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睡眠不足の人は必見。質のよい眠りにつながるナイトタイムの過ごし方

  • 2024.11.20

心地よい眠りを誘う、光・音・温度の最適解

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Photo:trentino/Adobe Stock

睡眠先生こと早稲田大学スポーツ科学学術院教授で、睡眠に関する著書も多数執筆されている西多昌規教授が、睡眠にとって良い環境の条件を語る。「眠るためには真っ暗な方がよいとされていますが、真っ暗すぎてしまうと夜、トイレに立ったときなどにつまずいてしまうこともありますし、明け方、明るくなってだんだん体は目覚めていくので、完全に暗い状態のままで寝ない方がいいでしょう。音楽も眠りのためのヒーリング音楽などもありますが、聴くのはタイマーなどで眠りにつくまでにして、入眠後は無音の静かな環境の方が好ましいです。暑すぎる、寒すぎると感じるたびに覚醒し、細切れ睡眠になりやすいので温度・湿度ともに心地よいと感じる環境に整えましょう」。それ以外にもラベンダーなどの安眠効果で知られるアロマセラピーや心を鎮めるメディテーション、軽いヨガやストレッチ、ぬるま湯での入浴なども入眠のためのリチュアルとして有効な方法だ。「お風呂や軽いストレッチで体を温めておくと、寝るころには深部体温が下がってきて自然と眠くなります。深部体温が下がると、体内の酵素反応の活動が静まり、エネルギーを分解する代謝も下がります。こうして脳を含む体全身が休息の状態へ向かうのです」

対して、朝の過ごし方にも夜の快適な眠りにつながる習慣があるという。

photo_Gorodenkoff Productions OU/Adobe Stock
photo:Gorodenkoff Productions OU/Adobe Stock

「朝、起きたら、カーテンを開けてしっかりと太陽の光を浴びること。交感神経が刺激され、脳だけでなく、体全体の細胞ひとつひとつに備わる体内時計に朝が来たことが伝わります。眠りのホルモン、メラトニンは朝の光を浴びた約15時間後に急激に分泌量が増加し、脳のメラトニン受容体に働いて神経活動を抑えます。それによって催眠作用が発揮されるのです。また朝食にトリプトファンを摂ることもおすすめ。トリプトファンは眠りのホルモンと呼ばれるセロトニンやメラトニンの原資となる必須アミノ酸のひとつです。トリプトファンを朝、摂ることも夜の時間に体を入眠しやすい状態に導くことに役立ちます」。トリプトファンは魚類・肉類・卵・大豆製品などに含まれ、体内ではつくることができないので食事から摂ることが大切だ。

逆に安眠を得るためにやらない方がいいことはアルコールや甘いものを食べることだと西多先生は続ける。「寝ているときは血糖値が高くなります。その大きな要因として、ブドウ糖の約2割を消費する脳の活動が大幅に低下することが考えられます。肥満糖尿病や40代後半にもなると動脈硬化を招く危険性も高まります。また就寝前のアルコールは、寝入りはよくしますが、入眠後は浅い眠りが続きますし、尿意を催すのでトイレに立つために睡眠が中断されてしまいます」

そして現代人は寝る直前までスマホを見ている人がほとんど。夜のスマホが睡眠に与える影響として何が考えられるのかと西多先生に問うと、「アメリカの科学誌『Sleep』に発表された論文によると、うつ病の発症率の上昇や対人関係での問題発生率の増加、人生の満足度の低下、罪悪感と自己批判の増加といったネガティブな症状と、夜にスマホを使用することに相関関係があったとされています。ただ、現代の20 ~ 30代の若い世代の睡眠時間はこの10年間で、1割程度増え、約8時間になったこともある調査で判明しました。これは夜、出歩くことが少なくなり、スマホを見ながら寝落ちすることが原因と考察されています。ただ、睡眠時間が長くなっているだけで、睡眠の質がよくなっているかまではわかっていませんが、自身のメンタル状態やコンテンツ内容という感情的な要因が脳を覚醒させ、眠りを妨げている可能性があります」。スマホをナイトモードにすれば使用してもいいか、という問いには「ブルーライトを弱める目的でナイトモードを使用する人もいますが、これはあまり意味がないという研究結果が出ています。脳が活性化する原因はブルーライトだけではなく、コンテンツによる心理的な刺激によるものが大きいのです」とのこと。つまり、夜はスマホをベッドに持ち込まないことが最善策だが、スマホが手元にないと不安という人は、ネガティブな内容や刺激の強いコンテンツを避けるというのが次善策になりそうだ。

