テレビ東京アナウンサー・田中瞳の初のエッセイコーナー「瞳のまにまに」。第5回目のエッセイは田中アナが『モヤさま』で過ごした日々についてです。
日向を歩こう
2019年の梅雨が明けたころ、アナウンス研修の課程を修了した新人の私たちは、3人まとめて部長から小部屋に呼ばれました。研修の総括を早々に終えて伝えられたのは、今後の担当番組について。「早速仕事をしてもらいます。田中は深夜のミニ枠で放送する番組のロケで、ハワイに行ってらっしゃい。パスポートあるよね?」唐突に、また滔々と語る部長の様子は……今考えると恐ろしい。ハワイに行くこと以外は、嘘なのですから。ただ、当時の私に疑う余地は全くありませんでした。研修が明けて数週間後に人生初のハワイ……ミニ枠とはいえレギュラー番組が決まったことへの安堵感に包まれながらも「それが終わったらどうなるのか?」といった不安がチクチクと胸を突いてくる。それが小部屋を出てからの私の心境でした。迎えたロケ当日。ワイキキに到着後早速メイクを済ませて、なぜか『GUNS N’ ROSES』のTシャツを纏った私の、1人ロケが始まりました。正解がわからなくて、間が怖くて、カメラの前の自分は自分じゃないような気がして。これが私のレギュラー番組だというのに、終始恥ずかしがっていました。 そんな自分に嫌気がさして上手に笑うことすらできないなかで食べたハワイのかき氷。もはや何味なのかよくわからないままにリポートをしたり、下手なウクレレの弾き語りをしたりしていると、ガチャっと店のドアが開きました。その向こうに見えたのはテレビで何度も見たことのあるお2人の顔。その瞬間から、どうやら私は『モヤモヤさまぁ~ず2』という番組の一員となったのでした。できることならあの時に戻って、私の心拍数を測ってみたいものです。実は就任当初、お2人との年齢差を大きなハードルのように感じていました。私たちは完全に親と子の年齢差なのです。それに歴代のアシスタントはアナウンサーとしての経験を数年積んでから就任していて、一方の私は皆さんと比べものにならないくらい立ち居振る舞いも話し方も子どものようでした。自分でさえテレビに映る自分を受け入れ難いのだから、長年のスタッフたちは余計に違和感を感じているのではないだろうか……など、ぐるぐると思考が渦巻いていました。でもせっかく大好きな番組を担当することになったのだから、こんなふうに悩みを自覚することも、言語化することも、当時は避けていたように思います。ところが、見抜かれたのです。ある日突然スタッフから「世代間ギャップで共感できないことは絶対にあるはずなのに、田中は大人ぶって2人に合わせようとしてない? 合わせて流すんじゃなくて、わからない・知らないことにはちゃんと反応しないと逆に不自然なんじゃないかな」と鋭い指摘が(今思うと、この話こそ『モヤさま』の真髄です……!)。アナウンサーが「知らない」と発言するなんて許されないというのが私の凝り固まった考えでしたので、目から鱗でした。そして私が認めるようになった「知らない」を、あの手この手でさまぁ~ずさんとスタッフが笑いに昇華させてくれる。『モヤさま』は、そういう番組だったのです。気づけば私は、もう5年以上モヤさまチームにいます。そして番組はあと数年で20周年を迎えるらしいっす(←ショウ君風)。放送枠がコロコロ変わる流浪の番組ですが、やっていることはずっと同じなんですよね。三村さん、大竹さんと、アナウンサーが色々な街にお邪魔する。「?」が生まれたら3人で共有する。街の皆さんに教えてもらったり、一緒になって遊んだりする。そんな一日を後ろ歩きで記録するカメラマンや、どんなときも支えてくれる沢山のスタッフがいて、予測不能な旅をともに愉しむ。晴れた日には日向を歩く。季節ごとに日の長さを感じる……。このかけがえのない時間がいつまでも続きますように。
撮影/熊木優第6回(最終回)は11月25日(月)公開予定本エッセイと写真をまとめた書籍『瞳のまにまに』の発売を記念して、田中瞳アナによる自筆イラスト&メッセージ入り書籍お渡し会が開催決定!詳しくは下記ページをチェック!!