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【インタビュー】今季活動終了のJFLソニー仙台FC、最後の主将吉野蓮の決意と現役引退

  • 2024.11.22
【インタビュー】今季活動終了のJFLソニー仙台FC、最後の主将吉野蓮の決意と現役引退
【インタビュー】今季活動終了のJFLソニー仙台FC、最後の主将吉野蓮の決意と現役引退

Text by 高橋アオ

9月27日、衝撃的なニュースが飛び込んできた。日本フットボールリーグ(JFL、4部相当)に所属するソニー仙台FCが今年末で活動を終了し、JFLを退会するという内容だった。

これまでアマチュア最高峰のJFLで優勝1度の同クラブは1968年創立から、実業団チームとして全国トップクラスのクラブとしてアマチュアサッカーをリードしてきた存在だった。

そして名門実業団チームの活動終了により、現役引退を決意した選手がいる。

今季キャプテンマークを巻くMF吉野蓮主将は2020年に仙台大から同チームへ加入し、これまでソニー仙台FC一筋で戦い続けてきた男だ。

まだ27歳と選手としてこれからという時期に、なぜチーム活動終了とともに現役引退を選択したのか。

吉野にソニー仙台FCで戦い続けてきたこれまでと揺るがない決意を聞いた。

(取材・構成・撮影 高橋アオ)

【インタビュー】今季活動終了のJFLソニー仙台FC、最後の主将吉野蓮の決意と現役引退
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高校サッカー選手権に憧れて山形へ

千葉県出身の吉野は市原市立五所小時代に市原八幡FCでサッカーを始め、市原市立八幡中進学後は1年間三井千葉サッカークラブ(現ヴィットーリアスFC)でプレーし、2年次からは中学サッカー部に所属して競技に打ち込んだ。

高校サッカー選手権出場に憧れを抱いていた吉野は、高校進学と同時に東北の地へと渡った。

――千葉から山形の羽黒高に進学した理由や経緯を教えてください。

「まず『高校サッカー選手権に出場したい』という夢を小学生のときから抱いていました。文集に『全国高校サッカー選手権大会に出場する』と書いていました。『プロサッカー選手になる』ではなく、『選手権に出る』という夢がありました。

選手権に出ることを考えたときに、当時は千葉県内の強豪校に行くのが厳しく、県外に目を向けて進学先を考えていました。その中で羽黒高は本街直樹監督が国士舘大の出身でした。自分の(市原市立)八幡中サッカー部の顧問の先生も国士舘大出身だったので、先生同士の国士館大つながりで練習参加の機会をもらえました」

――他の高校は考えになかったのですか。

「なかったことはないですが、県外に行きたかったんです。寮がある高校を考えていました。

全国大会に出られそうな強豪校を中心に考えていた中で、山形の羽黒高は雪もあってサッカーをするのに厳しい環境でしたけれど、あえて厳しいところで自分を追い込んで、私生活、サッカーを含め、親元を離れて頑張る覚悟を持って羽黒高に決めました」

――羽黒高での3年間を振り返っていかがでしたか。

「結局全国大会に出られたのは1回だけでした。高校3年次の夏、インターハイに出場。全国大会出場はそれっきりでしたね。だからインターハイ出場は『すごくうれしかった』といまでも覚えています。3年間寮生活をして、15歳で親元を離れて初めて外で暮らし、寮生も最初は知らない人たちの集まりでした。苦労はしましたけれど、先輩や同期の仲間のお陰で3年間を有意義に過ごせました」

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――仙台大に進学した経緯を教えてください。

「羽黒高の顧問の本街直樹監督にいくつか大学を紹介していただいた中で、『自分に合うところ。自由にサッカーをして、自分の考えを持ってサッカーができるよ』と仙台大をお勧めされたので決めました」

――国士舘大などの選択肢はありませんでしたか。

「もちろん考えました。ただ、国士舘大でサッカーをして自分が試合に出ているビジョンが見えませんでした。これも高校のときと同じ考えですが、全国大会に出て、自分が試合に出ることに常にフォーカスしていたので仙台大に決めました」

――なぜ大学でもサッカーを続けたいと思ったのでしょうか。

「それは高校で選手権に出られなかったからです。高校サッカー選手権に出ることが小さいときからの夢、目標というか、追いかけていたことでした。それが達成できずに3年間を終えてしまって、不完全燃焼のような『もっとやりたい』、『まだやれる』、『もっと上を目指せる』という思いが自分の中にありました。