また、なかなか眠れない人は睡眠薬が役に立つこともあると最後に西多先生。「オレキシンという物質が発見されて以来、以前の睡眠薬のような依存性や副作用の心配がぐっと減りました」。オレキシンとは覚醒と睡眠のオン・オフを担当する物質。覚醒中枢に働きかけることで日中、眠気が起きないように覚醒の安定化に働く。現在の睡眠薬や睡眠導入剤はこのオレキシンの働きを抑制することにより、自然な眠気を起こさせるというものだ。オレキシン以前の不眠症治療では脳活動全般を抑制する薬剤が主流だったため、記憶力や注意力の低下などの影響が出ることがあったそう。「慢性的に眠れなくなった場合は受診して処方してもらう選択肢があるということを覚えておくとよいでしょう」。夜時間を改善して、快適な睡眠ライフを送りたい。

今日から実践! よいルーティンを生み出す方法

1. 決まった時間に寝て起きることを習慣化する

フレックス勤務やリモートワークも増えてきている現代は毎日同じ時刻に起きる必要がない人も多い。しかし、できればいつも同じ時刻に起床し、同じ時刻に寝ること。シンプルだが、これが最高の睡眠習慣。ただこれがなかなか容易ではなく、習慣化を意識していないと若い人は夜型に、高齢者は朝型にシフトしがち。睡眠不足を補うための休みの日の寝坊も1時間ほどに抑えて、決まった時間の起床と就寝を守ることで自分のリズムをつくり、体を整えることから始めて。

2. 朝食を食べる、夜の食事は就寝時間の3時間前まで

起床と就寝を決まった時間に習慣化することができたら、今度は食事のタイミングを調整して。体内時計を司る時計遺伝子は体のすべての細胞に備わっている。特に朝食は消化管のスイッチをオンにする働きがあるので、朝の体をすっきり目覚めさせてくれる。寝る直前の食事はこれから活動するんだという誤ったシグナルを送ることに。しかも就寝中はカロリー消費が覚醒時に比べて低いので、太りやすくなるというデメリットも。睡眠のためには夕食は就寝時間の3時間前までに。

3. 眠れないときは悩まずに漸進的筋弛緩法でリラックス

たった5分眠れないだけでも、一睡もできなかったと感じる「睡眠状態誤認」をする人が増えている。これはベッドに入ってから覚醒しているわずかな時間に恐怖や不安感が増幅して脳が過覚醒の状態になることが要因と考えられている。対策としては、体の筋肉を8割適度の力で5秒ほど緊張させ、その後一気に脱力させて10秒ほど弛緩させる「漸進的筋弛緩法」というリラクセーション方法がある。このプロセスにより、筋肉が弛緩するだけでなく、脳神経の緊張をほぐせる。

話を聞いたのは……

MASAKI NISHIDA

東京医科歯科大学卒業、医学博士。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ科学部にて教授として睡眠や体内リズム、身体運動、スポーツとの関連を研究。著書に『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』(草思社)がある。

Text: Teruno Taira Editor: Misaki Kawatsu

※この記事は『VOGUE JAPAN』2024年11月号「夜の時間をフル活用。ビューティーな睡眠力」より転載しています。

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