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アステカの「死の笛」は現代人にも恐怖を植え付けられる!脳スキャンで判明

  • 2024.11.21

古代アステカの「死の笛」は今日の私たちをもビビらせるようです。

アステカ遺跡で見つかった「死の笛」は頭蓋骨の形をした不気味な見た目だけでなく、人の叫び声や悲鳴のような音を出すことで知られます。

そして最近、スイス・チューリッヒ大学(UZH)の研究で、死の笛を現代人に聞かせて脳活動を測定したところ、恐怖や嫌悪感、警戒心を生じさせられることが確認できたのです。

これは死の笛の効果がまったく古びることなく、人々に恐怖を植え付けられることを示しています。

さて、どんな恐ろしい音を奏でるのでしょうか?

研究の詳細は2024年11月11日付で心理学雑誌『Communications Psychology』に掲載されています。

目次

  • 断末魔の叫びを奏でる「死の笛」の音とは?
  • 「死の笛」は現代人にも通用した

断末魔の叫びを奏でる「死の笛」の音とは?

古代アステカ文明は一般に、西暦1428年頃〜1521年にかけてメキシコ中央部に栄えた国のことを指します。

マヤ文明と並んで非常に有名なメソアメリカ文明の一つですが、今から数十年前、メキシコにあるアステカ文明の遺跡で奇妙な遺物が発見されました。

20代男性の骨の中から見つかったその遺物は、粘土を頭蓋骨の形に整形した不気味な見た目をしています。

サイズは手のひらに乗っかるほどで、頭蓋骨の上部に付いた筒状の穴から明らかに笛であることが見て取れました。

アステカ遺跡で見つかった20代男性の遺骨(赤枠に笛が)/ Credit: Sascha Frühholz et al., Communications Psychology(2024)

そして研究者らは笛の精巧なレプリカを作成して、実際に笛を吹いてみました。

すると頭蓋骨の笛は断末魔の叫び声のような背筋も凍る音を出したのです。

これが「死の笛(Death Whistle)」と命名される所以となりました。

当時、笛を調査した機械工学者のロバート・ベラスケス・カブレラ(Roberto Velázquez Cabrera)氏は、死の笛について「これは普通の楽器ではなく、苦痛に泣き叫ぶ人の声や千人の死者が叫ぶ声を出す」と表現しています。

では、その実際の音を聞いてみましょう。

動画の前半部は死の笛を単体で吹いたときの音(実際の音は50秒辺りから)が紹介され、後半部の1分10秒辺りからは「100個の死の笛を同時に吹いて、その音が近づいてくる際の音」を再現しています。

※ イヤホンを推奨します。音量に注意してご視聴ください。

では、古代アステカ人は「死の笛」をどんな目的で使用していたのか?

それにはいくつかの説があり、特に有名なのは「笛の音で敵を恐怖に陥れて、戦意を喪失させる」というものです。

アステカの戦士たちはおそらく、首から死の笛を下げており、他の民族と武力衝突する際に笛をいっせいに吹くことで、敵軍を怯ませたのではないかと考えられています。

そのシチュエーションを再現したのが先の動画の後半部の音です。

こんな無数の断末魔の叫びが森の奥から聞こえて来れば、勇敢な戦士も思わず尻込みしてしまうでしょう。

(ただ今のところ、戦場や兵士の墓から死の笛が見つかっていないため異論もあります)

b:「死の笛」のオリジナル、c:スキャン画像で見た中身 / Credit: Sascha Frühholz et al., Communications Psychology(2024)

この他にも生贄の儀式の際に吹き、死者の声を響かせることで、生贄に捧げられた魂を冥界へ誘っていたとか、異なる笛のトーンを組み合わせることで、意識を高次の状態に移すという呪術的用途があったなどの説が唱えられています。

しかし問題は「死の笛の音が本当に人々に恐怖を与えられるのかどうか」という点でしょう。

音を聞いて「確かに不気味ですね」」とは言えるものの、脳活動から実際にその人が恐怖を感じていることは確かめられていません。

そこで研究チームは今回、人々に死の笛を聞かせて、そのときの脳波を測定する実験を行いました。

「死の笛」は現代人にも通用した

実験ではまず、ヨーロッパ在住のボランティア70名を被験者として募り、死の笛の音を聞いている間の心理的反応を測定しました。

ここでは人間や動物が発する音、自然音、音楽の音色、道具が発する音などに死の笛の音を加えて、それをランダムな順番で被験者に聞かせます。

このとき、被験者は死の笛が提示された音サンプルの中に入っていることは知らされておらず、純粋に音だけから何を感じたかを答えてもらいました。

これと別に、被験者のうちの32名には死の笛を聞いている最中に、 fMRI(磁気共鳴機能画像法)による脳活動スキャンを受けてもらっています。

死の笛(SW)を聞いて活性化した脳領域を調べたもの / Credit: Sascha Frühholz et al., Communications Psychology(2024)

その結果、被験者の多くが似たような反応を示すことが確認されました。

彼らの脳内では死の笛を聞いたときに低次聴覚皮質領域が活性化しており、これは彼らの脳が厳戒態勢にあることを示すものでした。

この脳領域は悲鳴や赤ちゃんの泣き声といった嫌悪や不安を呼び起こすような音に反応して活性化することが知られています。

つまり、脳は死の笛の音を「脅威」と認識していたのです。

それを指し示すかのように被験者は死の笛を聞いたときに恐怖や不安、嫌悪感を感じており、「音を止めてほしい」と回答していました。

死の笛のレプリカ/ Credit: Roberto Velázquez

また被験者の多くは、他の動物の鳴き声や自然音、楽器の音色とは違い、死の笛の音が「自然物によって出された音なのか、人工物によって出された音なのか」を明確に識別できませんでした。

このように音を明確にカテゴリー分けできず、出どころがはっきりしないような音は心理学的に人々を不安にさせやすいことが知られています。

まさに死の笛の音は、そうした「正体不明で得体の知れない不気味な音」として認識されていたのです。

以上の結果を受けてチームは、死の笛が現代人においても恐怖や嫌悪感を誘発させる効果を持つと実証されたことから、古代アステカ人は笛の特性を理解して、敵を脅したり、生贄の儀式の参加者に畏怖の念を抱かせるような使い方をしたとみて間違いないだろうと話しています。

参考文献

Creepy Aztec Death Whistles Have a Strange Effect on The Human Brain
https://www.sciencealert.com/creepy-aztec-death-whistles-have-a-strange-effect-on-the-human-brain

元論文

Psychoacoustic and Archeoacoustic nature of ancient Aztec skull whistles
https://doi.org/10.1038/s44271-024-00157-7

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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