仙台大の練習に行ったときにJクラブユースの子たちと練習で一緒になりました。もちろん技術の差はありますが、そこは運動量や自分の持ち味の球際の強さや守備面で補えると感じました。ここに飛び込んでより上を目指したいと思いました」

【インタビュー】今季活動終了のJFLソニー仙台FC、最後の主将吉野蓮の決意と現役引退
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――なぜ選手権に憧れていたのですか。

「選手権は自分が中学生のときに千葉県の予選決勝で八千代高の米倉恒貴くん、長澤和輝くんが活躍していました。長澤くんは地元がほぼ一緒で、三井千葉SC出身です。自分は三井出身(中学1年間のみ所属)です。

長澤和輝くんの八千代の試合を観て『すごい』と思いました。この大歓声の中でやりたい。特に記憶に残っていた試合が八千代高の選手権で、小中とずっと『選手権に出たい』という思いがありました」

仙台大ではプロになる同期と切磋琢磨

仙台大では同期にMF松尾佑介(J1浦和レッズ)、MF岩渕弘人(J2ファジアーノ岡山)、1年後輩にはMF嵯峨理久(J2岡山)、GK井岡海都(J3ガイナーレ鳥取)と優れた選手が在籍しており、後にJリーガーとなる選手たちと切磋琢磨して選手として大きく成長した。

3年次に吉野はレギュラーに定着し、中盤の底で豊富な運動量を生かしたボール奪取や対人守備で仙台大の攻守を支えた。

――仙台大は振り返っていかがでしたか。

「仙台大はご存じだと思いますが、松尾、岩渕、嵯峨と、いまでもプロで活躍している人たちがいる中で多くの刺激をもらいました。自分の中ではいまにつながりますが、ソニー仙台FCでサッカーをやろうと思ったきっかけがあります。

自分が大学3年次のインカレ(全日本大学選手権、2回戦)で筑波大と対戦しました。そこで三笘薫(プレミアリーグ・ブライトン)にボコボコにやられました(苦笑)。それでも三笘にはまだ余裕がありました。三笘一人に圧倒されて、こういう選手がJリーグに行くんだなと思いましたね。それがあってソニー仙台FCでJFL優勝を目指すことを決めました。『プロに行こう』という考えはそこでやめました」

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――1997年生まれ世代は三笘選手以外にもすごい選手がいましたもんね。

「自分の代のデンソーカップでも明治大の安部柊斗(ベルギー1部モレンベーク)、筑波大の高嶺朋樹(ベルギー1部コルトライク)もいましたね。明治の三冠時代が自分の代でした。夏に総理大臣杯で明治大と対戦しましたけれど、そのときも明治はベストメンバーではありませんでした。松尾が1点取りましたが、ひっくり返されて1-2で負けて…。衝撃を受けましたね。仙台大のときは本当にすごい相手と対戦していたと思います。そのときは勝てると思ってやっていたんですけどね」

――同期からはどのような刺激を受けましたか。

「松尾しかり、岩渕しかり、ストイックな選手が多かったですね。仙台大には寮がないので一人暮らしという環境でしたが、その中でも食生活や、練習に取り組む姿勢は違いがありました。ひたむきに頑張る姿勢というか。『仲間のために』じゃないですけれど、『試合に出たらやってやろう』と思わせてくれる仲間でした。一緒に目標に向かってやれたことは大きな財産になっていると思います」

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――ボランチで組んでいた同期の鈴木大貴から多くを学んだと以前仰っていましたね。

「いままで一緒にやってきたチームメイトの中で『1番うまい』、『サッカーを知っている』と思う選手です。同期ですごく尊敬している選手でしたから、大貴から盗めるものは全部盗もうと、2ボランチの隣でサッカーをしながら思っていました。大貴とサッカーをやっていく中で一緒のチームメイトでやれたことは、いまサッカーを続けられていることにつながっていると思います」

――他の同期だとブリオベッカ浦安DF藤岡優也がJFLで戦っていますね。

「サッカーに対する情熱、熱量は藤岡もすごく高いです。藤岡には浦安が当時関東リーグにいたとき、そのリーグカテゴリーでもサッカーを続けたいという情熱がすごかったです。チームに対する気持ちや恩返しするという気持ちは自分と似ているところがあると思います」

