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東京の高層ビルで働く「かっこいい女性」に満たされなかった理由

  • 2024.11.17

東京で働く女性はかっこいい。高いヒールとオフィスカジュアルを身に纏って、高層ビルに出勤。エレベータの押すボタンは最上階。出社したらパソコン片手に会議に出る。お腹が空くと先輩とランチに行って、夜はキラキラ光る街を背に「今日もがんばったー!」って帰路に着く。

東京で働く女性はかっこいい。なんとなくかっこいい。ドラマの見過ぎかもしれないけど、かっこいいイメージ。だから私は目指した。

◎ ◎

大学3年の就活。企業説明会で見た社員さんは輝いていた。どこの会社の人も、素敵な大人に見えた。私の大学は大阪にあった。だから周りの友達を見ると、大阪で就職活動を終えている子が大半。でも私は東京がよかった。一人で東京まで説明会にいった時もあった。だってかっこいいもん。東京で働く人。

東京勤務以外にも、叶えたい条件はまだあった。会社を選ぶ時は高層ビルの中で働けそうなところにした。なんだかそれが譲れなかった。求人票の会社概要のところを見て、会社の場所がビルのできるだけ上層階かどうか、なんてことも確認した。

社会人2年目。私は目指していたところに到達していた。都内のビルの最上階で仕事をしている私が、確かにそこにいた。

働くという世界を知らない大学生の私が考えていた「かっこいい働く女性」の条件。いつの間にかクリアしていた。でもそこに立っている私は全然かっこよくなかった。なんだか空っぽな気がした。

◎ ◎

あんなに憧れていたビル最上階勤務。いざ仕事が始まると、見つめる先はパソコンの画面。加えて、窓際の席ではなかった私。高層階から外の景色を見るのは、トイレに行く時くらいだった。正直自分が10階にいようが50階にいようが、何も変わらない。

最初は楽しかった会社の人とのランチ。いつからか味がしなくなった。気を使いながらのご飯はあまり美味しくなかった。

早く大人になりたくて揃えたキレイめの服たち。だったのに、クローゼットに入れると、無難なブラウスとスカートにしか見えなかった。自分の本当に好きな系統の服はどんどん奥に追いやられていった。

私が「かっこいい!」と思い描いていた場所に立ってみてわかった。案外気持ちが満たされていないことに。

◎ ◎

ある日、仕事がテレワークに切り替わった。自宅が職場になった。そこにはかつて憧れていた、ビルの最上階という条件もなければ、ヒールで歩き回れる床もない。でもなんだか毎日が満たされていた。

例えば、休憩時間。頭をすっきりさせたくてちょっと外の風を感じてみる。オフィスで仕事をしていた時はこれが難しかった。ビルの最上階ともなると、窓を開けられないからだ。もし「ちょっと外にでてくる」となってもエレベーターで時間をかけて下りないといけない。めんどくさかった。だからそんなに頻繁に外に出るなんてできなかった。それが今、自由にできる。すぐ外の空気を感じることができる。幸せだ。

服は好きな服を着る機会が増えた。自宅が職場となるとみなりを整えて、無駄な背伸びをしなくてよくなった。好みじゃない服を買う回数が自然と減った。無駄遣いしなくなった。

お昼ご飯は一人で食べることが増えた。人目を気にしないで自分の手料理を食べる毎日。
美味しいなと、満足できた。

勝手に自分で条件を設定して作り上げた「東京で働くかっこいい女性」の偶像。近づいて分かった。そこに私らしさなんてないことに。

きっと私はもう、見栄を張った服で高層ビルには入らないと思う。好きな服で好きな地面を好きな時に歩く。これが今の私なりのかっこいい女性な気がする。

■みなちゃんのプロフィール
管理栄養士 │ 口から産まれた米屋のむすめ │ 食べ物が最後は胃に収まる世界を夢見る │ ラジオ「#聴くキッチン」放送中│ instagram:@mina_jp_37

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