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【内野聖陽さんインタビュー】「勝ちに行く気迫がないと、成功するものも成功しない」

  • 2024.11.22

その演技はまさに変幻自在。映画でもドラマでも舞台でも、硬軟いずれの役柄もその人そのものとして作品のなかに存在させる、熟練にして凄腕の俳優、内野聖陽さん。最新主演作は、一大旋風を巻き起こした映画『カメラを止めるな!』で一躍注目を浴びた上田慎一郎監督とタッグを組んだ映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』。台本づくりから参加したという映画のこと、60代を見据えた今、俳優として思うこと。内野さんに聞きました。

‟セッション”を延々繰り返した台本づくり

生真面目な税務署員と天才詐欺師がまさかのタッグを結成。巨大企業の社長である‟脱税王”に未納の10億円を納税させよ!――そんな奇想天外なエンタメ作『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』で、税務署員の熊沢を演じた内野聖陽さん。始まりは、‟カメ止め”の上田監督からの熱烈なオファーを受けたことでした。
 
「上田監督はいつもしっかりとリハーサルをされる方のようで、今回も入念な打ち合わせをしたいと。僕もリハーサルをすべきところはしたほうがいいと思うタイプでしたし、監督のやりたいようにやったほうがいいかなと。台本の打ち合わせでは、天才詐欺師の氷室を演じる岡田(将生)君とも、役としての会話の調子など、延々とセッションしました」
 
脚本の基となったのは韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』。全16話のドラマを2時間ほどに収めるため、試行錯誤を繰り返したそう。
 
「最初のうちは情報量が多すぎて、てんこ盛りになっていまして。僕はその台本を読む最初の‟観客”として、疑問が浮かんだ箇所すべてに付箋を貼り、打ち合わせでひとつひとつクリアにしていきました。一所懸命考えてきている彼には申し訳ないけれど、作品をよくするためと心を鬼にして、突っ込みをたくさん入れさせていただきました。ところが上田監督は次の稿ではそのすべてを手直しして、どんどん台本の精度を上げていくんです。必ず前回以上のものを盛り込み、あるいはそぎ落として。これほどの熱心さで台本の質を上げる人ってあまり見たことがありませんでした。ゴールが見えない……と心が折れそうになったこともありましたが、彼の熱意に負けて、もうとことん付き合うよ!という感じで。現場に入った頃には、監督のいちばんの理解者は僕じゃないかと思うくらいでしたね(笑)」

荒唐無稽な物語、そのフィクションをどう乗り越えるか?

ことなかれ主義の税務署員である熊沢(内野さん)は、使命感に燃える部下に焚きつけられ、脱税疑惑のある巨大企業の社長、橘に接触。しかし追い詰めるどころか、でっち上げの言いがかりをつけられ処分対象に。熊沢はまさかの出会いを果たした、詐欺師の氷室と組んで橘への復讐を決意。公務員と天才詐欺師がタッグを組み、ありえないミッションが始まります。
 
「公務員が詐欺に加担して復讐、なんて荒唐無稽な物語だけれど、そのフィクションをどう乗り越えるか?が課題でした。詐欺という嘘をリアルに持っていく、そのためには巨悪・橘が大黒柱でなければ成立しません。誰が演じるのだろう?と思っていたら、小澤(征悦)さんで。何度も共演させていただいていますが、ビシッと決めるところは決めてくれる人なので、よかった!と」
 
曲者ぞろいの詐欺師が集結したドリームチームによる、騙し合いを描く痛快なエンタメ作に仕上がった本作。「面白かった」と素直に感想を伝えると……。
 
「面白いと言っていただけるとホッとします。映画の後半、チームワークで非現実的のようにも思える詐欺というゲームが展開していく、そのスピード感がこの映画のいちばんの面白さだと思います」

今のテーマは、「仕事をいかに面白くしていくか?」

『大人のおしゃれ手帖』の読者と同世代の内野さん。コンスタントに映画やドラマに出演し、舞台にも取り組み、 56歳の今も、演じることへの熱は衰えを知らないように見えます。
 
