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科学の知識があればどんな料理も美味しく作れる! ヤンキー生徒×化学教師による新感覚グルメマンガ『ヤンキー君と科学ごはん』

  • 2024.11.19
ダ・ヴィンチWeb
『ヤンキー君と科学ごはん』(岡叶:著、樋口直哉:監修/集英社)

料理上手な人の手際を見ていると、センスがあるんだぁと思ってしまうことがある。真似をしてみても同じものはできないし、それは自分の味覚が鈍いせいか、あるいは美味しいものを食べた経験が圧倒的に足りていないのではないか――つまり「料理のセンス」が育っていないのだとガッカリする。しかし、そうではない。「料理は科学」であり、すべての工程には意味と根拠があると示す作品がある。それがグルメマンガ『ヤンキー君と科学ごはん』(岡叶:著、樋口直哉:監修/集英社)だ。

主人公は男子高生・犬飼千秋。金髪にピアスで目つきの悪い彼は、まだ1年生にして、学校中で「ヤンキーだ」と恐れられている。「やばいアルバイトをしている」「喧嘩しているところを見た」などと遠巻きに噂され、千秋は校内で常に一人ぼっちだ。

しかし、千秋には周囲に見せていない顔があった。それは噂通りの狂犬……なんてことではなく、本当の彼は小学生の弟と妹をこよなく愛する優しい人物であるということだ。とある事情からきょうだい3人で生活している千秋は、弟と妹の親代わりを務めている。だから千秋にとって、「料理」も生活のひとつ。ただ、これがなかなかうまくいかない。「なんとなく」で作っているため、いつも失敗してしまうのだ。

そんな千秋に手を差し伸べるのがもうひとりの主人公・猫村蘭。化学教師である彼は、料理に苦労している千秋に対しこう述べる。

上手くできない料理とかは科学を学べば解決できるかもしれんぞ! なぜなら 調理も科学だからだ!ダ・ヴィンチWeb

こうして千秋は猫村の指導の下、科学的な知識に基づいた料理を学んでいくことになる。

オムレツがフライパンにくっついてしまう理由、カリッとした唐揚げのコツ、粒だったお米の炊き方、綺麗な餃子の焼き方……。どれもこれも、料理ビギナーであれば躓きがちな問題や気になるコツばかり。それらに対して猫村は科学的な解説をしてくれるのだが、非常にやさしく、わかりやすいのがありがたい。「なるほど、だからあのとき失敗したのか!」と、読みながら膝を打つ人も少なくないだろう。

読みどころはそれだけではない。周囲に恐れられている千秋は、猫村と料理を学ぶ活動を通じて、徐々に人間関係の輪を広げていくことになる。怖そうな千秋が実は一生懸命に料理をしている、というのはある種「良いギャップ」でもあり、それが周囲の人たちの恐怖心を和らげていくのだろう。孤立することに慣れていた彼ははじめこそ戸惑うものの、次第に同世代の友人もでき、自身も楽しそうな表情を見せるようになる。この千秋の変化にグッときてしまう。

また、千秋はヤングケアラーでもあるのだが、そんな千秋に対して、猫村は「大人を頼れ」という。小学生のきょうだいがいるとはいえ、千秋自身だってまだまだ子どもだ。誰かに頼りたくなる瞬間はいくらでもあるだろう。そんなときはひとりで抱え込まずに誰かを頼っていい、と。特に最新の第5巻で描かれる文化祭のエピソードは必見だ。校外のヤンキーに絡まれている女子生徒を助けた千秋に対して、猫村は自分たち教師を頼れ、と伝える。

当初は料理への科学的なアプローチについて教える教師と生徒という関係だったふたりだが、話数を重ねるごとにその関係が変化していく。猫村が千秋に教えてあげるのは料理の仕方だけではなく、人生をどう生きるのかだ。その目線の温かさに胸が熱くなり、同時に、こんなにも不器用で健気な千秋には幸せになってほしいと願わずにはいられない。本作はグルメマンガの枠を越えた、とても優しい人と人との交流を描いた作品なのである。

文=イガラシダイ

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