1. トップ
  2. 恋愛
  3. 結婚しても離婚しても名前が変わらなかった私の、ないものねだり

結婚しても離婚しても名前が変わらなかった私の、ないものねだり

  • 2024.11.23

私の名字は、辿れば武士の家系らしく、無骨な感じの、しかもわりと珍しい名字だ。読み方が変わっているので、小さい頃は学年が変わる度に担任の先生に、

「これはこの読み方でいいのかな?」

と聞かれることや、そのゴツい感じの響きが嫌で、ごくごく一般的な名字にずっと憧れていた。

そして大人になり、私は職場で出会った外国人男性と結婚した。

◎ ◎

テレビで見かける国際結婚した人は、たいてい外国風の名字を名乗っていたし、外国人と結婚した同僚も、みんな名字が変わっていた。だから当然のように、私も夫の名前を名乗ることになる、つまり外国風の名字になるものだと思っていた。

憧れていた「鈴木」、「佐藤」をすっ飛ばして、「スミス」とか「ウイリアム」みたいな名字になってしまうとは、ちょっと想定外だったけれど、夫が私の姓を名乗るのも、それはそれで妙な感じなので仕方がないと諦めた。

ところが、婚姻届を出した市役所の係の人は、

「名字を変えるならば、この後、手続きをしてくださいね」

と言い、新しい戸籍表には、今まで通りの私の名前が記載されていた。
日本人同士での結婚の場合、婚姻届をどちらかの姓に統一しなければならないが、戸籍のない外国人との結婚の場合、戸籍に「〇〇は婚姻し、配偶者は〇〇という外国人である」という表記がされるだけなのだ。

そこではじめて、自分に「夫婦別姓」の選択の余地があることを知った。急な展開に、提出期限までの猶予があるとのことなので、ひとまずゆっくり考えることにして市役所を後にした。

◎ ◎

夫の国では夫婦別姓は当たり前にあるらしく、夫は「変更しても、しなくても、お好きなように」というスタンスで、つまり、自分の裁量で名字をどうするかを決めることになってしまった。

どうしよう。
ずっと普通の名字に憧れていたのに。

スミスさん、ウイリアムさんになるくらいなら、これまで長らく付き合ってきた名字のままでいいような気がしてくる。それに病院や役所で、「スミスさん、スミス〇〇子さん〜」と呼ばれて、立ち上がる自分を想像してみても、なんだか気恥ずかしいし、ぜんぜんピンとこない。しかも職場の人で、結婚して名字が変わっても、その利便性から仕事関係は旧姓のままにしている人がけっこういた。

おまけに、この無骨だと思っていた名字が年齢が進むにつれ、

「いい名前ね」
「かっこいい名字ですね」

と言われることが多くなり、そうすると単純なもので、急激に自分の名前が誇らしく思えてくる。おまけに自分の名字のルーツをインターネットで調べてみると、その名字の特異性から、鎌倉時代辺りまで遡れてしまったりして、遠いご先祖様まで思いを馳せてみたりする始末。そして最終的に「よし、名字変更なしで行こう」と決めた。

◎ ◎

それからは、

「結婚してるのに、名字そのままなの?」

と聞かれることはあったが、その度に、別姓を選択したことを伝えると、

「へー、外国人相手とだと、そういうことできるのね」

と、あっさりみんな納得してくれた。

そして今、その夫と私は離婚し、子供達はカナダで夫の名字を名乗っている。しかし、ミドルネームを私の名字にしたので、子供たちとしては、私、ひいては日本との繋がりをそこに見出せて気に入っている様子だ。

しかし、ないものねだりとはよく言ったもので、「人生一度くらい、違う名前で呼ばれる経験もしてみたかったな」という思いもある。これからこの願いを叶えるには、再婚するか、芸能界に入って芸名をつけるか、作家になってペンネームを使うくらいしかない。しかも、芸能人にせよ、作家にせよ、ある程度有名にならない限りは、その名前で呼ばれることはないだろう。そうすると、残される道は再婚。

うーん。
やっぱり、私の人生、ひとつの名前のままでいきそうだ。

■カナダのおかんのプロフィール
カナダ在住のシングルマザー。
noteで、エッセイ書いてます。
https://note.com/ks_canada/

元記事で読む
の記事をもっとみる