――後輩にもプロになった選手がいます。彼らから受けた刺激はありますか。

「嵯峨理久は頑張るところですね。先輩に対しても言うことは言うし、『やれよ』という話によくなりました(笑)。自分たちの代で嵯峨理久がキャプテンをやっていましたが、嵯峨の取り組む姿勢にはすごく感心しました。尊敬していた部分があります」

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――松尾選手は横浜FCでの特別指定選手で素晴らしい活躍をしていましたよね。

「もちろん松尾からも刺激を受けました。当時J2でこんなにできる選手と一緒にサッカーをしていることが幸せだなと思いましたね。プレースタイルは全然違いますけれど、学ぶことはたくさんありましたね」

ソニー仙台FC入団の経緯

仙台大卒業後は現在所属するソニー仙台FCに入団した吉野。学生のころから50年以上の歴史を誇るアマチュアサッカー屈指の名門チームに憧れを抱いていたという。

大学時代は練習試合、天皇杯宮城県予選で同クラブに何度も苦杯を舐めさせられた。それでも大学4年次には天皇杯宮城県予選で初めて憧れのチームを打ち破り、大学4年の11月にオファーをもらった。

―― ソニー仙台FCにはどのような経緯で加入されましたか。

「仙台大にいたとき、ソニー仙台FCと練習試合を何度もやっていました。自分が仙台大1年次のときからソニー仙台FCに勝ったことがなくて、『最強のソニー仙台FC』という感じでしたね。4年目の天皇杯宮城県予選で初めて勝ったんですよ。そこで自分を見てもらえたので、『自分から行きたいです』と話をして加入できました。

――いつごろオファーを受けましたか。

「自分から『入りたい』と言ったのは大学4年の11月くらいです」

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――加入内定は遅い時期だったんですね。

「そうですね。夏くらいから『行きたい、行きたい』と言っていました。(強化責任の)見田(雅之)さんと話したのは11月ぐらいでした」

――ソニー仙台FCに内定をもらった際は率直にどのような感情を抱きましたか。

「率直に『あのソニー仙台FCに入団できることがすごくうれしい』という感情でした」

――憧れの存在だったんですか。

「憧れでしたね。憧れでしたし、『ソニー仙台FCの一員でサッカーをしたい』とすごく強く思っていました」

――チームへのリスペクトが素晴らしいですね。よく練習生でJリーグクラブ入団を目指しているけど、JFLのクラブは滑り止めという大学生選手もいるじゃないですか。そういう選手はソニー仙台FCに入団できない印象がありますね。

「それはそうだと思います。いままで5年間ソニー仙台FCに在籍させていただいた中で、練習参加に来る大学生を見てきて、『J3に行けなかったら行きたいです』、『Jに引っかからなかったらソニー仙台FCに入りたいです』というマインドで来る選手も多かったです。仰ったとおり、そういう選手は練習参加ではあまり力を発揮できず、『気持ちが大事だ』と思いました」

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――アマチュアの名門チームとしてトップを走ってきたチームです。加入して意識したことを教えてください。

「最初チームに入ったとき『絶対試合に出てやるぞ』とずっと思っていました。自分が入った年は7人の新人が加入しましたが、多くの選手が入れ替わった中で『大丈夫か』という不安の声も聞こえてきました。

そういうマイナスな声をプラスにして、『この新人が入ったから勝てた』と絶対に思わせてやると入団した同期7人で話していました。個人的にも最初から試合に出場して、ベストイレブンに入って新人賞を取ってという意気込みでやっていました」

――JFLはフィジカルの強度が高い印象があります。

「JFLのサッカーは独特で、つないでくるチームはあまりないです。『フィジカルメインがJFL』という感じだったので、フィジカル面は最初苦労しました。大学のときとはスピード感が違いますし、全員強かったですね。セットプレーでは『一個、一個集中力を欠けないな』という気持ちで試合に臨んでいました」

競技と職務の並行に苦労も

ソニー仙台FCの選手は多賀城市の拠点に勤務しながら選手として競技に打ち込んでおり、午前から午後2時までソニー製品の製造などに携わっている選手も多くいる。

吉野もソニー製品の製造に携わっており、競技と職務を並行する大変さを聞いた。

――話せる範囲で、職務の内容を教えてください。

「ソニー仙台FCの選手はそれぞれ違う業務に取り組んでいます。私はLTOテープメディアの解析業務に携わっています」

――映像記録用の大容量磁気テープですか。

「そうですね。テレビ局が使うような大きい容量の磁気テープです」

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――職務で覚えることがたくさんあると思います。仕事と競技を並行することは難しかったですか。

