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日本女性のマリッジブルーの正体はアイデンティティ・クライシス

  • 2024.11.19

中学生の頃だったと思う。女子グループで個人的にかっこいいと思う名字を思い思いに述べ、将来はこんな名字になりたいと言い合った。
自分たちの名字が変わることは大前提。
ファーストネームと連ねたときの音の響きがああだこうだと楽しそうに妄想した。
誰1人として「配偶者にはわたしの名字を名乗ってほしい」と言わなかったと記憶している。

◎ ◎

それから15年ほどの月日が流れた。
あのとき妄想を披露し合った友人を含め、婚姻関係を結んだ周囲の同性のうち、名字を変えなかった人は1人もいない。
0%だ。
え、さすがにそれはなくない?
確かに、仕事の通称で旧姓のままという声はちらほら聞くものの、会社での公式の書類はすべて結婚後の姓に変更せざるを得ず、転職や産休・育休明けのタイミングで呼び名も切り替えたとの声もよく聞く。

暗い気持ちで内閣府男女共同参画の夫婦の姓(名字・氏)に関するデータを検索。2023年に婚姻届を出した45万人のうち、女性が改姓した割合は95%。
なるほど。周囲が0%でもおかしくない数値だ。
夫婦同姓が強制されているのは日本のみであるとは声高に言われているが、同じ家父長制の流れを汲む東アジアの中国や韓国は夫婦別姓が原則であることは興味深い。

◎ ◎

ふと思い出したのは、高校時代の仲良しグループの1人が婚約したと報告したLINEのやりとりだ。

当たり前のように「どんな名字に変わるのか」と誰かが質問する。
そして違う誰か。「もう⚪︎⚪︎(婚約した友人の旧姓)って呼べないね笑」。
本人が答える。「そうなの笑。小学生のときからそう呼ばれることが多かったから変な感じだよね」。

なんだ。

女性は精神的不安定さからマリッジ・ブルーを経験しやすいとはよく言ったものだ。
結婚によってずっと呼ばれていた名字が変わるという、男性よりアイデンティティ・クライシスの恐れがあるのだから当然じゃないか。
家族くらいからしかファースト・ネームで呼ばれたことがない人だっている。
もはや、家族から「お姉ちゃん」と呼ばれていた場合はもっとどうすればよいのだ。

◎ ◎

西欧文化とは異なり、社会では名字から呼ばれることが圧倒的に多い日本。
最近のカフェでは、商品の受け渡し時のためにオーダーすると名前を聞かれることが多くなってきた。よく聞いていると、「お名前」と聞かれても名字を答える人が圧倒的に多い。
社会から要求される構造に、人も精神も文化も形作られていく構造主義そのものの実例を見ているかのようだ。
この国は特殊すぎて、ジェンダー問題を白人文化と、西欧文化と切り離すだけでは足りない所以がここにある。日本の女性は社会的に変貌を求められるのだ。それは一見、女性自身が自主的に選び取ったと思わせる巧妙な構造をもって。

LINEの友だちリストを開いてみる。
フルネーム表記では、わたしの記憶とは直ぐに繋がらないアカウントも増えていた。
しかし、わたしの知っている名字をカッコづけし、結婚後の姓とW表記しているアカウントも数件ある。そして、ファースト・ネームのみの表記の子もいる。
なんとなく、どんなことがあってもわたしはわたしだと、そう言っているようにも感じた。ひっそりと、でも確かな意志をもって。

■chikotoのプロフィール
言葉を愛しています。 目に見えないものにこそ、重きを置いていきる東京人。

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