を用いて災害度測定が行われ、またその名づけの手段、強固さにも分析が入っている。

その結果本案件は■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■田山幸三は無惨に死んだ。この調査報告体系は安全である。

報告九号

報告案件 三田倉九(みたくらきゅう) 報告者 政府職員

三田倉 九(みたくらきゅう)は明治政府における右園死児(うぞのしにこ)研究対策の最大責任者である。右園死児の取り扱い、関連報告の整理分析、世間への情報開示の程度などをめぐって多くの制度や法案を提言作成した。案件報告者への褒賞金制度も三田倉によるものである。

三田倉は明治政府崩壊後も右園死児対策に関わり続けたが、言語・文字列が殺傷力を持つという右園死児の特性から、対策すべきは右園死児そのものよりもそれを拡散悪用する人間であると考え、案件発生の責任者への厳罰化に動いた。数々の非合法措置と行為が問題視され、三田倉は政府から追われる。

その際に三田倉は右園死児に関連するシステムのほとんどを改悪し、また制度法律に悪意あるノイズを仕込んだ。研究対策の第一人者であったために彼の行為を否定しきれる者がおらず、その傷跡は埋められることなく今日に至る。この報告体系が概要的側面を持つのも三田倉の意図によるものである。

各案件報告からより具体的な資料・事実記録に至るためには、閲覧者の適性や動機、実績など厳格な審査が必要になり、それが右園死児対策の遅れの遠因となっている。三田倉九は晩年自らのコネを駆使し、姓名を右園死児に改名。行方をくらませた後、青森県の海岸に打ち上げられた鯨(くじら)の体内から発見された。

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