「最初は本当に難しかったです。私が入社した年は新型コロナウイルスの影響で最初の数カ月は自宅待機でした。サッカーもJFLの開催試合が通常の半分しかできませんでした。

そして出社できるようになってからは、1年間をぎゅっと短縮させて学ばなければいけなかったので本当に大変でした。午後2時まで仕事をして、そこから練習は大学生のときと比べたら過密スケジュールでした。仕事では覚えることがあって、サッカーでは試合に出ることにフォーカスしないといけない。時間の使い方は苦労しましたね」

――それは大変でしたね…。

「最初は覚えることも多かったですが、サッカーと一緒でトライアンドエラーを繰り返して学ぶ姿勢が大事です。学ぶ姿勢とやり切る覚悟みたいなものはサッカーでも一緒だと思います。そこの強みを仕事に生かせたと思います」


ソニー仙台FC以外でプレーする選択肢はない

今年9月にソニー仙台FCの活動終了が発表された。56年の歴史を持つ東北のサッカーをけん引し、アマチュアサッカーの頂点にも輝いた名門チームが活動を終える。

ソニー仙台FCの選手としてのプライドを抱いて戦い続けてきた吉野主将は、チームの活動終了とともに現役引退を決意した。

まだ27歳と選手としてはこれから脂が乗る年齢だが、チームへの忠誠心、愛があってこその選択だった。

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――チームの活動終了を知った際に、率直に思ったことを教えてください。

「率直に思ったことは、悔しい気持ちでした。(所属して)5年間あった中で1回も優勝できなかったので、このまま優勝せずに終わってしまうことが悔しいですね」

――何歳まで続けたいといった気持ちはありましたか。

「やれるところまではやりたいという思いはありました」

――これからという年齢でもありますから、悔しさしかないですよね。

「悔しいですし、残念だし、やり切れない気持ちです。ただ自分の中でソニー仙台FC以外でサッカーをする選択肢は1ミリもありません。見田さんにソニー仙台FCに加入させてもらって、恩返しという気持ちも込めて『絶対優勝する』という目標を掲げてやってきました。

他のチームでサッカーをすることは選択肢にありません。だからこそソニー仙台FCでやれるところまでサッカーをやって、優勝して辞めようと思っていました。その目標を達成できなかったことに悔しさとやり切れない気持ちになりました」

――その悔しさを抱えていくのでしょうか。それとも今後指導者などサッカーでその悔しさを晴らすビジョンを持っていますか。

「いまのところまったく考えてないですね。サッカーに携わることを考えていません」

――現役引退はソニー仙台FCへの忠誠心からですか。

「そうですね。ソニー仙台FCに加入させてもらったことが自分にとって本当にうれしかった。ソニー仙台FC以外のユニフォームを着ている自分を想像できませんし、想像したくないというのがあります」

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――現役引退後はどのようなキャリアを歩まれますか。

「自分としては社業に専念して、サッカー以外の形でソニーグループに貢献したいと考えています」

――引退は寂しくなりますね。

「寂しくなりますね。松尾と(岩渕)弘人の試合を見に行きますね」

――キャリアを振り返って順風満帆でしたか。

「そんなことはないですね。きつい時期もありました。幸いというかうれしいことに5年間通して試合に関わらない時期はありませんでした。『絶対にメンバーに入ってやる』、『試合に出てやる』という気持ちは5年間ずっと毎日欠かさず、そのためにどうしていくか。週末の試合に向けてどうしていかなければいけないかというプロセスを考えることが自分の強みです。

考えることが強みの部分なので、やってきたことが結果に出ていることはもちろんですが、順風満帆かと言われると全然そんなことはないのかなと思います。優勝を目標に掲げてきて優勝できなかったので、悔しい気持ちのほうが強いですね」

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――同期との対戦もありました。2021年シーズンのいわきFC戦は印象的でしたね。

「ソニー仙台FCのホームページにも載っていると思いますが、1番印象に残った試合の中でいわきFCとの試合を挙げています。JFLの2年目の後期のJヴィレッジでやったいわきFCとのリーグ戦を2-0で勝ちました。その試合はすごく印象強く覚えています。当時はいわきが首位を独走していましたが、いわきが来年J3に行くのは分かっていたので、自分たちが勝って『ソニー仙台FCには結局勝てなかった』という印象を与えたいということしか考えていませんでした。

