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ただ読むだけが難しい。原因がわからず悩み苦悩した中学生時代/読み書きが苦手な子を見守るあなたへ⑤

  • 2024.11.17

『読み書きが苦手な子を見守るあなたへ 発達性読み書き障害のぼくが父になるまで』(関口裕昭:著、千葉リョウコ:イラスト、宇野彰:監修/ポプラ社)第5回【全9回】 読み書きが苦手な子は40人クラスに約3人。原因がわからず学校の課題をこなせなかったくやしさ、苦しさ。障害を理解し、将来を模索し続けた日々。自立するとはどういうことか、学校や家族ができる、よりよい支援の形とは何か? そして発達性読み書き障害について発信を続け、理解を深めていくことの意味は? 言語聴覚士、また父として日々奮闘する著者が希望と決意に満ちたメッセージを『読み書きが苦手な子を見守るあなたへ 発達性読み書き障害のぼくが父になるまで』で綴ります。

※書籍では当事者へ配慮し、すべての漢字にふりがなが振られています。

ダ・ヴィンチWeb
『読み書きが苦手な子を見守るあなたへ 発達性読み書き障害のぼくが父になるまで』(関口裕昭:著、千葉リョウコ:イラスト、宇野彰:監修/ポプラ社)

努力不足? 「ただ読むだけ」がどうしてもできない

中学生になると、テストの範囲が広くなります。単元ごとにテストがあった小学生の頃は、テストに何が出るかがはっきりとわかっていたため、暗記でなんとかカバーできていたのですが、中学の定期テストではそういうわけにはいきません。

いよいよ「努力」では「みんなとの違い」が補えなくなりました。

僕がもっとも苦手な「音読」は、みんな努力しなくてもできるんだということにはっきりと気付きはじめたのもこの頃です。授業をサボりがちで成績が悪い子であっても、教科書に書いてあることを音読するだけであれば、それが国語であっても英語であってもすらすらと読みます。

ただ読むだけ――。

僕にはそれがとても難しかった。

英語の授業で、一行読んだらとなりの席の子にチェックをしてもらう課題がありました。僕は一向に進まず、となりの子がキョトンとしていたことを覚えています。まわりからどんどん置いて行かれているように感じていました。

小学校で学級委員をしていた僕は、中学でも学級委員になりました。人前に立って話すこと、複数の人の意見を調整することが好きだったため、生徒会にも立候補。部活では野球部の副部長を務めていました。

授業態度も生活態度も真面目で、一生懸命取り組んでいるのに、「ただ読むだけ」のことが難しい僕に、先生たちも戸惑っていたかもしれません。

定期テストの直前には、毎回家で号泣していました。母に「どれだけ勉強してもできないんだ」と泣きながら訴えていたことを覚えています。

母もまた、どう対応したらいいかわからず悩んでいたと思います。うすうす「何かが違う」と気付いていても、障害が原因だとは思っていません。

そもそも、読み書きが苦手な障害がある……ということを知らなかったのだから当たり前ですよね。やればできる、やり方を変えればいい、そんな風に思っていたのでしょう。

いくらやってもできないと泣いて訴える僕に対して、母は「英語が苦手なんだね」「英語と国語は計画的にやったらいいよ」と勉強に付き合ってくれました。

母は理由がわからないなりに、僕のみんなに追いつきたい、がんばりたいという気持ちに寄り添ってくれていました。やってもやってもできない自分の子の勉強に付き合うのは、非常につらかったのではないかと思います。わが子が苦しんで泣いている様子を間近に見て、打つ手がないのですから……。

長い問題文を読み解くことを要求される英語と国語は、途方もない時間をかけて勉強しました。けれど、やはり、どれだけやってもできないのです。やってもやってもできない恐怖は、今も鮮明に覚えています。この努力が無駄だったとは思いませんが、暗闇でもがくあの感覚は、もう味わいたくありません。

定期テストでは教科書に書いてある例文がそのまま出ることが多いので、教科書に書いてあることを暗記してしのいでいましたが、そうしてがんばってがんばって、なんとか定期テストで少し点数が取れても、はじめて読む文章は読むのに時間も気力もかかります。

そうなると、実力テストでは時間内に問題文を読み切ることも難しく、なんとか読み切れても読むのに力を使っていて、意味がとれません。つまりほとんど点数が取れないのです。

なぜこんなにも文章が読めないのか。どうして英語と国語だけがこんなにも、どれだけ勉強しても身につかないのか、学校の先生に相談することもできませんでした。

塾の先生からは問題の解き方のアドバイスをもらいましたが、テクニックでカバーできることには限度があり、定期テストと実力テストの成績が乖離する理由についてはわからないまま。みんなは家で自分以上に努力をしているのだ、だからもっとがんばらないと……という強い意思が崩れていったのもこの頃です。

過去の自分の努力、そして母のしてくれたことに対して、後悔や怒りはありません。

どれだけ結果につながりづらい努力だったとしても、がんばりたいと思ったことをギリギリまでがんばれる環境を用意してくれた母には感謝しています。

けれどもし、今、言語聴覚士として支援をするならば、この結実しづらい努力はおすすめしません。がんばったことへの成果が出ない悔しさは、「がんばってもできないんだ」という諦めにつながりかねないからです。

では、どうすることが最良なのか?

それは、さまざまな方法を提案することだと思います。

たとえばテストでは、問題文にふりがなをふってもらえる支援があるよ、ひらがなで解答してもマルにしてもらうことができるよ、英語と国語は別の教室で問題文読み上げ方式で受けられることもあるよ。こうした方法を選択することができれば、勉強の仕方も変わるはずです。

教科書の例文をただ暗記する時間を、物語の流れや登場人物の心中を考える時間にすることができます。音から英単語を覚える時間にすることだってできます。

こうした内容をお伝えすると、結果がすぐ出る方法に決めてあげたくなるのではないでしょうか?

ただ、ここはガマンのしどころで、保護者や支援者ができるのは、選択肢の提示までです。子どもには子どもの考えがあり、がんばりたいという思いがあります。さまざまな選択肢があることを知った上で、それでもがんばりたい子に対しては、がんばりを見守る。もうこのやり方ではがんばれない、がんばりたくない子には、新しい選択を後押しする。その見極めが大切です。なかなか難しいんですけどね……。

大人のみなさんもひとりで抱え込まないようにしてくださいね。

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