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祖母はタイムトラベラー? 体の半分だけ鳥肌が立った話。漫画家・クリハラタカシが独自の視点で見た日常と、ゾワッとする非日常体験を描いたコミックエッセイ『余談と怪談』

  • 2024.11.19
ダ・ヴィンチWeb
『余談と怪談』(クリハラタカシ/ヒーローズ)

エッセイを読むのが好きだ。自分との共通項があれば「あるある!」となってうれしいし、自分が思ってもみなかった発想に触れる意外性も楽しいからだ。

絵本作家でもある漫画家・クリハラタカシ氏が日々考えたことと不思議体験を描いたコミックエッセイ『余談と怪談』(ヒーローズ)が発売になった。本作は、冒頭に書いた本稿ライターの好みからいうと後者である。クリハラ氏は、シュールな謎生物を描いた絵本『ゲナポッポ』(白泉社)や胸躍る“平凡な非日常”を描いた漫画『冬のUFO・夏の怪獣【新版】』(ナナロク社)などでオリジナリティあふれるイマジネーションで楽しませてくれるが、この『余談と怪談』も主に家族との日常のなかで、氏の不思議な感性、独特の思考に唸らされる作品だ。

そしてさらに(ほぼ)毎回のエッセイのなかには、ちょっとだけゾワッとする怖かったり不思議だったりするエピソードが入っている。このプチ怪談が、本エッセイのスパイスになっており、独特の読み心地と読後感を味わわせてくれるのである。

漫画家・絵本作家のクリハラタカシが日常で発見・新解釈したもの

クリハラ氏は妻と娘ふたりとの4人暮らし。エッセイ1話ごとに、家族のショートエピソードが複数綴られていく。とあるインタビューで読んだが、氏は「ハッとする場面や出来事」をつなげて物語を作っていくのだという。まさにそういったシーンや小話が惜しみなく詰められている“松花堂弁当”のようなコミックエッセイだ。

とにかく、そこで描かれる氏の発想が楽しくクスッと笑える、この連続である。

電車から降りて駅のトイレにかけこむと大行列。クリハラ氏は「電車は人だけではなくたくさんのおしっこを運んでいる」と考える。また、長女と次女の食べ物の好き嫌いがほとんどかぶらないことから、遺伝子には「機長と副機長が同じメニューを食べない」という航空会社の危機管理ルールがあるのだ、と思いつく。

あるとき102歳で大往生した祖母のことを思うクリハラ氏は、大正時代から祖母は100年かけてやってきている、という結論に達する。ここで描かれている「自分たちの体は精神を未来に連れていくタイムマシン」というのは極めて優れたキャッチコピーだな、と感じた。このようにクリハラ氏の発見というか新解釈に触れ、日常のちょっとした面白さに気づかされるのだ。

本当にあったゾワっとするプチ 怪談

そして、タイトル通り、少し怖くて不思議なエピソードもほぼ毎回入ってくる。

クリハラ氏の長女は妻の実家に行くと、すでに亡くなっていた彼女の祖父がそこに居るようなムーブを行う。また、少し離れたお墓の方向を見て「変な顔」と言ってゲラゲラ笑いもする。大人になると感じられないものが、幼いころだけ“見える”というのは、フィクション、ノンフィクションを問わず聞く話だ。ただ、実際に自分の子が“見える”と想像すると……ゾッとしてしまう(私の息子は怖がりで一切感じないようである)。

なお、クリハラ氏自身も、昔飼っていたハツカネズミの鈴の音が聞こえるような体験をしている。さらに、病院の横の道を歩いていて病院側の半身だけに鳥肌が立った経験をしている。しかもこのときは、病院を通り過ぎて立ち寄ったコンビニでふと手に取って開いた雑誌に「不意に体の片側だけ鳥肌が立つ」短編漫画が載っていたという。不思議なことがあったとき、そこにある本や雑誌を手に取ることはやめようと決めた……。

そうは言っても本作は、全体的にゆる~い雰囲気の日常コミックエッセイなので安心してほしい。そもそも「余談」とは本筋に関連がない内容のこと。このタイトルは「本作は人生に重要な話ではない」と断りを入れているようにも感じられる。現実に役立つ話というよりは、ただただクリハラ氏のユニークな発想を気楽に楽しむ作品なのだ。

ただ、ほんの少しだけゾワッとする非日常話が、急にゆるい日常話に紛れ込んでくるので気が抜けない。このプチ怪談はエッセイに溶け込んでいるものの、スパイスのようにじわじわ効いてくる。その絵柄と相まって、他ではなかなか味わえない読後感がある作品だ。

文=古林恭

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