(岩渕)弘人とも『これが最後の試合になるかもね』という話をしました。天皇杯でもチャンスはありましたが、リーグ戦でバチバチできる試合は最後かもしれないと話した中でモチベーションを高くやれました」

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――あれは圧巻の試合でしたよね。

「むちゃくちゃ気持ち良かったです(笑)」

――嵯峨さんも悔しがっていたことをよく覚えています(笑)。あの試合は吉野選手にとってベストマッチだったと思います。

「そうですね。岩渕、嵯峨理久もそうですけど、(岩渕)弘人は大学生の時からずっと一緒で、1年生のときからカテゴリーもずっと一緒にやっていました。最初がBチームに入って、Aチームに上がりました。

特別身体能力が高いわけではなく、足が速いわけでも、上手かったわけでもない。『本当にお互い頑張ろう』と、一生懸命努力していろんなことを学ぶ姿勢を強みにしてやってきたタイプの人間です。そういう選手とJFLという舞台で真剣勝負を戦えたので、いままでのサッカー人生で1番印象に残った試合です」

――今季のホームHonda FC戦でゴロのクロスを入れて、決勝点をアシストして1-0で勝ちました。今季だと1番印象深い試合はホームHonda FC戦でしょうか。

「そうですね。今季左サイドバックにコンバートされてからアシストしたのは初めてじゃないですかね。あの試合はHondaさん相手にアシストを決めたことがうれしかったし、今年では1番印象深いですね」

チーム最後の主将として

今季が終わればチームの活動終了とともにスパイクを脱ぐ。これまで泥臭く球際の戦いを制し、献身的にチームを支え続けてきた男は全力で戦い抜く。吉野はチームの正式な主将ではないが(チームは主将を決めない方針)、キャプテンマークを巻いてキャプテンシーを見せてチームをけん引してきた。

名門チーム最後の主将にソニー仙台FCの選手として戦う矜持(きょうじ)などを聞いた。

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――名門ソニー仙台FCの最後の主将としての誇りや想いを教えてください。

「ソニー仙台FCのキャプテンに正式に任命されたわけではないんですよ。監督から『蓮にやってほしい』と言われましたけれど、任命されたわけではありません。鈴木淳監督になってからキャプテンを決めない方針なんですよ。みんなが自覚と責任を持ってやろうということで。その中でキャプテンマークを巻かせてもらっています。

キャプテンマークを任せてもらっていることは本当に責任をすごく感じています。やらなければいけないという気持ちになります。最後の年にキャプテンマークを巻かせていただいているので、いままでのソニー仙台FCの歴史、功績を考えて恥ずかしい試合はできません。OBの方や会社の方たちに結果で恩返しする気持ちが増していきました」

――ソニー仙台FC一筋でキャリアを終えることについてはいかがでしょう。

「まったく悔いはないです。もともとそうしようと思っていたので、気持ちに変化はありません。より一層、試合の結果で恩返ししたいなと思っています」

――ソニー仙台FCはこれまでJFLの門番と言われてきたチームです。Jリーグ参入を狙うチームとの対戦は力が入りましたか。

「それはもちろんそうですね。参入を目指すチームに対しては『絶対参入させないぞ』という気持ちでやっていました。『JFLはそんなに甘くないぞ』という気持ちでしたね。」

――ソニー仙台FCで最も印象深いエピソードを教えてください。

「監督が代わったことですね。自分にとって大きいことでした。鈴木監督になってサッカー観が180度変わって、戦術もパスサッカーになりました。そこで経験したことはサッカーをより深く知れたというか。『サッカーの楽しさ』、『本来の楽しみ方』、駆け引きやボールをつないで相手の逆を取るプレー、相手を見て考えてプレーするなど。そういうところを経験できたことは自分にとってすごくいい経験、財産になったと思います」

――職場の方々も試合に駆けつけていると聞いています。支えてきた職場の方々への想いを教えてください。

「基本的に午前8時半に出社して、午後2時に職場を離脱させてもらって、午後3時から練習をさせていただいています。平日の業務がある中で、午後2時に職場を離脱させてもらっているので、職場の方々のサポートがないとできないことです。職場の方々、会社の方々には本当に感謝しかないです。

