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「みんなのように読む」ができない違和感が膨らんでいく。中学生になり二次障害が発生/読み書きが苦手な子を見守るあなたへ④

  • 2024.11.16

『読み書きが苦手な子を見守るあなたへ 発達性読み書き障害のぼくが父になるまで』(関口裕昭:著、千葉リョウコ:イラスト、宇野彰:監修/ポプラ社)第4回【全9回】 読み書きが苦手な子は40人クラスに約3人。原因がわからず学校の課題をこなせなかったくやしさ、苦しさ。障害を理解し、将来を模索し続けた日々。自立するとはどういうことか、学校や家族ができる、よりよい支援の形とは何か? そして発達性読み書き障害について発信を続け、理解を深めていくことの意味は? 言語聴覚士、また父として日々奮闘する著者が希望と決意に満ちたメッセージを『読み書きが苦手な子を見守るあなたへ 発達性読み書き障害のぼくが父になるまで』で綴ります。

※書籍では当事者へ配慮し、すべての漢字にふりがなが振られています。

ダ・ヴィンチWeb
『読み書きが苦手な子を見守るあなたへ 発達性読み書き障害のぼくが父になるまで』(関口裕昭:著、千葉リョウコ:イラスト、宇野彰:監修/ポプラ社)

4.俺は天才だ、大丈夫、大丈夫

音読を回避するようになった頃の僕の口癖は、「俺は天才だ!」でした。

「みんなのように読む」ことへの難しさ、違和感を持っていたので、自分が天才ではないことは、自分がいちばんよくわかっていたのですが……。

今となって思えば、「俺は天才だ!」と言って、自分を鼓舞していたのかもしれません。

自分で言うのは恥ずかしいですが、当時の僕は真面目で明るく、お調子者な面があり、学級委員なども引き受ける、前に出るのが好きな子どもでした。

テストの点数も「それなりに」取れており、特に算数と理科が得意。友達や先生、自分の親からも「勉強ができる」と思われたくて必死だった頃です。

小学校の漢字テストは範囲も狭く、よい点を取ることもできました。

しかし、実際は100点を取ったテストで書いた字も、「字」として覚えていたのではなく、まるで絵のように、その形を暗記していただけでした。ですから、1週間後にはほとんど忘れてしまっていたのです。

どんなに「俺は天才だ!」と言って虚勢を張っても、自分の中での違和感はどんどん大きくなっていきます。

授業中どれだけ集中していても、家で教科書を開けば、そこには読むことのできない文章が並んでいます。

関口家の教育方針は「頭は帽子をかぶれればいい」だったので、宿題さえ終わらせれば、それ以上の家庭学習を求められることはありませんでした。挨拶や外から帰ったら手を洗うなどの生活における決まりはあったものの、勉強に関してはほとんどなく、あとは「犯罪はするな、人に迷惑はかけるな」と言われるくらいでした。

それは僕にとっては幸いなことだったのですが、僕自身はそれで「いい」とは思えていませんでした。みんなより勉強ができる、評価される自分でありたかったのです。

家に親戚が遊びに来て「勉強なんかいいから遊ぼうぜ」と言われると、僕は反抗心を燃やして、「いや、僕はやるよ!」と勉強机に向かっていたものです。

そのがんばりで、小学校のうちはなんとか「勉強のできる関口くん」を取り繕えていたのですが、中学になるとそうもいかなくなりました。

小学生の頃から少しずつ感じていた違和感が、はっきりと確信に変わりました。

僕はみんなとは違うんだ、そう思わずにはいられなくなったのです。

「できる、できる、大丈夫」とずっと自分に言い聞かせてきた僕自身も、だんだん「大丈夫」のトーンが下がっていきました。いくら自分に言い聞かせても、「大丈夫じゃない」。

できることと、どうしてもできないことの差を受け止めきれず、焦りにより冷や汗が出たり動悸がするなどの身体的な症状が出はじめました。

音読回避のための嘘、そしてこうした体への影響。これらは二次障害といわれるもので、発達性読み書き障害に限らず、発達障害のある子に多く見られます。

二次障害は社会的な病です。社会の中で自分らしさが認められず、本当の自分を隠さないといけない状況に追い込まれて起きるものです。

そもそも発達障害は、人が持つさまざまな特性の一部が強く、社会生活において支障が出ている場合に「障害」とされます。特性が強く出ていても、社会生活でなんの支障もなく、周囲からその人らしさとして受け入れられている環境では障害にはなりません。

文字で評価される学びの環境において、読み書きが苦手だという特性は障害となります。そしてさらに、その障害を理解されていない状況の中では、自分の困り感を隠すことしかできず、二次障害へとつながっていきます。みんなが発達性読み書き障害の存在、読み書きにも得意・不得意があり、どんなに努力をしても同じようにできないことがあると当たり前に知っていたら……。「知ってるよ」「隠さなくて大丈夫だよ」「きみに合うやり方で勉強しよう」そう言ってもらえる環境であれば、二次障害は起きないのではないでしょうか。

『「うちの子は字が書けないかも」と思ったら』で、宇野先生がLD・ディスレクシアセンターにやってきた「とにかく明るくて元気な子」のエピソードを書かれていました。

LD・ディスレクシアセンターに相談にやってくるお子さんの多くは、自信を喪失しておどおどしている(精神的にダメージを受けていて二次障害が出ている)子が多いそうです。そんな中、とにかく明るくて元気な子。そのお母さんにご家庭での様子を聞くと、お父さんが「勉強しなくていい」「自分も苦手だったから大丈夫」「苦手なのはお前のせいじゃない」「無理して苦手なことをしなくていい」と全面的に受け入れているということがわかった……というのです。

周囲にありのままを認められ、受け入れてもらえることが、子どもの精神的な安定につながるということがよくわかる一例です。

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