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京都の美食を味わうカラス? 人外目線で描くグルメガイド『カラスのいとし京都めし』 #京都が舞台の物語

  • 2024.11.19
ダ・ヴィンチWeb
『カラスのいとし京都めし』(魚田南/祥伝社)

数多のガイドブックが京都を紹介する中で、人間以外の視点から京都をのぞいてみたら、どんな発見があるのだろうか。京都在住の著者・魚田南(うおた・みなみ)氏が描く『カラスのいとし京都めし』(祥伝社)では、京都ひいては人間の、食の貪欲さに対する愛おしさを見つけられる。

松の木の元に建てられた「専定寺(せんじょうじ)」。通称「烏寺(からすでら)」には、しゃべる烏がいたという言い伝えが残されている。好奇心旺盛で、あまりに長く生きている烏は、人間、そして人の食べ物に興味を持ち、人の姿となって空から降りてきた。

彼の名は烏丸(からすま)。今は居酒屋に勤務し、「カラス」のあだ名で親しまれ人間社会に溶け込んでいる。烏寺の居候として、寺の隠居である今井家のおばあちゃん、孫である高校生のかすみ、かすみの弟で小学生の岳(がく)、現寺住職で今井家の長男・たかひこと一緒に暮らしている。

カラスのもっぱらの関心は食だ。特に好きなのは肉の脂。塩漬け葉に包まれたさくらのマントウに、角煮を挟んで食べるマダム紅蘭(こうらん)の「さくらの東坡肉(トンポーロー)」、おばあちゃん特製の「あぶら粕の焼きそば」のおいしさに悶絶と感動。次々と美食を発見していく。人ならざるものでありながら、わざわざ人に化け、居酒屋でバイトにはげむのも食べるお金を稼ぐためだ。

また、他にも梅香堂(ばいこうどう)の「冬季限定パンケーキ」や加茂みたらし茶屋の甘味など、有名どころから地元の人が愛する一品まで、和洋中問わず毎話さまざまな美食が登場する。

全て実在の店で、著者の一言コメント付き店舗情報のほか、巻末には地図も掲載されているので、単行本はそのまま京都のグルメガイドになる。紹介されている飲食店は1巻から4巻でなんと63店にものぼる。

京都は1200年以上もの歴史をもつ古都。作中では、人ならざるものが、時に人知れず、時に人と仲良く共生している様子が描かれる。その中には、必ずしも人に好意的ではない妖(あやかし)もいる。例えば、カラスが死んだと思い込んでいた烏寺のもう1羽の烏のように。

食、恋情、誰かに生きていてほしいと思う願い。それらを通して見えるのは、人間の欲だ。“欲”といえば、人を毒する煩悩のように、人を堕落させるものというイメージがある。けれど、カラスを通して発見できるのは、欲にはとても前向きな面もあるということ。

「人間が作るもんはいつだって憧れや」「次は何かなってワクワクする!」

カラスの行動原理はこの言葉に集約される。食欲があるから、人は日々工夫を凝らし、新しい料理を生み出し、それを「おいしいね」と一緒に笑顔で食べられる。時代が変わってもおいしいを追求し続けられる。人と欲とは切り離せないからこそ、面白い生き物なのだ。

食いしん坊のカラスと一緒に、おおいなる歴史と食欲が渦巻く京都で、めくるめく美食を楽しんでみるのはいかがだろうか。

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