その中で嫌な顔をせずに『練習いってらっしゃい、今週も試合頑張ってね』と言葉をかけていただいています。さらにホームゲームには会社の方々も応援によく来てくださっています。試合に勝っても、負けても会社に行ったら言葉をかけてくださるので、『支えられているんだな』という気持ちになります。自分たちはより会社のためにいい報告、勝利の報告をしないといけないという責任感が芽生えました」

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――これまで支えてきたスタッフの方々への想いを教えてください

「スタッフには感謝しています。自分たちよりもアウェイゲームの準備などやることも多いですし、荷物を運んで、試合の日には早く試合会場に着いて準備していただいてきました。平日も練習メニューを考えて、マーカー、コーンを置いていただいて、時間外のところでも選手のため、試合に勝つためにということを考えていただいているので感謝しています」

――実業団チームの良さ、実業団チーム所属選手としての誇りを教えてください。

「社会人としての自覚、責任感を芽生えさせてくれます。自分たちがサッカーをしているこの環境が『当たり前じゃない』というところを毎日感じさせてもらっています。仕事とサッカーを高いレベルでやらせてもらっている中で、『サッカーだけをやっているプロチームに絶対に負けたくない』という気持ちでやってきました。実業団チームとしてのプライドをすごく強く持ってやっていました」

――現役を続行するソニー仙台FCの選手たちへのエールをお願いします。

「いろいろな選手がいる中でソニー仙台FCでのサッカーで、上を目指すことや仕事もしっかりして、社会人としてここでサッカーを経験できたことを大きな財産だと思っています。来年からキャリアはそれぞれだと思いますが、このソニー仙台FCでやってきた経験を生かして頑張ってほしいと思っています」

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――改めてソニー仙台FCは吉野選手にとってどのような存在ですか。

「一言では表せないです。自分のサッカー人生もそうですけれど、人生においても大きな存在だったことは間違いないと思います。その一員になれたことに誇りを持ってこれからも生活していきます。ソニー仙台FCには感謝しかないです」

――ソニー仙台FCの一員として感謝しつくせないくらいの経験をして引退されます。今後の人生でソニー仙台FCで過ごした経験をどう生かしていきたいですか。

「本当にいろいろな経験をしてきて、いいときも悪いときもソニー仙台FCの看板を背負って過ごしてきました。自分が上手くいっていないときの経験、そこからまたさらにトライ、エラーを繰り返した経験を、ソニー仙台FCでは多くさせていただきました。

これから先新しいことを学ぶ機会が多くあると思いますが、この先の人生でも積極的に挑戦する姿勢、学ぶ姿勢を最後までやり抜く覚悟を強く持って、このソニー仙台FCで過ごしてきた経験を今後の人生に生かしていきたいと思います」

――サッカー選手最後の試合である最終節に向けての意気込みをお願いします。

「最後なので本当にサッカーを楽しみたいです。その中でも勝ちにこだわりたいと思っています。それは職場の方々や、家族、仲間、友だちもそうですけれど、いろいろな人に支えられてここまでサッカーをやらせていただきました。感謝の気持ちを込めて、恩返ししたい気持ちがあります。それをワンプレー、ワンプレーに魂込めて表現できたらと思っています」

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背番号14が現役キャリアを終えると聞いて、仙台大時代にともに戦ってきた選手たちが吉野にメッセージを送ってくれた。

ファジアーノ岡山
岩渕弘人「サッカー選手としてのキャリアお疲れ様でした。これからパパとして大変なこともあると思いますが、奥さんと仲良くしてください。いつでも飲みましょう!」
嵯峨理久「現役生活お疲れ様でした!蓮くんは大学時代からピッチ内外で尊敬している先輩の一人です。これからも蓮くんらしく次の道へ進んでください。自分が引退したときにセカンドキャリアの先輩として沢山お話聞かせてくださいね(笑)。また会いましょう!」
浦和レッズ
松尾佑介「吉野主将、現役生活お疲れ様!!もう、ピッチで吉野主将を見ることがないと思うと悲しいです。今度ゆっくりこれまでの話や吉野主将のような暖かい家庭をどうやったら育めるのかアドバイスください。吉野主将お疲れ様でした!」

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今月24日午後1時にみやぎ生協めぐみ野サッカー場Bグラウンドで行われる栃木シティ戦を最後にソニー仙台FCは活動を終える。出場すれば現役最後の試合となる決戦に吉野はどのようなプレーを見せるのか。白星を飾って名門の歴史を終えてほしい。

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