1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 書家・紫舟のLove Letter Projectに参加した、心の余韻

書家・紫舟のLove Letter Projectに参加した、心の余韻

  • 2024.11.22

書家・芸術家 紫舟の祈り、アートのチカラ

日本の文化や精神性、書の魅力などを世界へ発信し続けている書家・紫舟さん。忙しいスケジュールを縫って、18年間に続けている活動に「Love Letter Project」というワークショップがある。
通常は紫舟さんから書を学ぶことはできないが、この1日だけは、一般の人が特別に指導が受けられる。その1年に一度のチャンスにPremium Japanも参加させていただいた。

 

 

 

自分を誉め、自己肯定感を高めていくことの大切さを伝える

 

2024年10月12日(土曜)、恵比寿ガーデンプレイス内の「ザ・ガーデンルーム」において、「Love Letter Project」が今年も開催された。

これは、【多くの人にもらった愛を、次の誰かに届けよう!】をテーマに、書で大切な人へのラブレターを書くプロジェクトだ。長く「一般クラス」のみで開催されてきたが、2021年から新たに午前の部「マスタークラス」が加わり、より幅広い人々に迎えて開催されている。

 

今回は参加者20名枠の「マスタークラス」に参加をさせていただいた。
このクラスは、最高レベルと謳ってはいるが、決して書道上級者向けクラスという意味合いではなく、書を通じて、より精神性を極めていくためのクラス。集中力を必要とする方、手や指を用いる細かなお仕事の方、やる気をUPしたい方、筋トレなしで身体能力を上げたい方、新しい上達法を学びたい方などにおすすめのクラスになっている。

 

 

マスタークラス
マスタークラスでは実際に体を動かして、深い呼吸を実践する

少人数クラスである「マスタークラス」は紫舟さんとの距離が近い贅沢なクラスで、紫舟さんが日頃行っていることや、考えていることなど普段は聞けない話を伺うことができる。

 

まず紫舟さんが最初に発した言葉は「自分をほめていますか?」であった。
考えてみれば、自分に対して落胆したり、叱責したりすることはあっても、自分を誉めたり、自分に激励を送ることはあまりないのではないだとうか。

世界的に見ても日本人は自己肯定感が低いと言われているが、その理由の一つに愛を言葉にして誰かに伝える機会が少ないからではないだろうかと紫舟さんは語る。

普段は自分を誉めない私たちに、その誉め方の一つの方法として、「自分の手のひらで優しく、ゆっくりと自分に語り掛けるように撫でていきましょう」と参加者を促す。
皆少し恥ずかしそうではあるが、自分の体に触れながら、自分に感謝を伝えていく。すると不思議と心が鎮まり、緊張がほぐれていくように感じる。たったこれだけのことで、心持ちが変わるのだ。

さらに紫舟さんは、私たちに深呼吸をするように促し、肺にしっかりと酸素を取り込み、ゆっくりと吐き出すことを何回か繰り返していく。
これは交感神経をゆるめて副交感神経の働きを優位にすることで、感情の落ちつき、緊張からの解放できるからである。

 

これらはすべて心を整えて、自身に向き合うためである。

 

負の感情をコントロールすることで、自己肯定感が上がる

 

 

紫舟さんが書に向かう前のルーティンについても私たちに伝えてくれた。そのポイントが以下の5つになる。

 

1、頭の重心移動で身体能力を上げる

2、墨蹟の強弱美激を書き分ける呼吸法

3、高い集中状態への入り方/やる気スイッチの入れ方

4、感情と心のコントロール法

5、目線/視野を使ったメンタル調整法

 

集中したり、負の思考を停止させる方法は、書道だけでなく、日常生活のあらゆる場面でも使えることばかりである。

紫舟さん
立ち姿、所作、すべてが美しい紫舟さん。

紫舟さんによれば、文字を書くことは脳の前頭葉の働きを優位にする効果があり、不安や恐怖を司る偏桃体の働きを一時であれば抑えることができると語る。偏桃体の活動を抑制することで、人は安心感を得て、あたたかな気持ちになれるのだと教えてくれる。

 

自分自身をいかにコントロールしていくのか、簡単なようで実に難しい。
紫舟さんは日常生活でのルーティンを変えたり、習慣を変えることで、自分の意識や感情がどう変化するかを日々実験すると語る。どうすれば、自分が常に心地よくいられるのか、それを自身で探るのだと言う。

 

 

筆の毛先に意識を集中させて、全身で文字を描く爽快感

 

いよいよ書に入っていく。
小学校で習った書道の姿勢と言えば、背筋を伸ばして、右利きなら右手で筆を持ち、左手で半紙の端をおさえて、呼吸を整えて筆を動かす、この動作は不思議と体に身についているものだ。

紫舟さんによれば、半紙サイズに書く時には、この姿勢は有効的で、体のブレを防ぐことができ筆を固定しやすくなるのだと言う。しかし、今回のような120×65㎝という大きな和紙に書く場合は、この姿勢は有効ではないので、身体の関節を緩めて、全身を使って描く必要がある。

 

筆運び
大きな和紙に筆を走らせる練習を行う

「マスタークラス」のラブレターは、未来の自分を想像し、自身願いが叶った時の自分へのメッセージ、まわりへの感謝を気持ちを言葉にしていく。
字のサイズや文字の位置を頭でイメージしながら、心を落ち着かせて、和紙に筆を置く。

この緊張の瞬間、無の境地のなんと心地いいものなのだろうか。日々の雑多なことが消え去り、一瞬ではあるが心が空になる。

 

午後クラス
午後の「一般クラス」の出席者は年齢の幅が広い。
午後クラス清書
午後の「一般クラス」大切な人へのラブレターをしたためる。

午後の「一般クラス」にはお子さんの姿もあり、にぎやかである。
前半には自由な筆さばきを学び、「あたたかな字」「強そうな線」「笑っている字」など、約20種類の書体を書き、後半には、大切な人を想いながら気持ちを言葉にし、「想いが伝わるお手紙」を1m以上の大きな和紙に書き上げていく。

 

心の整理をしながら言葉を紡いでいく作業がいかに大切なのか、きっと参加された多くの方が感じていることでしょう。

 

書家・アーティストとして活動する紫舟さんに書を学べる貴重な時間から見えてくるものは、きっとあなたに多くのことを教えてくれるだろう。この体験をより多くの方々に味わっていただきたい。
来年も同時期に開催予定である。

 

紫舟 SHISYU

書家/芸術家/大阪芸術大学教授

六歳から書をはじめ、奈良・京都で三年間研鑽を積む。『書』と、文字を平面の制約から解放した『三次元の書』、絵と書が融合した『書画』のほか、伝統文化を新しい斬り口で再構築した作品は、唯一無二の現代アートと言われている。フランス・ルーヴル美術館地下会場でのフランス国民美術協会展にて、書画で「金賞」、彫刻で「最高位金賞」を日本人初のダブル受賞(2014)。翌年には同展にて「主賓招待アーティスト」に選出され大規模展を開催など、世界活躍。国内では、天皇皇后両陛下(現上皇上皇后両陛下)が『紫舟』展に行幸啓されました(2017)。伊勢神宮「祝御遷宮」。春日大社「祝御造替」。明治神宮「明治神宮鎮座百年祭」。NHK大河ドラマ「龍馬伝」や「美の壺」の題字も手掛ける。

元記事で読む
の記事をもっとみる