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十勝の自然を切り取る、ピクチャーウィンドウのある家

  • 2024.11.20
佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家

市街地から「移住」して手に入れた大自然への眺め

北海道は帯広の市街地から車で約20分。牧草地に囲まれた音更町(おとふけちょう)のなだらかな丘陵地に、きれいな長方形をした切り妻屋根の家が立っている。住人は帯広で畜産会社を経営する佐々木章哲さんと妻の詩音さん。以前は市内の集合住宅に暮らしていたが、2019年にこの家を建て、引っ越してきた。

居住空間学 ブルータス
十勝平野のほぼ中央に位置する河東郡音更町。3,000坪という建てる場所には困らない敷地にあって、家の配置計画のポイントになったのは池との関係と窓からの眺めだった。

敷地は40年前に佐々木さんの祖父が購入した土地の一角で、一角といっても佐々木さんが買い受けた土地だけで3000坪はある。

家を訪ねてまず目につくのが、敷地南側にある小さな湖みたいなひょうたん池だ。敷地内で祖父が汲み上げた地下水をそのまま流していて、「通常の生活用水より温度が高いので、温泉かも」と佐々木さん。音更町は、十勝川温泉の町としても知られている。

池を横目に玄関を入ると、真っすぐに見えるのは、対岸の丘とカラマツの防風林。リビングをはじめ、室内のどの窓からも、切り取られた周辺の景色が絵画のように見える。設計は東京のランドスケーププロダクツ。

佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
玄関から、土間のグリーンルームと、ピクチャーウィンドウが切り取った景色を見る。敷地のそばを流れる川の対岸、なだらかな丘の上には、防風林のカラマツが律儀に並ぶ。
佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
グリーンルームの一角。夫婦で育てる観葉植物の越冬には欠かせないスペースでもある。冬は富良野(ふらの)やトマムにスノーボードに出かけるという2人。ボードはすべてゲンテンスティック。
佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
グリーンルームとダイニングの間のガラスの引き戸は、フレームに厚さ10㎝の角材を使い、存在感を出した。額縁効果もある。土間はモルタル仕上げ、フローリングの床材はオーク。

「家業の畜産会社を継ぐことになり帯広に戻ってきたのですが、大学は東京で、家具屋でアルバイトをしていたんです。そこでランドスケーププロダクツの中原慎一郎さんと出会い、卒業後、アメリカに住んでいた頃も買い付けのお手伝いをさせていただいたりと交流が続きました。家具業界からは足を洗いましたが(笑)、家を建てるなら中原さんのところにお願いしたいとずっと思っていました」

1階は土間のグリーンルームと吹き抜けのダイニング、出窓のあるコージーなリビングと続き、2階は吹き抜けを挟んで南北に寝室とゲストルームが振り分けられている。端正な長方形をグリッドで分けた無理のないプランで、住み心地への不平不満は特にない。

佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
吹き抜けのダイニングから続く1階のリビング。窓辺に腰かけられるリビングの出窓は、妻の詩音さんのリクエスト。ソファはこの家に合わせた造作でダイニングテーブルはハンス・J・ウェグナーの《CH327》。
佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
2階のゲストルームから、吹き抜けを通して対面の寝室を見る。天井に天窓を開けようかと迷ったが、「開けなくてよかった。真っ白な天井が景色を生かしているなあ、と実感しています」
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吹き抜けに面した2階の廊下。家全体を通して壁の仕上げは白のペンキで、切り妻屋根の形をそのまま受けた斜めの天井も、壁と一体として白く塗り込めることにこだわった。

「住んでみて大変なことは、草刈りですかね。家の周りの草刈りだけで休日がつぶれることもあります。それなら、と除草のためにヤギを放ったこともあるし、特に手が回らない対岸の敷地は、夏の間、地元の人に馬を放牧してもらい草を食べてもらっています」

詩音さんは東京都出身。佐々木さんも市街地育ちで「田舎暮らし」はしたことがなく、経験値はまっさらな移住者と同じ。周辺には熊も出るとあって、この家に来てから迎えたビーグル犬も「熊除けになってくれれば」と冗談半分で笑う。

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煙突の左右、高い位置にある2つの開口は空を切り取るための窓。薪ストーブと並ぶ椅子は1963年に豊口克平がデザインしたスポークチェア。ビーグル犬、ピータンのお気に入り。

自然の営みは思ったより厳しい。それでも、窓を見れば四季折々の美しい景色。もうすぐ始まる新緑の季節を楽しみにしている。

佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
エアコン下に飾られた木彫りたち。頭にツノのようなものが生えている人形は北方民族へのオマージュから生まれた網走の民芸品「セワポロロ」。3年ほど前に網走市内の大広民芸店で購入。
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窓からの光がきれいなキッチン。シンク上の棚には、「置物で一番気に入っている」という十勝・足寄町(あしょろちょう)の民芸品「どんころ熊」も。自然に囲まれたこの家に住んでから鳥の置物も増えた。
佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
階段下のニッチはオーディオコーナーに。「コンセントや配線を隠したくて、設計時から階段下に収めようと考えていました」。機材はあえて古いYAMAHAのサウンドシステムで揃えた。
佐々木章哲(畜産会社社長)さんの家
2階のバスルームの窓からも池が見える。お風呂は温泉“かもしれない”地下水を沸かして使用。窓辺の陶器のオブジェは、リサ・ラーソン。北の家には北欧のデザインがよく似合う。

profile

佐々木章哲(畜産会社社長)夫婦

佐々木章哲(畜産会社社長)

ささき・あきのり/1980年北海道生まれ。70年以上続く佐々木畜産の代表取締役社長。大学卒業後、家具バイヤーなどの経験を経て、2007年に帰郷。妻の詩音さんは東京都出身。大学でフィンランド語を専攻。2人で選ぶ家具は北欧デザインの家具が多い。

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