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新しい環境と緊張の記憶は「無臭」。そこに鮮やかな色をつけていく

  • 2024.11.23

人は色々な匂いから情報を読み取り、匂いから様々なことを感じることが出来る。香りと記憶は深く結びついており、その理由は脳の仕組みにあるのだそう。

人間が持っている五感の中でも、嗅覚は記憶をつかさどる海馬に直接的に信号を送ることができる。つまり人間は匂いを感知すると、同時にその匂いと結び付けられている記憶や感情を思い出すようになっているということだ。

◎ ◎

私ももちろん忘れられない匂いというのは沢山あるもので、お祭りの屋台の匂いや通学路にあった金木犀の匂い、香水の匂いなどポジティブな思い出に結びついている匂いは容易に思い出すことが出来る。これらの匂いは私を懐かしい気持ちにさせたり、時に寂しさを感じさせたりする。

反対にネガティブな思い出と結びついている匂いはどうだろうか。私の場合匂いがしないのである。

悲しい思い出や緊張している時の思い出、特に新しい環境に身を投じた時の匂いは思い出せない。ただその時感じた感情と気温だけを覚えている。

私が高校留学を決めて初めてフィジーという国に降り立った時、飛行機から出るとむせかえるような暑さと湿気が私に向かってきた。暑くて汗がダラダラ垂れたことも覚えている。

しかしこの思い出は無臭なのである。

その後、現地の学校の入学前ガイダンスに参加した時、ホストファミリーに連れられて学校に行った。学校の図書室は冷房がかかっていて空気が張り詰めていた。外の気温との差で風邪でも引きそうだなと思った記憶がある。しかしこの思い出もまた無臭なのである。

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これは私だけに当てはまることで共感は得られないかもしれない。でも、今ではこの無臭でさえ愛おしいのである。新しい環境と緊張、それらの匂いはやはり無臭で新鮮なものでなければならないと私は思っている。

高校3年間の留学を終えようとしている今、私の周りには嗅ぎなれた匂いが沢山ある。

無臭から1つずつ記憶と結び付けて、思い出にしていく。その環境になれていく度、匂いに色がついていくのだ。

透明な水を貼ったバケツに絵の具を垂らしていくように、繊細かつ大胆で単純作業かと思えば壮大なロマンが詰まっている重要な作業だったり。私はこのエッセイをきっかけに、こんな大切なことに気づくことが出来た。

来年の4月には大学入学が控えている。また私は新しい水に絵の具を落としていくことが出来る。普通に考えれば緊張でしかないが、それがなければそもそも色を付ける作業もないわけで、ただただ色と思い出を結びつけるだけの作業になってしまう。

初めの無臭があるから鮮やかな色をつけることが出来る。そう考えればこれからどんな緊張することがあっても、前向きにやっていけそうな気がする。

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また楽しい思い出には決められた名前があることに気づく。

例えば最初に出した金木犀の匂い。それぞれの捉え方は違えど金木犀は金木犀の匂いをしている。屋台の匂いといえば、焼きそばや綿菓子などの食べ物の匂いを思い浮かべる人が多いだろう。

しかし自分の言葉で形容しがたい名前の匂いはあまり記憶に残っていない気がする。数年経っても思い出せる匂いというのは自分自身で言語化できる範囲にくくられているのかもしれない。例えば卵が腐ったような匂いが硫黄の匂いと結び付けられるように、どんな匂いかが曖昧なものはそれに1番近いであろう匂いと同一視することで人間は匂いを記憶している。

だから、私は帰国まであと約1週間しかない今この国の色々な匂いを言語化して行かなければならない。ここでの3年間の思い出は絶対に忘れたくないし忘れてはいけない。

だから五感をできる限り使って最後のフィジーを味わっていく。私の周りは幸せな匂いでいっぱいだ。

この国の匂いはどんなものを嗅いでもマイナスな思い出が出てこない。でも唯一空港の匂いは無臭でもあり寂しさをもはらんでいるのだろう。

■花山春菊のプロフィール
高校留学中の高校生です。趣味は相撲観戦と野球観戦です。推しに恋する一般的なJKです。 Instagram:https://www.instagram.com/crowd_s.sumo

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