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祇園の街と料理を描く『舞妓さんちのまかないさん』は、読んで楽しむ京都旅行 #京都が舞台の物語

  • 2024.11.18
ダ・ヴィンチWeb
『舞妓さんちのまかないさん』(小山愛子/小学館)

青森から京都へ移り住み、舞妓たちの生活する置屋=屋形でまかないをするキヨ、舞妓になり修練を積むすみれ、おなじく京都の洋食屋で修業をする健太(けんた)、三人の幼なじみの日常風景を描いた『舞妓さんちのまかないさん』(小山愛子/小学館)。芸舞妓の華やかな世界がメインではなく、彼女らが楽しみにする毎日のおいしいご飯、厳しい稽古、すみれと健太それぞれの片思い、そして京都の季節のうつろいがゆったりと描かれている。読むとほっと一息つけ、「おかえり、ごはんできてるよ」と待っていてくれる人のありがたさを噛みしめる。そんな作品だ。

作品は実際の京都とゆるくリンクしている。町を流れる鴨川の景色はもちろん、作品に登場する寺社や軽食店を読者が実際に訪ねることが可能なのだ。

2巻、まだ見習い舞妓だったすみれが、夜にお参りしていた辰巳大明神は祇園白川のほとり、実際に芸事の上達を願って芸舞妓たちが多く訪れる場所。「100年に一人の逸材」と踊りのお師匠さんに一目置かれ、いつも明るくふるまうすみれが、真剣な顔で手を合わせる静寂な1コマは、迫力に満ちている。

すみれやお姉さん芸舞妓らがたびたび訪れる老舗喫茶店・切通し進々堂は、祇園の北側にある。芸舞妓らの名を入れた京丸うちわが壁一面を埋める店内は壮観だ。長年のわだかまりを乗り越えた芸妓の百子(ももこ)とキヨとすみれが身を寄せる屋形の「おかあさん」あずさが、舞妓時代に二人で食べたういきゅうトーストと上玉子トーストをもう一度食べる24巻のシーンは、作中でも大きな山場であり、年月を越えた二人の絆を感じさせる。

26巻では、屋形で生活する舞妓から、着物や道具などすべて自前となる芸妓へ衿替え(独立)をするか悩むつる駒(こま)が、お姉さん芸妓の駒千代(こまちよ)に相談したときに登場する甘味処は、月ヶ瀬祇園店だ。芸妓としてやっていけるのか不安を吐露するつる駒に、自らの体験を語る駒千代のセリフには、励まされた読者も多いだろう。残念ながら祇園店は閉店してしまったが、食いしん坊の駒千代が二つ食べようとした粟ぜんざいは、今でも月ヶ瀬の堺町店、髙島屋店で楽しむことができる。毎年、10~4月限定の冬の風物詩ということなので、ぜひ食べてみたい。

最後に、すみれやキヨが生活する屋形・市に触れたい。風情を感じさせる町家建築で、とりわけキヨの仕事場である台所にはモデルとなる場所が「あった」。五条烏丸にあった大正時代の町家をゲストハウスにした錺屋(かざりや)の台所がそれだ。水回りがタイル張りのかわいい空間はまさに作中のまま。しかし2021年、惜しまれつつ解体。解体前の様子は錺屋のHP等で見ることができる。

維持管理の大変さ、費用負担、所有者の高齢化などから、近年町家が取り壊されるケースが話題になっている。京都市は京町家の保全及び継承に関する条例を制定し、継承者とのマッチング制度など保全に力を入れる。文化財や景観の維持管理は京都のみならず、全国で共通する課題だ。伝統を守りたいのは誰もが同じだが、オーバーツーリズムによる町の混雑やごみ問題、芸舞妓への迷惑行為など、現実にはさまざまな課題がある。

すみれやキヨ、健太が暮らす、歴史が息づく京都の町。作品を読んで、現実の「京都のいま、これから」にも思いを寄せたい。

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