「舞台は幕が上がれば、映像で言えば“ワンシーン・ワンカットの長回し”。そのなかで揺れもありつつ、他の役者さんとお客さんとのセッションを楽しみながら最後までもっていく。映像のようにNGが出たらもう1回、というのは一切できません。言い訳の効かない世界で、役者の志やタフな精神など、様々なものが試されます。だから、そういう場を自分自身から奪ってはいけない、そんな気持ちがどこかにあるんです。1年に1本は必ずやりたいなという思いはあります」
 
今秋には、井上ひさし作の舞台『芭蕉通夜舟』で一人芝居に挑みました。
 
「役所広司さんにも‟なんでそんな難しいことばっかりやるの?”って(笑)。でもそんな格好いいことじゃないんですよ、ビビっているんです。‟できるかな?”と思う自分と、‟いやいやいや、できるかな?じゃなくてやれよ!”と言う自分がいて。どんなことでも弱気では絶対に勝てないですよね。勝ちに行く気迫がないと、成功するものも成功しない。次の作品は成功したい!という思いが奇跡を生むし、新しい出会いを呼び込むだろうと思っています」
 
ある脚本家が「50代になった途端にみんなが自分のことを大御所と言い始める」と言ったそうですが、内野さんにそれは当てはまりません。
 
「若い時はただがむしゃらでしたが、キャリアを積んでいくと、‟内野さんはこう”と期待されるところがあります。でも僕はそこにとどまっていたくない、期待以上のものをやってみたい!と思っているふしがあります。ギリギリの状態からもう一歩上に行きたい。ちょっと格好いい言い方になりますが、でも余裕でこなせるものより、あたふたと冷や汗をかきながらやっているもののほうがいい。観ている側も、自分の枠から飛び越えようとする、限界を超えてがんばる人のほうが、最高!セクシーだよ!って思うのではないでしょうか」
 
俳優には定年がありません。内野さんは、年齢をどう意識しているのでしょうか。
 
「どうでしょう? ただ体というのは正直で、この年齢になるとどこかしらが故障したりします。すると、それをカバーするための工夫やアイデアが生まれます。このままいくと“ケガするかも”という感覚もわかるようになります。そうした‟小さな信号”の認知機能は若い時より優れてくる。もし、故障してしまっても、メンテナンス力が上がったり」
 
そうしてこの先を見据えつつも、‟理想”や‟こうあるべき”という枠はないと言います。
 
「最近、あるお笑い芸人の方のドキュメンタリーを観たんです。その芸人さんが、ウケなくなったお決まりの芸を止めたとき、その師匠にあたる人に”なんで今日はやらないの? やるべきだよ。お前たちがお客さんより先に飽きちゃっただけでしょ”と言われるんです。そして改めて真剣にその芸を披露したら、またウケたんですって。それだな!と。お笑いLIVEでも舞台でも、毎日やっていると自分が飽きてルーティーンワークになることがある。いつの間にか形骸化し、面白さを自分で忘れてしまうんです。それがあかんのかなと。演じることも同じだよなぁと、そんなことを思ったんですよね」

PROFILE:内野聖陽(うちの・せいよう)
1968年生まれ、神奈川県出身。1993年俳優デビュー。近年の出演作に『とんび』、『真田丸』、『きのう何食べた?』シリーズ、『ブラックペアン』シリーズ、等のテレビドラマ、『家路』、『罪の余白』、『海難1890』、『初恋』、『ホムンクルス』、『鋼の錬金術師』シリーズ、『春画先生』、『八犬伝』等の映画がある。

映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』

●監督:上田慎一郎
●脚本:上田慎一郎 岩下悠子
●出演:内野聖陽 岡田将生 川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖美 真矢ミキ 皆川猿時 神野三鈴 吹越満 小澤征悦
●11月22日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開

©2024 アングリースクワッド製作委員会

撮影/鈴木千佳 スタイリスト/中川原寛(CaNN) ヘアメイク/佐藤裕子(スタジオAD) 取材・文/浅見祥子

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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